第弐話 【2】 椿の新技
2人に頭を撫でられ、嬉しくて尻尾を振る僕。
この半年で、更に妖狐っぽくなっちゃったし、ちょっとは女の子らしくなりましたよ。残念ながら、記憶は戻っていないけどね。
『ふふ。我等もこの数ヵ月、寂しかったぞ』
『俺達が目を覚ましたのは、年末頃だったな。椿が居なくて焦ったぞ』
「ん……そ、そうだったんですか」
うん、それは良いです。2人とも起きたからさ、何時起きたかまでは良いですよ。それよりもね……。
『焦ったのはお主だけだろう、黒狐よ』
ねぇ、気付いて? 女の子らしくなったでしょう? 髪の毛も伸びて、体つきもさ……ほら。
『ふん、何を言っている。焦っていたのはお前だろう。椿よ~椿よ~ってな!』
あれ? いつもの喧嘩が始まっちゃった……。
わざと? それとも、本気で気付いていないの? この2人は、僕の視線にも気付かないのでしょうか。
「てい!!」
『ぐぉ!』
『ぐは!』
とりあえず、白狐さん黒狐さんの頭を軽く叩いておきます。何だかイライラしたんです。
何で気付かないの? 僕って、自分で思っていた以上に、女の子らしくなっていないのかな。
「酷いです2人とも! 僕の変化に気付かずに、いつも通りに喧嘩して……何か気付きませんか!」
『ま、待て、椿! 分かった、分かっているぞ! ちょっと胸が大きくーーぐほぁ!』
この変態狐の黒狐さんは、いきなり何を言うんですか! 先ずそこなの?! 咄嗟に顔面にパンチ入れちゃったよ。
「黒狐さん、好感度マイナス30!」
『そんなに増えてたのか?! うぐぁあ~!』
「黒狐さんのバ~カ」
『ふん。全く、黒狐は分かっとらんな。ほら、椿。これだろ?』
「えっ?」
そう言って白狐さんから手渡されたのは、白狐さんの毛色と同じ色をした、真っ白な勾玉。僕の耳元に付けていたやつです。
『我等の枕元に置いていきおって。そんなに我等に頼らないと、決意しての事だったのだな。だが、もう修行は良いんじゃろう? ほら、またお主を守らせてくれ』
「あ……ありがとう。でも……」
うん、嬉しいです。嬉しいよ、その言葉も。
でも、何か違う!! 違うの、そうじゃなくて……そこじゃなくて……。
「うぅぅぅ……!!」
何だろう……何なんだろう。このもどかしい気持ちは何なんですか?! 気付いてよ、お願い!
『ふっ……嬉しくて悶えとるとはな。髪も伸び、体つきも益々女らしくなりおって』
『確かに。俺達は気にしないが、そういう努力をしてくれるのも、可愛いものだな』
2人とも気付いていた?! まさか……僕はまた、2人におちょくらていたんですか?
「くっ……最初から気付いていたの?」
『当然だ。嫁の変化に気付かずして、旦那は務まらん』
『椿は最初から女の子らしかったからな。更に可愛くしてくるなんて、その行動にいじらしくなって、ついな』
それなら最初から言ってよ。乙女心を弄ばれた!
「む~! もう2人ともキスしてあげない!」
『なぬ?! 接吻だと!? 何時だ、何時したんだ!』
『両方にか?! どっちから先にしたんだ!』
へへ、ちょっとした仕返しをして、2人とも焦っちゃっていますね。
だけど、これ以上思い出したら、2人の顔をまともに見られなくなるし、今絶対顔が赤いから、これ以上は駄目です。
『椿よ、詳しく教えろ!』
「い、嫌です! 2人とも、いつもいつも僕をからかって。僕だってからかってやる!」
『待て椿! そう言いながら逃げるな!』
あ~何だろう……この、日常が戻って来た感はーーって、あれ? 目の前に、白狐さん黒狐さんと同じ、神職の服を着た男の子が立っているんですけど。
「そうかそうか。この私を無視するとはな……」
「へっ?」
あれ? この子、さっき妖魔だったんじゃ……あっ、寄生されていたんだっけ? そっか、戻ったんですね。良かっーー
「そこに直れ~!!」
「きゃぁぁあ!!」
『ぐわぁ!! し、しまった!』
『あぎゃぁぁあ!!』
何ですか?! 何ですかこれ!! いきなりビリビリ痺れたんですけど?! 雷? 雷でも落ちましたか?!
