第拾壱話 【1】 またまた悩む椿
翌日。僕は登校した後、自分の机で項垂れています。
昨日はあれから、口裂け白骨女さんとがしゃどくろさんのイチャラブを、晩ご飯の間ずっと見せつけられていました。
何というか、骨同士がイチャイチャしている風景は、凄くシュールでした。
「椿ちゃ~ん、大丈夫?」
「う~ん……暫く骨は見たくないです」
「あら、あんたも普段、白狐や黒狐とあんな事しているじゃないの」
「美亜ちゃん、僕は抵抗していますよ」
「椿、本気で抵抗していない」
雪ちゃんは痛いところを突いてきますね。でもね、本気で抵抗しても楽しまれるだけだって、最近分かってきました。
「あのね、あの2人は僕が何しても面白がるでしょ? だからね、ある程度の抵抗にとどめているんです。そうすれば、これ以上は駄目だなって分かるでしょ?」
「そうやって、ちょっとずつ調教されてくのよね~」
「ぶっ! ちょ、ちょ……調教?!」
思わず吹き出しちゃいましたよ。飲み物飲んでいたら最悪でしたね。
それよりも、美亜ちゃんは何を言い出すんだろう。僕が調教されてる? そんな訳無いでしょう。
「美亜ちゃん。調教ってさ、もうちょっとキツい事をされないですか?」
「あら、調教にだって種類はあるのよ。優しくやんわりと調教していくのだってあるわよ」
そう言われたら、思い当たる節が無い事も……。
「うぅ~ん……」
多分、美亜ちゃんはまたからかっているんだと思う。だって、今でもこうやって、僕が頭を抱えて悩んでいる所を、嬉しそうに見ているんだもん。
それをさ、クラスメイトの人達も嬉しそうに見ないでくれませんか。
結局僕って、弄られキャラなんですね……。
「あれ? ねぇ、あれ何?」
そんな中で、クラスメイトの1人が廊下を指差して言ってくる。
皆もそれを見てざわついているので、どうしたのかなと思ってそっちを見てみると……。
「…………」
「…………」
何でこんな所にお地蔵さんがあるの? しかも、目が合っちゃったよ。
そして相変わらず、狸の耳に狸の尻尾が隠せていません。楓ちゃんですね。
「楓ちゃん、バレてますよ」
「…………」
無視しますか。何しにここに来たのかは分からないけれど、他の皆にも見えているし、そこに居られたら邪魔なんです。
ほら……担任の先生も、鳩が豆鉄砲くらった様な顔して、困惑していますからね。全くもう……。
「すいません、先生……ていっ!」
「はぅ! なにするっすか、姉さん~」
「なに、じゃないです。そこに居たら邪魔なんです」
とりあえずいつも通りに、手刀を楓ちゃんの頭に当てた後、襟首を掴んで引きずります。今日僕の守護をしている龍花さんに言って、連れて帰って貰いましょう。
「あ~待て待て。その子も、妖怪なのか?」
すると、担任の先生がそう言って僕を止めてきます。
「あっ、はい。化け狸の楓ちゃんです」
僕がそう答えると、楓ちゃんは面白くない顔をして、頬を膨らませています。それ、可愛いだけですよ。
それよりも、まだ自分が化け狸だって事に、納得いってないんですか? それでも、ちゃんと挨拶はしないと駄目ですよ。
とりあえず、僕が頭を下げさせたけれど、若干抵抗されました。でも、顔が赤い所を見ると、恥ずかしがってますね。楓ちゃんってもしかして、人見知りするんでしょうか。
だけど、その後楓ちゃんを待っていたのは――
「か~わいい~!!」
「ねぇ、ねぇ、尻尾触って良い?」
「耳丸くて可愛い~!」
「ほっぺプニプニ~!」
「へっ? へっ?! なんすか、なんすかこれぇぇえ!」
クラスの女子達の洗礼でした。
そして楓ちゃんは、何の抵抗も出来ず、もみくちゃにされています。
「こら、お前達。それは後にしろ。HR始めるぞ~」
僕が止める前に担任が止めたけれど、その後楓ちゃんは、僕の後ろに回り込んで隠れちゃいました。
「ね、姉さん……お、鬼。鬼が居るっす、ここ」
「鬼は失礼だと思うよ、楓ちゃん」
とにかく、楓ちゃんを1人にさせるわけにはいかないと、担任が気を利かせてくれて、今日だけ特別に、ここにいても良いことになったけれど、楓ちゃんはキョロキョロと落ち着きが無いです。
だけど、それはしょうが無いですね。
クラスの女子達の熱い眼差しと、一部の男子からの邪な視線を受ければ、落ち着かなくなるよね。
―― ―― ――
「それで? 楓ちゃんは、何しに学校に来たわけ?」
お昼休みになり、僕達はお弁当を持って屋上に行き、皆で食べています。
楓ちゃんも、しっかりとお弁当を持って来ていました。里子ちゃんに言って、用意して貰ったのでしょうね。
「ムグムグ……それは、極秘任務なんで言えないっす」
「あぁもう、食べるか喋るかどっちかにしたら? ほら、エビフライ逃げるよ?」
「むっ! 逃がさないっす!」
逃げ出したエビフライを慌ててキャッチしているけれど、その間にも他の食材が暴れているよ、楓ちゃん。
