第23話
「チャリティーコンサートォ~!?」
「そう!」
「何でまた…。」
「えっとね、ぶっちゃけると今回のライブ、色んな協力者を集める必要があると思うの。」
「まぁ、そうなるな。」
「だからね、お爺ちゃんがお婆ちゃんの為に歌うっていうのも素敵な理由だとは思うのだけれど、そうは感じない人もいるじゃない?」
「その辺は人によって感じ方も違うわな。」
「でしょ?だけど、これがチャリティーだとしたら、そう思わない人も割り切れるんじゃないかなって思ったの。どうかな?」
お爺ちゃんはウ~ムと考えていた。
「一度そのチャリティーを受けるボランティアの代表者と話しをさせてくれ。」
「待ってね…。」
スマホの電話帳から名前を呼び出す。
「相手の人もね、お爺ちゃんがそれでも良いならって言っていたの。はい。」
電話をかけてからお爺ちゃんに渡した。
しばらくして受付の人が出て代表者に代わってもらう。
「あ、内藤 翔輝と申します。」
『あらあら、翔輝さん。お久しぶりですね。』
「あれ?以前にお会いしていましたっけ?」
『もう、まだボケるお年じゃないでしょう。』
お爺ちゃんはスマホを手で覆う。
「おい、歩!お前どこに電話した?」
「えっと、足長おじさん募金協会だよ。」
「な!?それを先に言え!」
「聞いてこなかったのはお爺ちゃんじゃない…。」
足長おじさん募金協会とは、不幸にして両親を亡くした子供達が、お金が原因で進学出来ないという状況を、何とか助けようというチャリティー協会だ。
実はここは、お爺ちゃんがやった伝説のチャリティーライブによって設立され今に至っているという、お爺ちゃんとは切っても切れない関係の協会だ。
それは知っていたのだけども、先に電話していた時に、最近は募金額が減ってきて困っているという話しを聞いていた。
だからこれはお互いにWin-Winの関係だと思った。
後は、主役のお爺ちゃんが納得するかなのだけど…。
二人は意外と長い時間話しをしていた。
相手の協会の会長さんは声の感じからお爺ちゃんと同年代の女性だ。
協会設立時から代表を務めているそうだ。
「いや、俺は大したことしていないよ…。」
『何をおっしゃりますか?あなたは一晩で3億近い金額を集めたのですよ?それによって直ぐに協会は動き出し、全国に展開し、その年だけで1000人近い子供達を救うことが出来たのですから。』
「俺は募金をお願いしただけで…。」
『そう言いながら毎年募金してくれているじゃないですか。私達は翔輝さんにいつも感謝しております。』
「まぁ、そう言われると照れるけど…。とにかく分かりました。資金難ということなので、今度のライブをチャリティー目的としましょう。」
『でも、今回はしっかり翔輝さんにもお金を受け取って欲しいです。スタッフの方々にもね。』
「そいつぁ駄目だ。金をもらったらチャリティーじゃない。」
『あらまぁ…。相変わらず頑固なんですねぇ。』
「どうもね、孫娘がね、通っている大学の色んな所に手伝いを依頼するみたいだし、俺がしっかりとチャリティーって奴を叩きこんでやらないと。」
『わかりました。何はともあれ、また助けていただきます…。』
「持ちつ持たれつさ。」
『ふふふ…。変わらないのですね。』
「ん?そうかぁ?まぁ、妻を亡くしてしょげていたけど、孫娘が一生懸命頑張ってくれたからね。ここはいっちょ伝説ってのを見せてやらないとって思っただけさ。」
お爺ちゃんは本格的にライブの準備を始めた。
ボイストレーニングやギターの練習、体づくりも本格的にやっている。
ダイちゃんの散歩もジョギングを混ぜているし、3匹の猫ちゃんを背中に乗せて腕立て伏せなんかもやっている。
私が作った夏野菜をもりもり食べているし、うん、健康的にも良かったかも。
体重も少しずつ、無理なく減っていってるみたい。
「みっともない腹を見せるわけにはいかんだろ。」
なんて言ってたけど、ライブとなるとやっぱ真剣なんだよね。
シンガー魂とかって言うの?そんなのが見えている。
私も負けていられないね!
