第拾話 【1】 メイド椿の特別サービス

 それからどれだけの時間が経ったでしょう。


 僕はメイドの姿で、第四地獄の管理者、奈呵の出した扉から出て来ました。

 何をしていたかは聞かないで下さい。恥ずかしいですから。


 そして、僕が扉から出て来て見えた光景は、皆がヘトヘトになって座り込んでいる光景でした。


 あれから僕達は、この鬼に攻撃をする方法が見いだせず、一旦お金を稼ぐ事にしたのです。当然、この鬼から徴収されながらです。

 徴収は一定額で全額じゃないので、根気よく働けば何とかなっていました。ただ、僕だけ桁が違っていたので、正当な方法では無理でしたけどね。


「皆、頑張っていたんですね。ごめんなさい、遅くなってしまって」


『おぉ、椿よ。戻ったのか!』


「椿の、メイド喫茶で働く様子、撮りたかった……」


 白狐さんが僕の姿を見てそう言ってくる中で、雪ちゃんだけ変な事を言ってきました。

 傷だらけな所をみると、普通のカメラマンじゃないよね? 雪ちゃんがやっていたの。


 すると、金の金棒をじっくりと眺めながら、それを丁寧に磨いていた奈呵が、僕に向かって挑発してきます。


「えらく稼ぐのが早かったな。何をした? まさか、特別な奉仕でもしたのか? はしたない奴だな」


『なっ! 椿、まさかお主!』


『体を……?!』


「そんな事するわけないでしょう!! でも僕にとっては、それに匹敵するほどに恥ずかしかったですよ!」


 そのお陰で、1億円は稼げましたよ! 


「ふふ、うふふふふ……この僕の1回の攻撃は、さっきまでの屈辱も合わさっていますよ。それこそ強力ですからね……」


『つ、椿が壊れとる……!』


「ほぉ。面白い、それならば打ってみろ! その攻撃を! それをこの俺様が受け止め、再度その地獄におとーーさらばぁぁああ!!」


「御剱、神威真斬かむいしんざん


 そんな金の金棒で防ごうとしても、空間ごと割るこの斬撃は、どんな物でも防げませんからね。


「おっ、ごぉ……馬鹿……な。こんな、攻撃……10億にするべきだった……」


「金額設定が甘かったですね」


 確かに、10億は多分無理でした。1億だから、まだ何とかなったんです。

 だけど、それでも相当キツかったですよ。地獄の鬼さん相手に、あんな事を……。


『おぉ……椿。いったい、なにがあったんだ?』


 一撃で敵を倒した僕に向かって、黒狐さんがそう言ってきましたね。それ、言わないと駄目なんですか?


「黒狐さん。出来たら言いたくはないです」


『そうか。という事は、やはり体を……』


「違うってば!!」


『それならば、何をしたか言ってくれ。そうしなければ、我も嫉妬で何をするか分からんぞ』


 うぅ……白狐さんまで。そうですか、言わないと駄目なんですね。もう僕は諦めて、皆に自分がやった事を話します。


「つ、追加サービスです……」


『ん?』


「だから、追加サービスだってば! メイド喫茶でのサービスの他に、僕だけの追加サービスをして上げていたんです!」


『なっ……!? それは、やはり体を……むぐっ?!』


「だから、していないってば!」


 な~んで必ずそんな方向にいくんですか!

 そんなの、健全なお店じゃなくなっちゃいますよ。とりあえず白狐さんのお口を、僕の影の腕で塞いでおきます。


「ちゃんと健全なものですよ。それでも鬼の皆は、馬鹿みたいに食いついて来て、最終的には行列が出来ちゃいました」


『だから椿ちゃん、いったい何をしたっていうの?』


 これを口で言うのも大変なので、その時に使った看板を取り出して、皆に見せました。


『椿ちゃん特別サービスメニュー♡


 頭なでなで 

 1000円~(追加メニュー有)


 ※追加メニュー 

 癒やしの囁き声+500円

 膝枕+1000円

 大人バージョン+1000円

 巨乳大人バージョン+1500円


 椿ちゃんが食事を食べさせてくれる 

 2000円~(追加メニュー有)


 ※追加メニュー 

 食事をフーフーする+1000円

 膝枕+1000円

 手料理に変更+5000円

 恋人っぽく+10,000円


 全てのサービスが受けられる、こちらのメニューがお勧めです!


