第拾伍話 【1】 本気の玄空

 玄空と峰空、2人の攻撃をひたすら避けて、黒焔狐火を発動してみるけれど、この2人にはもう、この妖術は効きませんね。手に持っている札を使って、完全に防がれました。札は焼けたけれど、防がれたら意味がないですよ。


「覚悟!」


「おっと!」


 僕も僕で、2人の攻撃はだいたい読めてきたから、避けるのが簡単になってきましたよ。白狐さんの力に変更するのも、スムーズに出来るようになりました。


 だけど、このままやりあっていてもしょうが無いですね。なんとか突破口を見つけないと。


「椿ちゃん、私も手伝うよ!」


「あっ、駄目です! カナちゃんは――」


 僕を助けようとしてくれるのはありがたいけれど、カナちゃんはまだ特訓中の身で、この2人を相手にするのは早いから、攻撃を止めようとしたんだけれど……遅かったです。


 峰空がその円盤の様な武器で、カナちゃんが振りかざした火車輪を、地面に弾き落としました。


「えっ……!」


「あら、私と似たような武器を使うのね。でも、戦闘経験は少ないわね。残念ね……その姿、半妖にしては強そうだけれど、所詮半妖は半妖って所かしらね」


「あっ、カナちゃん駄目! 相手の言葉に耳を貸さないで!」


 相手の言葉を聞いて、カナちゃんが拳を握り締めています。


 怒ってる? 怒っているよね? それは絶対に駄目です! 相手の思う壺だよ。


「余所見を……するな!」


「うっ!」


 しまった……僕は僕で、この玄空が目を付けている。カナちゃんを手助けしたくても、こいつが邪魔をしてくるよ。

 一発一発が地面を抉るパンチ。油断すると、僕の方がやられちゃう。どうしよう……カナちゃんの方も心配なのに。


「この……! 妖異顕現、黒槌土塊!」


 それでも、僕はカナちゃんに加勢しないといけません。


「むん!」


 それなのに、玄空は拳1つで、僕のハンマーの妖術を砕きましたよ。明らかに強くなっている。

 そして玄空は、その攻撃の手を止めず、そのまま僕にまで攻撃しようとしてきました。


「くっ……! わっ、とっ……! カナちゃん! 今行くから、絶対に怒りに身を任せて戦わないで!」


 何とか避けられたけれど、こいつは僕をここから逃がさない気だ。

 この場合、冷静になって戦わないと、いつ何処から別の敵の攻撃が飛んで来るのか、それが一切分からないからです。

 僕もカナちゃんを気にしつつ、他の人からの攻撃が飛んで来ないか、警戒をしていますからね。


 でもそのおかげで……。


「仲間にばかり気を配るとは、余裕なものだな!」


 玄空の攻撃を避けてばかりです。

 それも遂に限界に来てしまい、玄空の強力な拳を、お腹にまともに受けてしまいました。


「あっ……かふ……」


 駄目だ……こいつは、集中しないと絶対に倒せない。それなのに、カナちゃんや他の人達が気になる。


 すると、僕の様子を見ていたのか、カナちゃんが大声を上げてくる。


「椿ちゃん! 目の前の敵に集中して! 私は大丈夫だから! それに、私達は1人で戦っているんじゃないでしょ!?」


 カナちゃんには、何か策でもあるのか、凄く自信満々の笑みを浮かべてきています。

 そういえば、さっきから美亜ちゃんの姿が見えません。まさか、美亜ちゃんが何かしようとしているのかな。


 そうでした……僕はまた、1人で何とかしようとしていましたよ。皆は、絶対に負けないと信じます。僕は僕で、こいつを何とかします。


「ほぅ……その目、俺に勝つ気か?」


「あなたに勝つ? 違うよ。あなた達に勝つ。僕達の完全勝利しかありません!」


「傲るな、妖狐如きが」


「そっちこそ。人間なのに、人外に勝てると思わないでよね!」


 そして僕は、さっきの会話の最中に、巾着袋から御剱を取り出していて、神妖の力を流している。

 でも、御剱の力を使う訳では無いですよ。ちょっとだけ、石の状態でも斬れる様にしておきました。


【それでも、力の加減を間違えないでよね。私はこの前ので、少し力を削られちゃっているから、前みたいに手助けは出来ないわよ】


 また妲己さんが急に話しかけてきて、ちょっとびっくりしたけれど、そういえばあれから、ずっと寝ていましたね。


「分かりました。今度は気を付けるよ」


「何を独り言を言っている」


「わっ!! ちょっと、準備の時間くらいは……」


「させん!」


「わきゃぁ!!」


 御剱に力を流そうと思った瞬間、玄空が丸太の様に太い錫杖で、僕を殴り付けて来ました。


 それをギリギリで避けたら、次は横になぎ払って来るし、もう跳んで避けるしか無かったけれど、その後また真っ直ぐ縦に殴り付けてくるから、避けられずにそのまま錫杖で殴られて、後ろに吹っ飛んでしまいました。