まずは校長から学生自治会の会長さんを紹介してもらうことにした。
「会長の藤堂 虎鷹(とらたか)です。」
歴史に出てきそうな名前ね…。
「初めまして、軽音部の内藤 歩と申します。」
「校長も暑さでやられたのかと思いましたよ。校内でライブなんて…。」
「いいじゃありませんか!チャリティーライブですし!」
笑顔、笑顔。
こういうお固い系には笑顔で押し切るよ。
「うむ。そうだな。チャリティーと言われると手伝わない訳にもいかないかな。まぁ、やってみたいってのも正直ある。」
「そうですよー。でも、私みたいな一般の学生が大きな事をやろうと思ってもなかなかうまくいかないじゃないですか。そこで会長さんのように顔の広い御方の御力をお借りしたいと思いまして…。」
「うーん。俺も色々と忙しいんだよねー…。」
まぁ、そう言うよね。
何もないくせに。
「あのー。実は妙案もあります。」
「ん?妙案?」
「終わったら、打ち上げと称して飲み会なんかもできますよね?」
「まぁ、そういう流れにもなるかな。」
「そこに、会長さんのお目当ての人も呼んでしまうってことも、会長さんの権力を持ってすれば叶ってしまうわけですよ!どーですか会長さん!」
「ま、まぁ、考えてもいいかな。」
はぁ…。
まぁ、乗ってくれれば、もう何でもいいよ…。
「ありがとうございます!」
「うむ。そ…、そこでだな。俺は打ち上げの段取りをするから、後は、ゆ…、優秀な副会長に一任する。連絡先を教えるから後は好きな様に進めてくれ。」
あれ?何か変だぞ…。
「わかりました。」
「斎藤 遥。連絡先はコレ。」
そう言ってスマホを見せてくれた。
………。
おい、本人の写真付きアドレスなんて始めて見たよ…。
ん?あれ?まさか?
「可愛い人ですね!」
探りを入れてみる。
「そ、そうだろ!?気立ても良いし、活発で明るくて行動的で、かと言ってとても家庭的な人なんだ…。」
ふーん。なるほどねー。
そういうことか…。
「では、遥さんと進めさせてもらいます。」
「うむ、よろしく頼むよ。」
「はい!」
どうやら藤堂会長は斎藤副会長さんがお気に入りなのね。
会長と別れた後、さっそく電話してみる。
『あーもしもし!』
「あ、あの、軽音部の内藤 歩と言います。藤堂会長から紹介されまして…。」
私はライブの説明をした。
『あー!いいじゃない!面白そう!!絶対成功させようよ!!!』
本当に活発な人だ…。
『で?何に困ってる?』
「まず、宣伝が圧倒的に足りないです。後、ポスター作りと、ステージ組んでいただく方も足りないと思います。それに運営を手伝ってくださるボランティアの方々とか…。もしかしたらまだ何か足らないかも知れません…。」
『なるほど、なるほどー。お姉さんに任せときー!こっちでも色々と相談してみるよー。』
あぁ、何て心強いんだ…。
「宜しくお願いします!具体的な打合せは私もしたいので、連絡回してください。」
それからが大変だった。
電話がじゃんじゃんかかってくるんだもん。
『宣伝頼まれた新聞部なんだけど…。』
「はい!校長の許可は貰っています。とにかく大学内はもちろん、SNSを活用してどんどん広めて欲しいのです。」
『ポスター作成を副会長より頼まれました写真部です。』
「お爺ちゃんの写真が必要だから、演出とか含めて何か良い案はないでしょうか?」
『何だか舞台作ってくれって頼まれたラグビー部キャプテンだけど…。』
「あぁ、助かります!8月29日が本番なので、組み立て方はプロの職人さんにも声をかけていますので…。」
『あぁ…、結局運営手伝えって祖父に言われて…。仕方ないから演劇部は裏方手伝わせてもらうよ…。はぁ…。』
「佐々木部長!頼りになりますぅ~。」
『合唱部だけどバックコーラスとかいる?』
「ちょっとお爺ちゃんと相談してみます。」
『音響とかやったげるよ。あぁ、放送部だけど。照明?ちょっと知り合いに声をかけてやるよ。』
「すみません、宜しくお願いします。何か必要な機材とかありますか?」
『電気工作部と申します。何やら照明演出が必要だとか?』
「はい!派手で凝った演出までは必要ないです。いけそうですか?えっ?マイコン制御?」
頭がパンクしそう…。
だけど、だけどここが山場だよね。
これらをこなしながらバンドの演奏も練習している。
お爺ちゃんは歌う楽曲を12曲と決め、私達に3曲やれと言ってきた。お爺ちゃんはそもそもデビューしてから引退までが短かったから作った曲数もそんなに多くないかな。
それでも私達の3曲というのが逆に大変。
色々と案は出たけど、オリジナルとして出せそうな曲はカズちゃんがテレビで歌ったのぐらい。
後2曲はカバーでいくしかないね。
それらを絞り込んで繰り返し練習していく。
その間にも色んなところから電話がかかってきたりと、もう何が何だか…。
斎藤副会長が動き出してから二日目には商工会、三日目には町役場から、四日目には県から電話がかかってきた。
おいおい…、いったいどこまで広がっていくの…?
カズちゃんからの情報だと、非公認ファンクラブは蜂の巣を突っついたような騒ぎになっているらしい。
デマじゃないかとか、アンチの工作だとか情報が錯綜しているみたい。
何だかだんだん話しが大きくなっていくよ…。
だけど忙しさが色んな不安を消してくれた。
私はとにかく走り続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます