第漆話 【2】 夫婦舞い

 僕が踊り終わった後も、妖魔達はただジッとしていたので、順番に巻物に封じていきました。幻影すらも魅了するなんて、僕の舞いはいったい……。


 詳しく聞きたくても、さっきの狐のお面を被った子供達は、僕の舞いが終わった途端に消えちゃったしね。だけど多分……扇子が入っていたのと同じ妖具の中に、何かあるんじゃないのかな?


 そう思って僕は、自分の妖術を使い、小さな風呂敷に包まれた、木の箱で出来た妖具のおもちゃ箱を出します。

 風呂敷をほどいて確認すると、それには狐の耳が付いていて、妖狐専用なのが一目瞭然です。ただ、そうやって作って出したのに、もう中に何か入っています。扇子もここに入っていて、蓋を開けなくても、取り出し自由だったのです。


 そして僕は、扇子以外にも入っていた何かを、その場に取り出します。するとそれは、さっきの狐のお面を被った子供達の、布で出来た人形でした。


「……これは?」


 しかも、笛とか太鼓とか色々持っていますよ。


「ふむ……先程のはこれか? 妖気は感じんが、何やら他の力を感じるの」


「おじいちゃん?!」


 いつの間にかおじいちゃんが後ろに居ました。

 それにしても、確かに不思議な力は感じます。いったいなんなのでしょうか?


「まぁ、悪い物ではないじゃろう。それに、素晴らしい舞いじゃったぞ、椿。ついつい見惚れてしまったわい」


「うぐ……おじいちゃん。恥ずかしので、あんまり言わないで下さい」


 そもそも僕だって、軽く踊って、尻尾を振って魅了させて……なんて考えていたのが、変なスイッチが入っちゃって、良く分からない舞いを舞っちゃったんですよ! 今思い出しても恥ずかしいです。


『そう恥ずかしがるな。本当に素晴らしい舞いだったぞ、椿よ。改めて惚れ直した』


『そうだ。これはもうどちらかでは無く、結婚した後も、その舞いを舞って欲しいものだ』


『そうだな、黒狐よ』


 すると、白狐さんと黒狐さんも僕の傍にやって来ていて、そう言いながら僕の耳や尻尾を弄ってきます。

 ちょっと、勘弁して下さい。白狐さんと黒狐さんだけはレベルが違うので、悶えちゃうよ。

 

「うぅぅ……あっ、それよりもおじいちゃん、試験は?」


「ふっ、そんなの見んでも分かるじゃろう? まさか、Sランク妖魔を全て封じるとはな。流石は、あの2人の娘と言ったところじゃ。のう、達磨百足よ」


 すると、何故か満足そうにしながら、達磨百足さんとヘビスチャンさんも、こっちにやって来ます。


「全くだ。30分という時間付きだったが、あの数の前に冷静に対処し、確実に1体ずつ仕留めようと動いていた。その時点で、一級は確定していた。だが、その後のあの舞い。あれで、Sランク妖魔を無効化するとはな。そんな特殊な能力があるのなら、もう誰も何も文句は言わない。そうだろう? 皆の者!」


「「「うぉぉお!! 勿論だ!」」」


「「「というかアンコールだ、アンコール!!」」」


「……ぉぉお!! あんな美しい舞いを見て、自分は心が洗われた! この浮遊丸、今までの自分の行いを、猛烈に悔いています!!」


 何だか、約1匹飛びながらうるさいけれど……とにかく、皆凄く喜んでいるというか、興奮というか、感動しているみたいな感じです。しかも、浮遊丸さんと同じ様にして、泣いている妖怪さん達が沢山居るんですけど?


「さぁ、椿。もう何も、自分に劣等感を感じる必要は無い。胸を張るんじゃ。お前さんは立派な妖狐どころか、稲荷をも超える、唯一無二の特別な妖狐じゃ。じゃから、この級は必然じゃ」


「そうだな、翁。こいつはもう、自由に動くべきだ。今度は俺達が補佐する番だな。では、妖狐椿。試験の結果だが、当然昇級。級は、特級! 特殊任務の受注も許可する!」


「……えっ? えぇぇ!!」


 飛び級どころじゃないですよ!


