第弐拾参話 【3】 第十地獄突破

 僕の白金色の炎は、相手の負の感情を糧にして燃えていきます。

 だけどやっぱり、十極地獄の最後の鬼、鉢頭摩には全く効かなかったです。腕を振り払って、僕の炎を消しちゃいました。それなら……。


「ふぅ……全く。僕じゃ無かったら、今のでやらーーうわっ!?」


「避けましたか」


 尻尾を槍みたいに硬くして、それで鉢頭摩を貫こうとしたけれど、あっさりと避けられちゃいました。やっぱり動きが速いです。

 だけどこっちも、まだ尾は2本ありますよ。1本避けたからといって、3本の尾の攻撃はそう簡単には……。


「ちょっとちょっと! 流石にそれは、手数が多いよ」


「そう言いながら、簡単に避けないで下さい!」


 僕だって本気で攻撃しているのに、全く当てられない。だけど、慌てたら駄目です。慌ててしまったら、相手の攻撃を見過ごしてしまいますからね。


「つっ……!!」


 ほらやっぱり。隙を見て、僕の横から思い切り蹴りを入れてきましたよ。

 僕の尻尾を避けていたと思ったら、一瞬その姿が消えたんです。だから僕は、咄嗟に相手の気配を察知して、防御体勢を取りました。


 腕が折れるかと思う程の衝撃だったけれど、何とか防げましたね。痛いとか、そんな事を考えている暇も……。


「あれ? 砕けていないね。まぁいいーーやっ!」


「ぎゃんっ?!」


 すると、僕が自分の腕で、鉢頭摩の蹴りを防御した瞬間、相手はその僕の腕を土台にしながら踏み込んで来て、思い切り頭を殴られました。ついでにそのまま、逆の足で顎を蹴り上げもされました。


「がっ……!? あぐっ!!」


「う~ん、砕けないねぇ」


 残念、僕はそんな簡単に砕けないよ!


「ぷっ……! う~舌噛んだ。血が……もう、流石の僕でも怒るよ」


「ふ~ん。怒るの? ということは、今までは怒っていなかったの? 僕の事を、そんなに甘く見ていたの?」


 そう言いながら鉢頭摩は、その目玉のない黒い目を、僕にギョロっと向けてきました。それだけで怖いってば……。


 それと、またさっきのようにして、僕を動けなくさせる気でしょうけど、この状態の僕には、そんなものは効かないよ。

 さっきのも、僕がこの状態になったから解除されたのですから。


 そうなんです。あれは、呪術に近いものでした。

 だからこそ、何もかもをも浄化する僕のこの姿では、その能力は意味を成さないんだよ。


「潰れろ」


「……えっ? しまっーー!! くっ……!!」


 だけど鉢頭摩は、僕を睨みつけたままそう言ってきました。その瞬間、僕の体が異様に重くなっていく。

 違う……これは、空間が押されているんだ。僕を空間ごと押し潰す気ですか?! なんて能力なんですか。


「うぐぐ……!! つぅ……はっ!!」


 それでも僕は、白狐さんの力を最大限まで使い、何とかその場から脱する事が出来ました。そのついでに……。


「ちぇ~今のは決まったとおもっーー?!」


 その場から移動した後に、地面を思い切り蹴って、鉢頭摩までの距離を一気に詰めると、そのまま腕に付けた火車輪でブーストをして、その鬼の顔を力一杯ぶん殴りました。


「……つぅ、いったいなぁ」


「耐えるんですか、これを」


 他の妖怪とか妖魔なら、人形のようにして吹き飛んで行くんですけど、鉢頭摩は足を地面にしっかりと付け、後退りながらも僕の攻撃を耐えました。


 でも、これくらいでやられるとは思っていなかったので、そのまま追撃です。


「がっ……?!」


「狐火、散火さんか


 腕に付けた火車輪でブーストをする時、僕は自分の手に、白金の炎を纏わしていました。それを鉢頭摩に付けていたのです。種火のようにして、気付かれないようにね。

 そして僕は今、それに合図を送るかのようにして指を弾き、それを爆発させているのです。次々と、休む間もなくね。


「かっ……!? あがっ!! ちょっと、なにこれ!!」


 攻撃の手は緩めませんからね。このまま追い詰めます!