◇ ◇ ◇
――そして数分後。
『申し訳ありません……椿との再開で、少し浮かれておりました』
その後僕達は、その子の前で正座をしています。
良く考えたら、ここは上賀茂神社。そして神社は、神様を祀る場所。つまりこの子は……。
『椿よ、この方は……まぁ、察しておるだろうが、ここ上賀茂神社の神様じゃ』
「
そう言ってその神様は、僕と握手をする為に、その手を伸ばしてきました。
ほ、本当に神様なんですか? 凄い……神社に祀られている神様なんて、初めて見ました。
「あっ、妖狐の椿と言います。宜しくお願いします、賀茂わきゃ……うっ」
ちょっと名前が言い辛いかも……しかも、途中に
「はっはっ!
すると白狐さんが、その神様に向かって、ちょっとだけ注意をしました。
『大神様。流石に神様なのですから、もう少し名にはこだわりをお持ちになった方が……』
「白狐よ。私が良いと言っとるんじゃ。別に良いだろう。それに、この名は人が付けたもの。どう呼ばれようと、私は人々から、落雷等の雷による災いを守る存在、それだけじゃ」
白狐さんの話し方が……いや、相手は神様ですから、そうなるよね。でも、僕には違和感がありますよ。そして黒狐さんも、少し緊張してしまっています。
「そうそう、先程は助かったぞ、椿よ。お主の浄化の刃のお陰で、私に寄生しようとする不埒な輩を、この身体から追い出す事に成功したからの」
まさか……さっき吸収された様に見えたのは、この神様が僕の力を利用しようとしたからですか。なる程、納得です。
「あっ、いえ……だけど、申し訳ありません。2人と早く話したくて、賀茂様の危険も考えず、あんな技を放ってしまいました」
そうなると、何だか僕も申し訳ない気持ちになってきてしまいます。だからきっちりと、そう謝っておきます。
「よい。初対面だし、説明も無かったんじゃろう? 寧ろこの2人なんて、いかにして私を傷付けない無いよう、どうやって無事に助けだそうかと必死になっとったわ。お陰で後手にまわりをってからに……」
あ~余計だったかも知れません。僕の代わりに、白狐さんと黒狐さんが……。
『『も、申し訳ありません』』
そして2人とも、しっかりと土下座しちゃいました。ごめんなさい……白狐さん黒狐さん。
あっ、でも……ちょっと待って下さい。何かがこっちに近付いて来ている? しかも、割と大きいですよね。これ……。
「待って、何か来てる? 違う、ここに現れる!」
すると僕達の後ろに、黒くて巨大な体の化け物が、急に現れました。そしてこの妖気は、妖魔です。
目も口も無いけれど、身体は人型をしていて、黒い炎がそのまま人の形になったようで、ユラユラと揺らめいています。そして何より、見上げてしまう程の大きさです。
うわぁ……これは、暴れられると大変です。
「なっ! こ、これは!? この辺りに溜まっていた負の感情が実体化し、妖怪と化したのか?! いや、それにしては妖気が……」
『まずい、これは妖魔になっとる! 感情等、とっくに失っている! 暴れるぞ!』
あっ、大丈夫ですよ。ただ巨大なだけなら……。
「よし。行くよ、カナちゃん」
そして僕は、巾着袋から火車輪を取り出し、それを腕に取り付けると、火車輪に妖気を込め、相手に向かって跳び上がります。
その後、僕の妖気に共鳴するかの様にして、カナちゃんの火車輪は広がり、円のようにして僕の腕に炎を纏っていく。でもこれは、ただ燃やすだけじゃ無いんですよ。
「はぁぁ!!
「ぐぎゃぁぁぁっ!?」
火車輪の炎を逆噴射させ、自分の拳の威力を数倍に跳ね上げる。
それで僕は、相手の妖魔の巨体を殴り飛ばし、ノックダウンさせました。相手の身体が炎でも、僕のこの拳は実体として捉え、敵を殴り飛ばすからね。
『んなっ?! つ、椿よ……それは!』
『なる程。火車輪を広げ、その炎を逆噴射し、ブースターに……』
ふふ、白狐さん黒狐さんも驚いていますね。
僕が急に向かって行ったからだろうけれど、まさかこんな簡単に、この巨大な妖魔を殴り飛ばすなんて、一切思わなかったんでしょうね。
そう、これが……この力こそが、カナちゃんが僕に残してくれた力。そして、僕の新たな戦闘スタイルなんです!
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