第139話 秘密基地。
ナンオウから少し距離がある小山の中。以前はちみつが欲しくて入ったあの洞窟である。白蜂はほぼ殲滅済みなので洞窟内には魔物の存在はゼロ。ついでとばかり色々細工してあるから、
木々の合間を抜けて洞窟の入り口が見えるとねずみ系の魔物がひょっこりと顔を出す。
「チュチュー」
「門番ご苦労様」
僕を見上げるように体を伸ばした番犬ならぬ番ねずみに声をかけると首を振ってうなずいて見せる。
「チュッ」
モリーのお陰でねずみ系の魔物がお手伝いしてくれるのだ。ありがたや。手のひらを寄せるとちょんと乗っかったねずみの頭を撫でて労った。
「中に人が来てるかな?」
「チュー!」
返事をして手のひらからジャンプで降りると振り返りながら走り出したねずみを追って僕らは洞窟の奥へ進む。殆ど分岐のない道を小走りに行くと、ざわめきが聞こえてきた。むき出しの岩と土の道が整った滑らかなものになっていく。僕がちょいちょい土魔法で作った舗装路…それよりもっと洗練されたものになってる。…街の大工さんが土魔法でやってくれたのかな。
皆がいる。確信を深めて少し肩の力が抜けるけど足はますます早くなる。最奥の大きく開けた場所に出ると設置しておいた魔道具のお陰で一気に明るくなり、ねずみが大きな鳴き声を出す。
「チュチュチュー!」
「お、ネズキチどこ行ってたんだ、よ…」
答えて振り向き瞠目した人の腰に抱きついた。
「…ガザシ父さんっ」
「っ、無事だったか…!」
瞬間、呆然とした後抱き締めてくれたガザシ父さんの目の端には光るものがあったけど気づかないふりをしておく。
「ガザシ父さんこそ、無事で良かった…」
「おう、お前の魔道具のお陰で助かった…ありがとうな」
しばし僕らは互いの無事を確認するようにじっと立ち尽くした。
一面のハニカム構造は魔物を倒した後きれいに掃除して住人の寝室となっている。白蜂の大きさは成人した人間二倍ほどもあったのでハニカム構造のひとつがワンルームほどの広さでちょうどいいのだ。登り降りのはしごなどをかけてひとつおきに部屋が並ぶことになった洞窟の最奥は街ひとつぶんの人間を余裕をもって迎え入れていた。
土魔法が使える街の大工が多少手を入れたこともあってか広場のように中央にはそれぞれに屋台のような骨組みを使った簡易の店もならび、岩壁から涌き出るきれいな水もあり不便はなさそうだ。ひとつ贅沢を言うなら明かりはすべて魔道具によるものであり太陽光がないことぐらいだろうか。ただこれについてはシェイドさんが喜んでいるため当分このままであろうと思う。薄暗い場所は闇の精霊にとって居心地がよいものらしい。
洞窟の回りは僕とカインさん、それに…デリカ先生が入った時にほぼ殲滅していたためかゾンビ魔物のわきもなかったという。想定通りの安全な避難場所であったと言っていい。ナンオウよりは狭いだろうし窮屈を強いているかと思ったけれど皆の顔は強張りもなく柔らかで僕はホッと胸を撫で下ろした。
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