「ふふ、すっかりお姉ちゃんが板に付いてきたね、椿ちゃん」
「カナちゃん、茶化さないで下さい。それと楓ちゃん、君はまだライセンスなんて持っていないから、任務は受けられないでしょ? 勝手な事をしていたら、おじいちゃんに怒られるし、海音ちゃんにも心配かけるよ」
「…………」
それでも楓ちゃんは、無言でお弁当を食べ続けています。そっちがその気なら良いですよ。
「全くもう……それならおじいちゃんに言って、楓ちゃんが勝手しないように、厳しく見ておいて貰おうかな」
「姉さん……卑怯っす」
「言わない方が悪いです」
「ぐぅ……
楓ちゃんはばつが悪そうにしながら、ようやく言ってくれました。だけどその言葉は、幼い楓ちゃんの口からは出ちゃいけない言葉ですね。
「敵って、君の育ての親の?」
すると楓ちゃんは、ゆっくりと頷いた。
そこまで追い詰められているとは思わなかったよ。
いや、あの亰嗟の2人にその質問をしていたから、敵を討とうとしていたのは気付いていたけれど、まさかたった1人で動くとは思わなかったです。
だけど、そもそも楓ちゃんは、1人で何でも決めて行動しちゃうような子でしたね。
初めて僕と会った時も、勘違いだけで家出して、遠いおじいちゃんの家にまで来たのですから。
そんな行動力のある子だと、最初から気付けたのにね。僕は自分の事で一杯一杯でしたよ。
「楓ちゃん、あ~んして?」
「なんすか? あ~ん……んぐっ?!」
噛んだら膨れるミートボールです。
しかも僕は、楓ちゃんが噛んでしまうように口に放り込んだので、今楓ちゃんの口の中では、大変な事になっています。
これで静かにお説教が出来ます。
「楓ちゃん。君の思いに気付け無かった僕も情けないけれど、君はまだ幼体です。もうちょっと、周りの妖怪さん達に、特に僕にはもっと相談して欲しかったですね」
「ムグググ!」
「君1人で、亰嗟の暗殺者に挑んでも、直ぐに殺されちゃうよ。そうなったら、僕や海音さん、それに君の両親や旅館の妖怪さん達が、凄く悲しむよ」
「ムグググ!!」
「ちょっと、聞いてる? 楓ちゃ――あっ……」
口の中のミートボールが凄い膨らんでいて、とても会話どころじゃなかったですね。楓ちゃん、ごめん……。
「椿ちゃん、もうちょっと加減しよっか?」
「ご、ごめんなさい……」
皆で必死になって、楓ちゃんの口からミートボールを取り出したけれど、美亜ちゃんは嬉しそうにしながら見ているだけでした。少しは手伝って欲しかったです。
「姉さん、酷いっす……」
「ごめんごめん……まさか、あんなに噛んでるとは思わなかったよ」
「でも……姉さんの言っている事は分かりました。自分、焦ってたっすね」
「そういう事です。そして、もっと僕達に頼ってくれないかな?」
僕はそう言いながら、楓ちゃんの頭を撫でた。
すると、楓ちゃんは恥ずかしそうにして、俯きながら照れちゃいました。あれ? 両親には嫌がるのに、僕だと平気なのかな。
「姉さん……」
ん? あれ? 待って……楓ちゃんのこのトローンとした目はいったい……。
「楓ちゃん、ちょっと待って。それ以上は、こちらに入会しなければ出来ません」
すると、それを見ていたカナちゃんが間に入って来て、楓ちゃんを止めると、その手にパンフレットを持って、それを楓ちゃんに見せました。そう、僕のファンクラブのパンフレットを……。
「おぉ、こんなのがあったんっすね。分かりました、入るっす!」
「楓ちゃん?!」
「あら香苗、あんた面白い事してるわね。私も入らせて」
「もちろん良いよ~!」
「ちょっと、美亜ちゃん?!」
何ですかこれ? 何でこうなっちゃうの……。
これ以上僕を、そっちの危ない世界に引きずり込もうとしないでよ。
僕は、僕は女の子で、男性の方が……好きだとおかしいのかな? あれ、何でこんなに動揺しちゃうの? まだ男の精神があるから……なのかな? ううん、もうそんなのは関係無い。
僕は女の子と男の子、どっちが好きなの? わ、分からない……。
「椿、悩む必要無い。私達を受け入れるだけで、楽になる」
「雪ちゃん、悪魔の誘惑は止めて下さい……僕は悩んでおきます」
しかも、多分ちょっとだけ声に出てたと思う。皆こっちを向いて、ニヤニヤしちゃってるもん。
もう恥ずかしくて顔が熱くて、照れ隠しにミートボールを口の中に放り込んで、咀嚼――したら駄目だった~!! 丸呑みしないと駄目なんです、これ! だから小さめに作られているのに……何やってるんだろう、僕は。
「ムグググ!」
必死で何とかしようとするけれど、ミートボールは徐々に膨らんでいって、飲み込む事すら出来ません。こうなってしまったら、ちょっとずつ噛んで飲み込んで、小さくしていくしかないんです。
「天罰っすよ、姉さん」
そんな事よりも、ちょっと助けて欲しいです。
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