第拾弐話 【1】 天罰の先は
結局、気づいたらあのまま寝ていたらしく、起きたら朝――というか、昼前になっていました。寝過ぎたよ……。
だけど、昨日はあんな事があったし、それだけ疲れていたという事です。
里子ちゃんもそれを分かってなのか、今日だけは、僕達を起こさなかったようです。いや、これは……起こせなかった? 何だか、布団の近くに赤い点々が――
「なに……これ?」
寝起きで、ボーッとする頭がゆっくりと覚めていって、ようやく自分の異変に気付いたよ。
「うわぁ?! パ、パジャマがはだけて……!」
その原因は、僕を挟むようにしながら、幸せそうに眠るこの2人です。
なんの気兼ねもなく、僕と接する事が出来るようになったからか、カナちゃんのスキンシップが、レベルアップしちゃいました。
もうね……触りまくるしキスされまくるしで、僕の方が頭おかしくなりそうです。
「はぁ……まぁ、カナちゃんが幸せなら良いけどね」
呟きながらパジャマを整え、横で眠るカナちゃんの寝顔を見る。こうやって寝ている姿は、少女特有の幼い感じがしますね。
正直言うと、僕より可愛いと思う。雪ちゃんもそう。寝顔がとても少女らしいです。
2人とも、僕なんかよりも可愛いんだから、昨日の夜はずっと緊張しちゃっていたよ。胸だって僕よりもあるから、いっぱい当たるんですよね。
「昨日の夜の仕返しするなら、今かな……」
2人の寝顔を見ながら、僕は悪い考えが閃いた。そして更に、僕の頭の中で悪魔の囁きまで聞こえてくる。
【ほらほら、今の内よ~可愛い少女の唇を奪っちゃえ】
「悪魔の囁きは妲己さんですか?!」
何だ、消滅していなかったんですね。結構しぶといんだね。
【あっ、駄目だわ。ちょっと言葉を発しただけで、もう眠い……ギリギリの所で、あんたとの精神の繋がりを断ち切り、心の奥底に潜んでいたから、何とかセーフだったけれど、少し浄化の力にあてられちゃったわ……ふわぁ、おやすみ~】
説明ありがとうございます。
咄嗟にそういう事が出来るなんて、やっぱりただ者じゃ無かったですね、妲己さんは。
それにしても、まだ幸せそうな顔で寝ていますね、この2人は。それじゃあ、どんな悪戯をしようかなぁ。
落書き、なんかは定石だよね。布団でグルグル巻きにする? 起こさない様にしながらなんて出来るかな?
「う~ん、良い悪戯が思い付かない……やっぱり妲己さんの言うとおり、今の内にキスでも――って、何を考えているんだ、僕は」
まだ男子としての精神が、少し残っているみたいだ。これは、どうやったら消せるのかな? 妖術で何とかならないのかな。
「…………」
そんな事を考えていると、カナちゃんが口を尖らせているのに気が付きました。もしかしてもなく、カナちゃん起きてるっぽいです。
「カナちゃん、起きてる?」
するとカナちゃんは、首を横に振って否定してきました。
「起きてるじゃん!!」
「あっ、しまった!」
何やっているんですか、全く。そして雪ちゃん、尻尾を撫でないで。ムズムズするんですよ。
雪ちゃんまで、いつの間にか起きていましたね。最初に僕が、あんな大きな声を出したからだよね。
「ぬっ、尻尾振らないで、触らせて」
「これ以上は、ダ、メ、です!」
寝起きなのに、それでも元気な2人に振り回せれて、僕がヘトヘトになっちゃうよ。
―― ―― ――
「さっ、椿ちゃん。行くよ!」
殆どお昼だったから、お昼ご飯になっちゃいましたけど、お腹も満たされて、僕達はショッピングモールへと向かうべく、用意を終わらせて、今は玄関に来ています。
因みに2人は、普通のご飯ですよ。だけど半妖だから、若干の妖気の補充がいるようで、一品だけ妖怪食でした。
勿論だけれど、簡単に食べられる物です。最初は僕も、それにして欲しかったくらいだよ。
そして今日の服装は、僕はショートパンツにTシャツと、上に薄手のブラウスを羽織っている。
カナちゃんも雪ちゃんも、同じ様にショートパンツで、上はTシャツ。というか、おじいちゃんの家にそれしか無かったんだけどね。一応、里子ちゃんが用意してくれた物です。
「やっぱり、着けるべきですか……」
「そうだよ。だって、大っきくなっているんでしょ? 妖気が増えれば、その分体も成長していくんだからね」
そうでした。それを完全に忘れていましたよ。妖気が増えていくと、大人の姿になっていくんですよね。
ただ僕の場合は、いきなり大量の妖気が戻ったので、それに体が壊れないようにと、防衛策として、体がゆっくりと成長しているのです。
その分、妖気もそれ相応の量しか使えません。元々の妖気が使えるだけの体になったら、本来の僕の力が蘇るけれど、まだまだ時間がかかります。
それにしても……白狐さん黒狐さん、それにセンター長とおじいちゃんは、いったいどこに行ったのでしょうか? 家に居なかったです。
そこに丁度、見送りに来てくれた里子ちゃんがやって来たので、聞いてみる事にしました。鼻にティッシュ詰めてて気になるけれど、気にしないようにしよう。
「ねぇ、里子ちゃん。白狐さん達は何処に行ったの?」
「ん? う~ん……口止めはされてないから、良いのかな? えっとね、今後の椿ちゃんの事について、緊急の会議をするからって、今妖怪センターに行ってるよ。昨日は、夜遅くまで話し合っていたけれど、結局決まらなかったみたいだからね」
僕の事で、そんな話し合いにまで発展しているのですか?
