第参話 【3】 新たな妖怪センター
里子ちゃんによって、引きずられる様にしながら家に入った僕は、そのまま大広間に入る。そして、いつも僕が食事をする場所に座らされました。
その後里子ちゃんに懇願して、この隷属の首輪を外して貰ったけれど、もう油断はしないからね。
それが終わった後に、レイちゃんも大広間に飛んで入って来ました。どうやらすごく寂しかったみたいで、僕の顔にダイブする様にして引っ付いて来ましたよ。良かった……白狐さん黒狐さんと同じように、レイちゃんも目が覚めていたんですね。
「キュゥゥ!!」
「うぐ……! レイちゃん、無事で良かったけれど、前が見えませんよ」
家に着いた時からレイちゃんの気配もしていたし、無事だった事に安堵はしていたけれど、その後皆に色々とされてしまったので……。
でも、レイちゃんは何故か、僕と出会った直後みたいに小さくなっていました。
『全く。そいつはご主人の大切なものを、必死で守ってるようじゃな。我等が意識を取り戻したのも、その霊狐のお陰じゃ』
「えっ? レイちゃんが……?」
『あぁ、そいつの方が先に起きていたらしくてな。必死に周りの妖怪霊から、霊気と妖気を同時に集め、俺達に注いでいたんだ』
「そうだったんですか……レイちゃんが、頑張ってくれたんだ」
それを聞いた僕は、レイちゃんの頭を優しく、沢山撫でて上げました。そしたら凄く喜んで、僕の顔をペロペロと舐めて来ましたよ。
「うぷっ……くすぐったい」
「さて……椿よ。帰って早々で悪いが、現状で少し、説明せねばならん事がある」
「えっ、何ですか?」
おじいちゃんが話をしてきたので、レイちゃんを顔から外して、僕はしっかりとおじいちゃんの方を見ます。
「椿様。それは、私の方から説明いたします」
その時、僕の横に蛇がやって来て、そのまま煙に包まれると、蛇の顔のままの妖怪が現れました。しかも、執事の服を着ています。
あれ? この妖怪さんは……。
「セバスチャンさん?」
「ヘビスチャンです」
あっ、そうでした……ごめんなさい。久しぶりだから、ごっちゃになっていました。
「でも、何でヘビスチャンさんがここに?」
「ヘビスチャンで宜しいですよ。実は、非常に言いにくい事なのですが……妖怪センターの内部改革が行われ、昔から居た我々全員、解雇となってしまったのです」
「えっ……!」
待って下さい。それって、センターが襲われたからですか? だから、センターの見直しをしたって事? それにしても、全員解雇はやり過ぎな気がします。
だって、引き継ぎをしないといけない業務とか、その辺りの細かい事はどうなっているんですか? 不十分だと、手配とかの業務に支障が起きそうですよ。
「それって、妖怪センターが新しくなったって事? 今までの事は、どうなるんですか?」
「その辺りは、センター長だった達磨百足さんが、少しの間残留し、急ピッチでやられたようです」
それじゃあ、その辺りの引き継ぎは大丈夫なんですね。ライセンスとか、もう一回取り直しとかになったら、ちょっと面倒くさいですよ。
「しかし、センター長は変わられたので……達磨百足様は、その作業が終わった瞬間、用済みとなって解雇されました」
そんな……達磨百足さんだけは残っていると思ったけれど、その妖怪さんも解雇って……。
「えっ? それじゃあ、今達磨百足さんはどこに?」
「ここに居候しとる。儂の友人じゃ、彷徨わせる訳にもいかんのでな。しかし、最後に余りにも重労働をしたせいか、全ての腕が筋肉痛で動かせなくなり、また職を失ったショックから、部屋に引き込もっとるわ」
それは……ソッとしておいた方が良さそうですね。
『そして、もう一つ問題なのが、我と黒狐のライセンスの事じゃ』
その後、僕の隣に居た白狐さんがそう言ってきました。
まだ何かあるんですか? 重い口調だから、良いことじゃないですよね。
『俺達は、分類上は守り神だ。一応、妖怪としても見られる事はあるが、基本的には神社で人々を見守る存在。そこを翁と達磨百足が、特別配慮等をしてくれて、ライセンスを取れたのじゃが……』
『だが、今回新しく就任したセンター長は、そういうのが嫌いらしくてな。制度は制度、規律は規律と、かなり厳しくしてくる奴らしい。お陰で、我等のライセンスが剥奪されたのだ』
「え~!? でも、ちょっと待って下さい! それじゃあ、今回の妖魔退治は、何で行っていたんですか? ライセンスが無かったら、任務なんて出来ないでしょう?」
すると、僕のその言葉に、おじいちゃんが険しい顔をしたまま返してきました。
「それがの……どうも、新しい妖怪センターの評判が良くなくてな。今までは、お互いに利があり、悪事では無い事ならば、内々で済ませていた事を、それすら駄目と言いだしとる。あれも駄目、これも駄目。そんな風にがんじがらめにされては、自由に動けん」
今のセンターって、そんなに堅苦しくなっているんですか……あんまり行きたく無いですね。
「更には、任務を受けていない状態で、妖怪退治をするなと言う、新しいルールまでも設けたのじゃ。つまり、目の前で悪さをする妖怪を見つけ、その場で退治をしても、任務を受けていない状態では罰則されるんじゃ」
「はい~?!」
いや、ちょっと……それは流石にやり過ぎでしょう。悪さをする妖怪なんて、何時何処で現れるか分からないんですよ?
