粘膜

「水族館」「シュナプス」「胡瓜」

 

 胡瓜のような顔だと思った。別に緑色の顔面なわけでも、異様に細長い顔ってわけでもない。イメージだ。イメージは私から発散される身勝手なもので正確性なんてまるで意味がない。記録的写真と芸術的写真の違いのようにハッキリと言葉では表せないが、私の中にある小野美麗のイメージは胡瓜で揺るぎようがない。その胡瓜が私の腕の中で切なく喘いでいる。私が動く度に胡瓜も喘ぐ。喘ぎ声に合わせて揺れる乳房と、淡く上気した頬が艶やかに光っている。私は、水族館の巨大水槽の中で戯れる魚達を眺めるように艶やかな肢体を弄ぶ。優しく突き出して静かに引いて、絡み付く粘膜を地肌で感じる。避妊具を着けないのは美麗の望みだ。そして、それが何を意味しているのかも知っている。だからこそ私は水槽の中を游ぐ魚達を眺めるようにどこか引いた場所から美麗を見詰める。俯瞰した感覚で胡瓜のイメージを抱く。美麗という存在が正体を無くすまで私は彼女を突き放し、必要な時だけ抱き寄せる。一見、矛盾しているようでも、それは間違いなく私の愛情で昨夜飲んだシュナップスと同じだ。バーテンダーは日本には馴染みの薄いドイツの珍しい酒だと言ったが、希少価値など私には必要ない。酔いたいから酒を飲み、愛したいから美麗を揺らす。シュナップスである必要も、美麗である必要もない。それでも、不思議にそれらを手離せないのは美麗を胡瓜と感じるからで、曖昧模糊とした私のイメージが美麗の絶対的な価値を計らせないからかも知れない。私は最後の昂りを感じて美麗の中に私を解き放った。



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