ちょっと待って、聞くんじゃ無かったよ……僕は、これからどうなるんでしょう。
「大丈夫、椿。何があっても、私達が一緒に居るから」
「そうそう。それにね、心配していてもしょうが無いんだよ! 気晴らしにさ、買い物を楽しもうよ! 私も他に、買いたい物があるからね」
カナちゃんのこの明るさには、心底助かります。
僕もこんな風に、ポジティブになれたら良いのにな……ううん、違うね。カナちゃんを見習って、僕もちょっと頑張ってみようかな。
「あら、あんた達。買い物に行くの? それなら、私も着いて行って良いかしら? 丁度、新しい服を見たかったのよね~」
すると、僕達が出発する直前、廊下の先から美亜ちゃんが現れ、僕達の元にやって来ると、そう言ってきました。
でもちょっと待ってよ、人間の店でお買い物って……美亜ちゃん、尻尾とか耳は隠せたっけ。
「えっと、美亜ちゃんはその……尻尾と耳は隠せるの?」
「隠せるわけ無いでしょ。あんたみたいに、意識阻害の結界も張れないわよ。でもね、ちゃんとあるのよ、妖怪
それは初耳なんですけど?! えっ、そんなお店があるの……? 見てみたいかも。
「あんたも、下着とかはそこで買ったら? その勾玉の結界があるとはいえ、何があるか分かんないでしょ?」
「う~ん、でも2人が居るから……」
「大丈夫よ。そこは半妖も入れるし、何よりその2人も、行きたそうにしているじゃないの」
そう言われて後ろを振り向くと、目を輝かせているカナちゃんと、ソワソワしている雪ちゃんの姿がありました。これはもう、その服屋に行くのは決定ですね。
そうと決まればと、雪ちゃんが早く行きたそうな顔をし始めました。原因はもちろん、氷雨さんです。
今は、家の掃除や洗濯をやっているから、その間にという事でしょうけれど、大丈夫ですよ雪ちゃん。僕がさっき、氷雨さんに軽く言っておいたので、今日位は自粛してくれると思いますよ。
そして、美亜ちゃんの準備も終わったのか、黒いドレス姿の彼女がやって来た。
暑くないのかな……それ。一応半袖だけれど、真っ黒だから暑いと思います。
「よ~し、準備出来たわね。それじゃあ出発~って、どうやって街まで行くの?」
そうですよね。だって、ここは山に囲まれた場所だし、街まで行くのに、車で1時間はかかりますからね。
学校に行く時は、レイちゃんに乗っているけれど、いつも街に行くのには、この『妖怪タクシー』です。
家から電話1本。妖界にある会社から、直ぐに来てくれます。
タイヤはなんと、雲の妖怪『
当然人には見え無いし、着地した瞬間に、人間達のタクシーと同じ様になるので、騒ぎになることも無いです。
こうやって妖怪は、いつでも人の生活の中に紛れているんだよ。
その事を、カナちゃんと雪ちゃんに説明をしたら、カナちゃんだけが目の色を変え、玄関から出て行きました。よっぽど乗りたいのでしょうか? さっき電話しておいたので、もう着いていると思うよ。
何だか、無邪気にはしゃぐカナちゃんを見ていると、こっちも嫌な事なんて忘れて、楽しい気分になってくるね。
そう思いながら、カナちゃんの後を追いかけ、雪ちゃん美亜ちゃんと一緒に玄関から出ると、そこに意外な人物が立っていました。
「翼……」
「えっ?」
僕の事をそう呼ぶ人は、もう殆ど居ないはず。
目の前の人物から声をかけられた僕は、思わずじっくりと見てしまった。
その人は、高校生くらいの女子で、みすぼらしい格好で髪はボサボサになっている。
だけど、この金髪の髪に、どこかで見たような顔……そして、この声は――ま、まさか。
「な、夏美お姉ちゃん?」
僕がそう言うと、その女子はコクリと頷いた。
信じられない……あの、傲慢でギャル全開だったお姉ちゃんが、泣き出しそうな顔をして、今にも消えてしまいそうな程に、弱々しい雰囲気になってしまっていた。
そういえば、座敷わらしのわら子ちゃんに、罰として不幸を招くようにして貰ったっけ。
だけど、わら子ちゃん曰く、不幸が起こるのはたった1回だけ。ただし、不幸は連鎖するようで、その先はその人達次第。不幸を止める事も出来れば、不幸が止まらずに、いき着くところまでいってしまうらしいです。
今のお姉ちゃんを見る限り、どうやら不幸の連鎖を止める事は、出来なかった様ですね。自業自得ですけど。
「何の用ですか?」
僕は出来るだけ、夏美お姉ちゃんを睨みつけるようにすると、ここに来た理由を聞いてみた。すると、また意外な言葉が返ってくる。
「母さんが――死んだ」
「…………」
何だろう……少しだけ胸が、チクリと痛くなったけれど、でも僕にはもう、関係無いんだ。
関係の無い……事なんだよ。
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