「白金の浄火槍!」


 そのまま僕は、3本の尾に白金の炎を纏わせ、それを槍のようにすると、鉢頭摩目掛けて突きました。

 だけど、相手もそう簡単にやられるわけにはいかないから、かなり対抗してきました。


「ちょっ……とぉ!!」


 僕の3本の槍の尾を、2本の腕だけで受け止め、掴んできました。

 動体視力も凄すぎますね。しかも、そんなに強く掴まれたら、流石に痛いってば。


「ちょっと! 乙女の尻尾、そんなに強く握らないで!」


「君が出して来たんでしょう? 何を言っているの?!」


「それでもね、掴み方ってあるよね!? 離して……下さい!」


 僕の言葉を聞かない鉢頭摩は、僕の尻尾を強く引っ張ってくるけれど、僕はそのまま引っ張られておきます。勢いに乗って、相手に攻撃をする為です。


「甘いよ、狐のお姉ちゃん!」


 それは読まれていたらしく、僕のパンチをしっかりとその手で受け止めてきました。

 でもそうなると、今鉢頭摩は、僕の尻尾を片手で全部掴んでいる事になりますよね? 片手で掴んで押さえられる程、僕の尻尾は弱くないですよ。それと……。


「もう一回! 白金の浄火槍!」


「いっ……?!」


 僕は1人じゃないんですよ。僕は、2人います。

 実は、既に分け身を使っていて、隠れてさせて隙を伺っていたのです。


 そして、今さっきようやく、その隙を見せてくれました。

 本体の僕にかなり集中し始めていて、周りの確認が出来なくなっていました。だから、そこを突いたのです。


「痛いなぁ! もう!!」


「ぐっ!」


 これでも鉢頭摩は怯むこともなく、分け身の僕の顔を裏拳で殴りつけてきました。そしてその瞬間、分け身の僕の体が崩れていきます。


 やっぱり、砕く能力のある鉢頭摩相手には、分け身を使って戦うのはあんまり効果がないようです。

 それでも、隙を突くには十分だし、狙っても良いんだけれど、今のでかなり警戒されちゃいましたね。


「ふぅ。狐のお姉ちゃん……今のはちょぉっと、油断しちゃったよ。僕に傷を付けたのは、お姉ちゃんが初めてだよ」


「そうなんだ。それは良かったよ。それならついでに、もうやられてくれませんか?」


「は? 何言っているの? 勝負はまだ、これか……ら……って、何それ?」


「もう勝負は着いたよ。君が一生懸命僕を攻撃している間に、僕は自分の妖術を吸収し続けていたんだよ」


 だから、連続でも2つくらいの妖術しか出せなったのです。その為に、分け身を使ったのもあります。


 そして僕は、術式吸収で溜めていた妖術を解放します。


「強化解放。火車輪、白金の煉獄百環れんごくひゃっかん!」


「えぇ……?」


 そうです。火車輪で展開した炎を吸収していたのです。

 そしてそれを解放し、100個程の白金色の炎の輪を生み出しました。


『つ、椿ちゃん……す、凄い』


「ぬぅ……いつの間にこんな……」


 僕達の戦いを目の前にして、既に援護が出来ないと思っていた皆は、僕の展開したこの大量の炎の輪を見て、呆然としています。それでも、カナちゃんとおじいちゃんは声を出していますね。


 白狐さん黒狐さんにいたっては、口を開けてポカーンとしちゃっています。それ、完全にまぬけ顔ですよ。可愛いですね。


「よし。暴走も大丈夫! それじゃあ、いっけぇぇ!!」


「うわわわわっ!!?? ちょぉ~っと! これは……流石にぃ……!!」


 そして僕は、その100個の炎の輪から、レーザーの様な白金色の熱線を、鉢頭摩に向けて次々と照射していきます。


 流石にこれは、そのまま受けるとマズいと思ったのか、鉢頭摩も走り回りながら避けまくっています。

 だけどそれも、君を仕留める最後の攻撃を、確実に当てるものなんだよね。


「狐狼拳ーー」


「はっ……!? しまっーー!」


 もう遅いですよ。逃げ回る君の動きを捉えて、僕は既に、君が避けられない位置に移動をしました。


 そう、君の懐です。


 そして、展開している右腕の火車輪から、白金色の炎を逆噴射して、ブーストさせます。

 もちろん、その炎を腕と手にも纏わせ、その威力を増加しています。


 お願いだから、もうこれで倒れて下さい!


「白金のあぎと!!」


「うぎっ……?! ぁ……っ」


 僕はそのまま、炎を纏わせた拳を、相手の顎にクリーンヒットさせました。相手をダウンさせるにはやっぱり、お腹よりも顎なんです。

 そして鉢頭摩は、そのまま大きく大の字になって吹き飛び、その先で倒れ込みました。


 やった……のかな?


 体が痙攣してピクピクしているし、多分やったんだと思います。


 倒した……最後の鬼を、何とか倒しました!

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