 あっ、待ってよ……そもそもこの試験は、最初から少しおかしかったです。

 僕の為に、特別に昇級試験をするという時点で、僕の実力だけを見るテストになっていました。そして、この妖魔の数。という事は、一級を見据えた試験。


 そんな中で、こんな結果を出したのだから、当然そうなりますよね。あはは……。


『我等の上をいくとはな……何、直ぐに力を取り戻し、追いついてやる』


『それは俺が先だがな』


 そう言いながらも、まだ僕の尻尾と耳を……いい加減に離して欲しいです。あれ、それよりも……。


「2人とも、ライセンス戻ったんですか?」


『うむ……センターが元の鞘に納まったからな。ただ言ったように、神妖の妖気が使えん』


『暫くは、椿の補佐をしろと言われた』


「ご、ごめんなさい」


 気にしていたかも知れない事を言っちゃったかも。

 だから僕は、咄嗟にその事を謝ったけれど、2人とも笑顔のままで、僕の尻尾と耳を、更に強めに弄ってきます。


「ふぇっ?! ちょっと……2人とも! 力入れすぎ……うぅぅぅ」


『ふっ、なに……どうせならこうやって、妖気でも回復せんかと思ってな』


『妖気は回復しなくても、気力は回復するな』


 そりゃそうでしょう……僕の尻尾は、そんなんじゃないですからね! でも、気力は回復して良かったですね。


「さて、椿。観客からのアンコールが鳴り止まん。すまんが、もう1度舞えんかの?」


 確かに、さっきからずっとアンコールの荒らしです。皆そんなに気に入ったのでしょうか?

 でも、それはそれで悪い気はしないですし、何だか少しだけ気分が良いです。だから、舞えたら舞いたいけれど、あの狐の子供達は……。


『大丈夫だよ』


『そうそう、舞いなよ。嬉しいなら、踊りなよ』


 あっ、大丈夫そうです。声が聞こえてきたよ。それなら、また舞おうかな。


「あの……ちょっと、白狐さん黒狐さん。流石にそろそろ離してくれます? 僕、もう一回舞いを……」


『ならば、我等も舞おう』


『おぉ、良い考えだな白狐!』


「えぇ?! 2人とも舞えるの?!」


『舐めるな。これでも、稲荷の守護神。奉納の舞い等を見てきて、神を宥める為にと、密かに練習しとったわ』


『俺は……まぁ、勘でやろう。何故か出来そうだからな』


 黒狐さんが1番不安です。って、僕を引っ張らないで下さい! 結局尻尾を離してくれないよ。


「おぉ? 今度は白狐さんと黒狐さんも舞うのか?」


「良いぞ! 夫婦めおと舞い、見せてくれぇ!」


「誰が夫婦ですか!!」


『あはは。良いね良いね。どうせ結納の時にも舞うんだから、今の内に練習しなよ』


 嘘でしょう? 狐のお面の子達からも言われてしまいました。一緒に舞うのは決定ですか……。


「はぁ……しょうがないです。結納の時にも舞うみたいなので、今の内に練習しましょうか」


『そうなのか? よし、先ずは我と……』


『待て! 先に俺とだ、白狐!』


 また始まりました。別にカップルで踊るダンスじゃないんですから、そこは喧嘩しなくても良いでしょう? 全くもう……。


「ほら、白狐さん黒狐さん。一緒に舞いますよ」


『ぬっ? 黒狐ともか?』


『む? 仕方ない、椿の誘いだ。今回は3人で舞うか』


 夫婦舞いは、もうちょっとだけ待って下さい。

 白狐さんも黒狐さんも魅力的だから、選ぶのに時間がかかっちゃうんですよ。


 そして僕は、2人の手を掴み、中央に向かって引っ張っていくと、さっきの扇子を広げます。するとそれだけで、またあの狐のお面を付けた子供達が現れて、曲を演奏してきます。ただ、さっきと曲が違っていて、ちょっとテンポが早いような……。


 それも、僕は多分舞えるとは思うけれど、白狐さん黒狐さんがどうかな……って感じです。

 でも良いや。耳元の勾玉で指示出来るから、振り回しちゃえ。たまには、僕が振り回すのも良いよね?


 そうやって舞い始めた僕達だけど、やっぱりどういう訳か、白狐さん黒狐さんも舞えています。


『なんじゃ? この曲は』


『体が勝手に……』


 どういう事でしょう? 体が勝手に、舞いを舞っちゃうの? もしかして……この曲って。


「あの~」


『ふふ、気が付いた? 強制的に、舞いを舞ってしまう曲だよ……さっ、椿ちゃんも』


「えっ? うわぁぁ!!」


 何で僕まで?! 僕はこれも舞えるから、強制しなくても大丈夫ですよ!


『つ、椿……! これは……止められんのか?!』


『割と激しいぞ!』


「わぁぁん! 止め方が分かりません!!」


 観客の皆はめちゃくちゃ喜んでいるし、何だかいつの間にか、本当のライブみたいになっちゃっています。


 そして僕達が解放されたのは、曲が終わった30分後でした。

 これ長すぎます! 僕もだけど、白狐さん黒狐さんもヘトヘトになっちゃいましたよ。

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