今までは、センターの任務を受けていなくても、危険性があると分かれば退治出来たし、その後に任務を見つけて、事後報告をすれば良かったのに、それが駄目って?! 何を考えているんでしょうか……新しいセンター長は。
「それでな……その依頼や任務の受け取りも、センターが厳しく審査し始め、通るのに時間がかかりまくっとる。そこで、急を要する依頼や任務等は、全部こっちに回って来とるんじゃぁあ!!」
そう言うとおじいちゃんは、大広間の畳の上に、大量に積まれた書類の山をドカッと出して来ました。
あぁ……おじいちゃんの背後に何かあったから、それが気になっていたけれど、それだったんですね。
「あの……なんでこっちに?」
「それは、こちらの方がスピーディーですし、実績も申し分ない。何より、前のセンターで働いていた職員も、全てこちらに居候させて貰っております。それを、何処からか嗅ぎつけて来たんでしょうね。泣きながら頼まれたら、断れませんよ。おかげで、一級ライセンス持ちの妖怪達は、こちらからの依頼殺到で、てんやわんやです」
僕の言葉に、ヘビスチャンがそう返して来ました。
それで積もりに積もって、この状態に? 一級ライセンスの妖怪達でも、さばけない程の量の依頼が来てるのですね……何やっているんですか……。
だけどそれを、その新しい妖怪センターが、そう易々と見逃す訳が無いですよね? それに、皆が何かから身を守ろうとしているのも、分かっていますよ。
「おじいちゃん。それを、新しい妖怪センターが良しとは思わないでしょう? それと、皆何を警戒しているの? さっき、僕がうっかり屋根を切った時に『亰嗟の襲撃か!?』って、そう言っていたよね」
「う……うむ。その……ここからが最悪の事態なのじゃが……」
おじいちゃんが凄く言いにくそうにしています。何だろう……嫌な予感しかしませんよ。
「新しいセンターのあまりの評判の悪さに、新任のセンター長が組織力を高めようと、ある組織と手を組んだのじゃ」
「まさか……」
「さよう、亰嗟じゃ」
ちょっと、頭がクラッとしました。
本当に何をやっているんですか……その新任のセンター長は。上手くいかないからって、躍起になっているんじゃないんですか?
という事は、皆が警戒しているのは……。
「そして我々を反乱因子とし、その亰嗟と協力して、ここを潰しにかかっとるんじゃ」
やっぱり……そういう事でしたか。だから美亜ちゃんも、罠として玄関に呪術を張っていたんですね。
本当に帰って来て早々、凄い事になっていますね。
とにかく、敵が増えたとしか言いようが無いです。これ、どれから手を付けたら良いんでしょうか……。
「皆~! 堅苦しい話はここまでにして、お昼ご飯にしよう~準備出来たよ!」
「むっ、そうじゃな。重い話はここまでにして、椿が帰ってきた祝いでもするかの」
「「「「「お~!!」」」」
あれ? ちょっと、皆さん。僕の周りに集まって来てーー
「何? どうしたんですか?!」
期待したような眼差しを向けてる! どういうことだろう……。
「期待しているぞ、椿!」
「修行の成果、しっかりと見せて頂戴ね」
「私達も頑張るけれど。椿ちゃん、頼りにしているからね!」
えっ? えっ? 何で何で? いきなり皆さん、どうしたんですか! 何で、そんなに僕にーー
「へっへっ~! どうや、凄いやろう!? これが、妖狐椿の新たな力って訳や! いやぁ、鳥肌たったで!」
と思っていたら、浮遊丸さんが上賀茂神社での戦いを、壁に投影していました。いつの間にあれを撮っていたんですか? というか、あそこに居たんですか!
いつもいつも、この妖怪は怖いです。隠し撮りの名人だよ。まぁ、問題なのが……。
「さぁ、そしてこれが~メインディッシュや! 修行中の椿ちゃんの、癒やしの水あーーべぼろぁあ!!」
これですよ!! やっぱり、僕の裸とかを隠し撮りしていましたね。思い切り壁に叩きつけておきました。
「あそこにまで来ていたんですか! おじいちゃん! ちゃんと捕まえていて下さいよ!」
「いや、す、済まぬ……いつ脱走しとったのか。こやつ、その辺りのスキルまで上がっとる……いっそ封じるか」
もうその方が良いと思います。とりあえず、壁に叩きつけた後に、思い切りぶん殴って、僕の映像は全部飛ばしましたけどね。それでもまだ、他の女性妖怪さん達のがありそうですよ。
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