    全サービス付き 2万円


        待ってるね、ご主人様♡』


 それを見た全員、直ぐに固まっちゃいました。

 そして僕は、顔が熱くなっちゃっています。これ絶対、顔が赤くなっているはずです。


 仕方が無いんです。普通にメイド喫茶で働いても、とてもじゃないけれど、そんな直ぐには1億円なんて貯められないですよ。この方法でしか……無かったのです。因みにこの看板は、完全に自作です。


『椿よ……これはまだ有効か?』


「ちょっと白狐さん! 今はそれどころじゃないでしょう?! それと雪ちゃんも! 諭吉さん2人出して来ないで下さい!」


 地獄の鬼さん達と同じ事をしないで下さい! 全員迷い無く、この2万円のメニューを選びましたからね!


 それにね、もうしばらくこれはやりたくないです。例え全員が2万円を選んでも、単純に計5千人にやらないといけないんですからね。大変どころじゃなかったのです。少し休みたいくらいですよ。


 因みに、雪ちゃんが2万円を持っていたのは、扉の先で働いていた報酬だと思います。

 報酬はATMに自動入金され、そこから奈呵が一定額を徴収していました。


 とにかく、僕が説明をした後に、僕達の服装が一瞬で元に戻りました。奈呵を倒したからでしょう。


 もう2度と、僕はメイド喫茶では働かないですからね。

 それと、鬼さんの頭を撫でるのも、もう勘弁です。ゴツゴツしていて、髪もゴワゴワしていて、角がたまに当たって痛かったのです。


「ちょっ……!? ね、姉さん?! 何で自分の頭を撫でるっすか?!」


「ん~っと、手に残る嫌な感触を忘れる為です」


 お仕事をするのって、大変なんですね。とくに、あの喫茶店は大変でした。

 そう考えると、人間の人達は本当に苦労していますね。僕、妖狐で良かったです。


 その後は当然、雪ちゃんの頭も撫でて上げて、そして下に降りる階段へと向かいます。


 これで4つ、あと6つですか。


「ところで、酒呑童子さんはいつまで寝ているんですか?」


『ふむ。確かに、一向に起きんな……』


 今度は、黒狐さんに引きずられている酒呑童子さんを見て、僕はそう言います。

 もしかしてだけど、本当は起きている……なんてわけないですよね?


「レイちゃん。酒呑童子さんの鼻と口塞いで」


「ムキュッ!」


 そう思った僕は、レイちゃんに指示を出し、酒呑童子さんの鼻と口を塞がせます。でも、酒呑童子さんは起きてきません。このままだと、窒息死しますね。


「本当に寝てる……」


『まぁ、しょうが無い。こいつを運ぶ役は俺達がやるから、椿は地獄の攻略に集中するんだ』


 白狐さん黒狐さん、すいません。変な役をやらせてしまって。でも、引きずっているのを楽しんでいそうなので、別に良いかな?


 そして僕達は、次の階段をゆっくりと降りていきます。


 次の地獄は、いったいなんでしょう? 一般的な地獄とは違うので、逆に怖くなってきます。


「ふふ。椿のメイド姿……頭なでなで。収穫収穫」


「雪ちゃんは僕との絡みがあれば、例え地獄でも幸せなんですね……」


「その通り」


「自信満々に言わないで下さい!」


 次の地獄に向かうというのに、雪ちゃんだけホクホク顔ですからね。地獄を進んで行く者の顔じゃないってば……。


『あ~でも、雪。ちょっ~とここのアングルが……』


「カナちゃんもですよ!!」


 早く僕の子供として産んで、その性格を直して上げたいです!

 ということで、次に子供が出来やすい日は……えっと、来週かな? うん、良し。それならば……。


「白狐さん、来週子作りしよう」


『ぬぅっ……?! ふっ、ふぅ。また同じ事を言うか。しかしな……』


 あっ、今度は耐えた。だけど、僕は容赦なく続けますよ。今回は、分かって言っていますからね。


「うん。だからそれまでに、白狐さんの体を、本来のちゃんとした肉体に戻そう」


『いや、しかしあてが……』


「あてならあるんで」


『ぬっ……』


「え? 嫌なの?」


『…………』


「わぁ!! また気を失いそうにならないで下さい!」


 僕のこういう発言には弱いんですか? 今度はちゃんと意味が分かって言っているんだから、凄く恥ずかしかったし、物凄く勇気を出したんだから!

 それなのに、気絶しないで下さいよ。すると、僕の肩を黒狐さんが突いてきます。


『椿。何故、白狐だけだ……?』


「えっ? だって黒狐さんには、妲己さんがいるし。うん、そうだね。妲己さんも早く助けないとね」


『…………』


「あ~!! 黒狐さんまで!」


 そんなにショックだったんですか?! 2人とも、もうちょっとしっかりして下さい。


「椿様。一応、もう少し真面目にお願いしますね……敵地ですので」


 ほら~龍花さんに怒られちゃったよ。2人のせいですからね。

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