「うっ! ぐ……つぅ、いたたた……もう、ちょっとは準備を――てぇ!!」


 いくら言っても、これが戦闘というものなんですよね。

 しかも、玄空がまた錫杖で殴って来たけれど、そこだけ地面が割れていたので、それだけの威力があるって事なんですよね? どんな錫杖ですか……。


 とりあえず僕は、白狐さんの力を解放し続ける事にしました。つまり、さっきからずっと白狐さんの力を解放したままです。


 とにかく容赦なしですよ、この人! 神妖の力を解放している暇が無いです。


【あ~あ~どうすんのよ? あいつ、あんたに神妖の力を使わせる気、無いみたいよ】


「それは分かっています! だから、隙を……たわぁ!!」


 また横になぎ払って来たけれど、僕は咄嗟にしゃがんで回避……をしたら、後ろにあるゴールネットが吹き飛びました。下手したら、捕まっている生徒達が危なかったですよ。


 どれだけの突風を生み出しているんですか? どんな腕の力をしているんですか? もう人間の力じゃないですよ。


「あなた……本当に、人間なのですか?」


「面妖な問いかけを。これは『練気』による恩恵よ」


 出ました、この人達のおかしな部分。残念だけど、その練気というのは、妖気で間違い無いです。


「悪いけど、その『練気』は妖気だと思――」


「黙れ! 厳しい修行によって生み出される、この気高き技を、貴様等の面妖な力と一緒にするな!」


「だから、あなたも騙されているん――」


「黙れ、黙れ黙れ!!」


 これだけ必死に言っても駄目ですか。

 そして玄空は、更に攻撃のスピードを上げ、僕を追い詰めて来る。流石に、避けるのもキツくなってきました……。


「黙れ!」


「うぐっ!」


 しまった、脚を狙われた……バランスが。


「黙れ黙れ!」


「うっ、がっ!」


 冷静を失っていても、錫杖で僕の急所を的確に打って来るなんて……とにかく、何とか身を守るしか……。


「黙れぇぇ!!」


「あがっ!!」


 これは、吐きそうになりました……まさか最後に、思いっ切り錫杖を縦に回転させ、勢いを付けてお腹を突いて来るなんて……何度も何度も、女の子のお腹を殴るなんて、最低ですね。


「むっ……勢いが付きすぎたのか? 遠くに飛んで……しまった!」


「けほっ、けほっ……イタタ。だけど、もう遅いですよ!」


 思い切り地面に背中を叩きつけられて、物凄く痛かったけれど、作戦成功ですよ。


【あんたねぇ……一歩間違えたら、お腹を貫かれていたでしょう?】


「はぁ、はぁ……まぁ、そうしないと、距離を取れそうに無かったので……」


 僕が白狐さんの力で防御力を上げているのを分かった上で、玄空は物凄い力で殴っていた。


 だから、考えつかなかったと思う。まさか、自分で防御力を少し下げて、後ろに吹き飛ばされ易くするなんてね。

 確かに妲己さんの言うとおり、一歩間違えれば、僕のお腹に穴が空いていましたけどね。


「でもこれで、龍花さんとの特訓の成果を出せます! 僕の御剱を使った、新たな戦闘方法をね!」


 そう、石のままの御剱での、新たな戦い方。

 これがマスター出来れば、もう暴走する必要は無いです。近接戦闘のみだけどね。遠くから攻撃されていたら意味ないけれど、こうやって自ら近付いて来る人なら、うってつけの戦い方なんですよ。


「よくも僕のお腹とか、いっぱい殴ってくれましたね。流石の僕でも、怒るよ」


 実際には怒らないけど、許すつもりは無いです。

 髪は長くなってはいないけれど、金色にはなっているはずです。


 つまり、僕が神術を多少扱える時の、あの状態ですね。

 それでも、この力を使い過ぎないように、注意をしないといけない。これを見たら、白狐さん黒狐さんはびっくりするかも知れませんね。

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