第玖話 【1】 カナちゃんとの模擬戦

 結局あの山の件は、滅幻宗の策略と、山獅子が大妖になる為に、村人の亡霊を利用した事による事件とされました。


 滅幻宗が何かの封印を解こうとした物は、お堂の中に無かったので、山獅子のドタバタで回収されちゃったみたいです。


 そんな中で、わら子ちゃんはずっと納得いかない感じだったけれど、昔の失敗のせいでは無い事が分かって、ちょっとだけ安心していました。


 そして、センターの妖怪さん達が色々と調べた結果、山神様は山獅子に、橋鬼はその後に滅玄宗にやられていました。


 それに、山獅子があれだけの情報を持っていたのも、山神の脳を食べ、それで知識と情報を得たようです。

 山神が僕達に依頼を出していたのも見ていて、更に沢山の妖怪を食べようと画策した。そこで、廃村の亡霊を山伏の力で呼び出し、僕達に襲わせようとしていた。


 これが、事件の全容という事です。


 それだけややこしい事件だったにも関わらず、見事に解決したとして、報奨金があり得ない額になっていましたよ。


 その後だけど、僕への功労賞なのか、そんな事件を解決した事によって、休暇でも与えてくれた感じで、僕に対しての依頼や任務が来なくて、急に暇になってしまっていました。

 だからしばらくは、学校にいる半妖の人達を守る為に動き、白狐さん黒狐さんの方も、暇だからって事で、亰嗟の動きを探っていました。


 ―― ―― ――


 数週間後。

 そんな日々が続く中で、僕はお昼休みにカナちゃんに呼ば――引っ張られて屋上にやって来ました。更に屋上には、雪ちゃんまで居ましたよ。


 でもそれよりも、僕の尻尾を掴んで引っ張らないで欲しいです。そんな事をしなくても、ちゃんと着いて行くし、呼ばれたら約束通り行くのに……。


「うぅぅぅ……カナちゃん、早く離して下さい。こ、これ以上は」


「ん~もうちょっと~」


 カナちゃん、絶対わざとやっているよね。流石にそろそろ勘弁して欲しいです。


「香苗、ズルい。私も」


 雪ちゃんまで来ないで下さい。


「それよりもカナちゃん、何か用があるんだよね?」


 慌ててカナちゃんの手から自分の尻尾を引き抜き、屋上に呼んだ理由を聞きます。そうしないと、本題に入らずに、このままお昼休みが終わってしまいそうなんです。


「あっ、そうそう。私、校長先生に特訓を見て貰っているんだけどね。その成果を、椿ちゃんに見てもらおうと思ってさ」


 カナちゃんは、ちょっと残念そうな顔をした後に、僕にそう言ってくる。


 今カナちゃんは、八坂校長先生に修行を付けて貰っているんだっけ。あの人、何を考えているか分からないし、少し怪しい所があるから、僕としては不安なんです。

 でもカナちゃんは、僕の力になりたいと必死だし、八坂校長先生を信じているみたいだから、何も言えないです。


 それにあの人は、半妖の人達を助けたりしているからね。

 実際カナちゃんも、住む所とか生活の事で、かなり親身になって貰っているし、一概に悪い人って決め付けられないんですよ。だから今は、様子を見るしか無いかな……。


「お~い。椿ちゃ~ん、聞いてる?」


「ひゃぅ!! 耳引っ張らないで!」


 しまった……考え事なんかしていたから、耳を引っ張られてしまいました。そしてごめんなさい、聞いて無かったです。


「もう……最近椿ちゃん、考え事しているの多くない?」


「うっ、ごめんなさい。ちょっと僕としては、色々とあり過ぎていっぱいっぱいなんです」


 そうなんだよね。滅玄宗の事、亰嗟の事、自分の記憶の事、妲己さんの事、白狐さん黒狐さんの事。

 うん……ちょっと多いよ。というより、1人で考えていてもしょうが無い事ばかりですね。


「そんな椿ちゃんを助ける為に、私も頑張っているんだよ? もうちょっと周りにも目を向けてみたら?」


「んっ……そうですね。分かりました」


「そ、こ、で。ちょっと、私と組み手して貰える?」


「えっ?」


「白狐さんの力でも黒狐さんの力でも、どっちでも良いよ。とにかく、私の特訓の成果を見せてあげる!」


 何だかカナちゃんが自信満々なんですけど。そこまで言うなら、カナちゃんの為にちょっとだけ付き合うよ。


「それじゃあ、白狐さんの力で」


「うん、良いよ!」


 お昼ご飯はちゃんと食べているから、妖気は問題無いけれど、カナちゃんは半妖だから、そこまでは……と思っていたのが間違っていました。


「よし、ゆっくりゆっくり……ふぅ」


 何とカナちゃんは、深呼吸をしながら妖気を高め、徐々に炎を身体に纏わせていき、爪も鋭く伸び、犬歯も伸びていっています。


「えっ、待って。カナちゃん、何それ!!」


「あっ、そうだ。私が勝ったら、キスさせてね~!」


「えっ?!」


 そう言った瞬間、カナちゃんは一気に僕との距離を詰め、そのままこっちの腕を掴もうと手を伸ばしてきました。


 見えているけれど、流石にそのスピードにはビックリですよ!

