境界のすず

夕菜

プロローグ

 わたしには怖いものがある。

 学校の先生・・?

 いや、違う。

 体重計に乗ること?

 いや、違う。

 分かった。死ぬこと、でしょ?

 ・・・いや、違う。

 ・・・。

 わたしは、描きためたスケッチブックをパラパラと捲る。

 最後のページでは、光あふれる部屋の中で、天使のような綺麗な少年が微笑みを浮かべている絵があった。

 わたしが今、一番怖いことは・・・──この二つの瞳に、何も映らなくなることだ。

 そう・・・視力を完全に失うこと。

 わたしの眼帯で覆われた左目は、もう使い物にならないただのガラクタ。

 かろうじて右目は残っているけど、時々そこに走る鈍い痛みが、わたしに不吉な未来を暗示させていた。

 何も映らない世界で生きていくなんて、考えられない。考えたくもない。

 だったらその前に・・・──。



 ここは人間界から遠く離れた場所にある、どこだか分からない世界。

 そこにいる一人の女性は、手に持った小さなビンの中身を覗き込んだ。

 その中には、薬のような小さなカプセルが半分ぐらいまで入っている。

 それを振ると、それらはカラカラと音を立てた。

「あと少し・・・」

 女性は呟く。

 そう、あと少しで、私の望むものが手に入る。

 そして・・もう一度、“人間になれる”。

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