続、毒

娘は自分の部屋を眺めた


ずっとずっと側にいた

優しい老婆はもういない

無様に潰れた赤い林檎は

冷たい床に果汁を広げる

会ったばかりの青年は

青い顔をして倒れている


わからない何が

どうしよう何を


ぐるり


混乱


涙がにじむ


苦しげに

呻く男の上体を

優しく

娘は抱き上げた


顔色は悪く

手も震えて

熱もあるのか

汗がすごい


死ぬの?


娘は問うた

王子は薄く目を開けて

娘の涙を優しく拭う


死なないよ

毒には慣れてる。慣れさせられてる

本当は貴族ではなく王子だから

大抵の毒は飲まされた

だから

大丈夫

僕は

死なない

こんな悲しい世界に

貴女を残して

死ねない


貴女が

何者でも


そう言い王子は気を失った




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