 いきなり変な提案もされたし、ちょっと反応が遅れたけれど、何とかギリギリで回避して、カナちゃんと距離を取ります。


「むむ……やっぱりやるね、椿ちゃん。キスはそう簡単には頂けないみたいね」


「いや、流石に女の子同士でキスは変だってば! それより、カナちゃんの方がびっくりですよ。何? その姿は……」


「えへへ。お父さんの炎狼の力を、暴走せずに使えるようになったよ。この新しい妖具のお陰でもあるけどね!」


 そしてカナちゃんは、装着するタイプの犬耳のカチューシャと、犬の尻尾のアクセサリーを見せてきて、自信満々な顔で腕を組んでいます。それ、いつ付けたの……。


 だけどね、犬キャラは里子ちゃんも居るから、これには見慣れています。里子ちゃんとはまた違った可愛さはあるけれど――


「別に驚く程では……」


「そうだよね、そうだよね……里子ちゃんが居るから、今更だよね」


 あっ、しまった……最後だけ声に出ていました。

 それを聞いたカナちゃんがいじけちゃったよ。分かりやすく、地面に指で『の』の字を書いています。


「あっ、そんな事は無いよ、カナちゃん。八重歯が可愛い女の子って感じで、僕はそんなカナちゃんも好きですよ」


「本当?!」


「そう言いながら、僕を捕まえようとしないで下さい!」


「良いじゃん! 好きならキスさせて~!」


「駄目駄目! そんな事したら、白狐さん黒狐さんが怒っちゃうよ?」


 僕は必死になって、捕獲して来ようとするカナちゃんの腕を回避し、説得をしているけれど、逆に嬉しいそうになっているのは何でかな。


「まぁまぁ、私は愛人でも良いから~」


「良くない!」


「愛人、その手があった……!」


 雪ちゃんまで何を言っているんですか。


「ちょっと2人とも、目がおかしいから!」


 それに、何だかんだでカナちゃんが速いです。

 白狐さんの力を使っているけれど、結構ギリギリなんですよ。僕もちょっとだけ、本気を出さないといけません。


「やっぱり私は、こっちの妖具の方が良いかな」


 するとカナちゃんは、腕に付けていた小さい火車輪を大きく広げると、そのまま右手に持ち直し、こっちに向けて投げてきました。


「捕獲は結構得意なんだよね~それ、捕縛輪!」


「よっ、と……甘いよカナちゃん。悪いけれど、僕もそこそこ――うひゃあ!!」


 その捕縛輪は予想していたけれど、カナちゃんは捕縛輪に、自分で発した炎をロープの様な細さにして繋いでいました。

 それで火車輪を自在に操れるなんて思わなくて、回避に一瞬の隙が出来てしまい、呆気なく捕まっちゃったよ。


 火車輪の炎は殆ど出ていなし、火傷も無いけれど、まだまだ僕も特訓が必要かも知れません。これが敵なら、僕は死んでたよ。


「それじゃあ私の勝ちということで、椿ちゃんの唇、いっただっきま~す」


 生身ならね。


 そして、カナちゃんが僕の出したに口づけをしようとした瞬間、地面の影に引っ込めて元に戻します。


「えっ? 嘘! いつの間に?!」


「香苗がいじけてる間」


「正解です」


 その時に、僕は新しい影の妖術を発動して、屋上の入り口の上から、それを操り眺めていたのです。


「妖異顕現、影の傀儡人くぐつびと


 そして僕は、再びその妖術を発動させて、カナちゃんに見せます。僕の影が立体化し、そっくりそのまま僕の姿になった分身体をね。


「うっそぉ……髪の色も、声も、体型も、何もかも一緒~?!」


 だって、影だからね。違っていたらおかしいよ。

 

「あ~! 悔しい~! やっぱり妖術を使われたら、まだまだ敵わないか~」


「いや、それでも……カナちゃんの方が凄いからね」


 そう言いながら、僕はその場所から飛び降り、妖術の影を引っ込めて元の姿に戻ると、カナちゃんの元に歩いて行きます。その間にカナちゃんも、元の姿に戻っていました。


 妖気の感じからして、そろそろ限界かと思うので、今日はここまでですね。


 すると、もう直ぐお昼休みが終わるかなという頃に、八坂校長先生が、僕達の居る屋上に姿を現しました。

 もしかして、カナちゃんと組み手している所も見られていた? ちょっと満足気な表情をしているから、間違い無いと思う。


 いったい、何しに来たんだろう? 校長先生に気を許せない僕は、ちょっと身構えてしまいました。

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