第漆話 【2】 アプローチ
「ふ~ん。それで、その雪女のお母さんのお願いで、その子と会いたいのね」
「ごめんね、カナちゃん。早く何とかしないと、その内凍り漬けにされそうなので」
その日は終業式で、それも滞りなく終わり、教室に戻る最中に、僕はカナちゃんに小声で相談をしています。
まだこの学校の半妖の人達全員を、完璧に把握はしていないので、どうしてもカナちゃんに頼らざるを得ないのです。
「う~ん。半妖の子達は私も含め、他の人とは距離を取っているからね、色々と悩みもあるよ。でも、その子はまだ幸せな方だからね」
そういうカナちゃんの顔が、少し寂しそうな表情をしているんだけど。
やっぱり半妖の人達は、人間達から迫害されていたりとか、気味悪がられたりしていたんでしょうか。
「カナちゃん、大丈夫? やっぱり、半妖の人達って――」
「あっ、ごめん! 大丈夫、大丈夫だから。ほら、あそこだよ。あの子が雪女の半妖、
なんだか、上手いこと誤魔化されたような気がするよ。
カナちゃんはいつもこう。家族の事や、彼女自身の事を聞こうとすると、こうやってはぐらかすんだ。
だから、カナちゃんの事はいつか聞くとして、僕は彼女の指さした方に視線を移した。
すると、教室に戻る列の中で1人だけ、浮いている人物が居た。
氷雨さんと似たような顔つきに、透き通る程の真っ白な肌。
髪の毛は黒いんだけれど、その黒いのがちょっと不自然だから、もしかして染めてるのかな。
そこに違和感を感じたから、ジッと良く見てみると、ショートヘアーの襟足の所、ちょっと白い髪の毛が見えていた。
どうやら黒くしているのは、校則を気にして――って、今気が付いたんだけれど、そう言えばカナちゃんの髪の色、校則に引っ掛からないのでしょうか……。
「あの人、真っ白な髪の毛だったら、校則に引っ掛かると思っているのかな? でも、カナちゃんは毛先赤いのに平気だよね?」
「うん、私の場合はね。ちょっと校長先生に頼んで、特例としてもらってるよ」
それって良いのかなぁ……他の校則違反の人は染めているのに、一人だけ特例って……。
でもそういえば、カナちゃんって僕以外の人と話している所を、全く見た事が無いんだ。
「ほら、私の事は良いから。あの子行っちゃうよ」
僕が考えている事が読めるのでしょうか……。
自分の事に話題が移りそうだと感じたのか、カナちゃんは僕の背中を押して、早くあの子に話しかけなさいと、あごでその子を指していた。
どうやらカナちゃんは、僕に過去の事を知られたく無いようです。
でもそれって、本当の友達なの? 隠し事をするということは、まだ親友では無いって事なんだろうね。
だけど、今は目の前の子に集中しないと。カナちゃんと同じくらい、寂しそうな目をしていたよ。
「あっ、あの、如月さん! えっと……体育館の時は、どうもありがとう。お礼を中々言えなかったから、見かけてつい……」
如月さんの真っ正面に立つと、僕は小声でそう話しかけた。
自分から話しかけるなんて、殆どした事が無かったんだけれど、実はこの人は、体育館の事件の時、半妖の人達の中に居たのです。
一目見て気付いたから、こういう話しかけ方をしたんだけれど、後ろでカナちゃんが「覚えてたんだ」って、そうボソッと言っていたのが聞こえてきました。
「あぁ、別に……皆に引きずられただけ」
すると如月さんは、僕の方にチラッと視線を移しただけで、直ぐに先へと進んで行ってしまった。
これって、ちょっと所じゃ無いくらいのクールさだよ。しつこすぎると、逆に嫌がるタイプじゃないかな……さて、どうしよう。
「あっ、待って下さい。僕、あんまりこの学校の半妖の人達の事を知らなくて、校長先生に守って欲しいって頼まれているからさ、ちょっとは知っておかないとと思って……」
あんまりしつこくなく、それでいて普通にしながら、彼女の横に急いで行くと、そうやって小声で話しかけてみた。だけど、完全に無視されています。
これは、中々難しいかも知れません。でもね、僕もなんの考えも無しじゃないんだよね。
「あのさ、この後カナちゃんと一緒に、駅前のおいしいかき氷屋さんに行くんだけど、一緒に来ない? 如月さんと、色々お話したいんだけど」
だけど、これでも無視されました。もうギブアップです……。
せっかくカナちゃんから教えて貰った、如月さんの好きな食べ物で押してみたのに、全く食い付かなかったです。
―― ―― ――
「まぁ、あの子は難しいわ……でも大丈夫よ。ゆっくりといきましょう」
「うぅ、冷たい……」
冷たいのは、今食べているかき氷ではなくて、如月さんの態度の事です。
あの後、しょうが無いからカナちゃんと2人で、その駅前のかき氷屋さんに行きました。
そして店の前の机で、雪の様にフワフワのかき氷を食べています。
僕は昔から、普通のかき氷よりも、頭にキーンと来ないこっちのかき氷の方が好きなんです。
「でもさ、カナちゃんだって、僕に昔の事を話してくれないじゃん」
「うっ、それは……」
冷たい態度の事から、カナちゃんが昔の事を話してくれない事も、少しだけ愚痴ってみました。
ちょっとたじろいでいるね。やっぱり過去の事で、後ろめたい事があるみたい。
でもね、カナちゃんはずっと、僕の味方で居てくれているんだ。だから僕だって、何があってもずっと、カナちゃんの味方なんだよ。
だからその思いを、僕は視線に乗せて訴えてみた。思い切り上目遣いでね。
「うぅ、ちょっと……椿ちゃん。それは、結構卑怯だよ」
分かっていますよ、分かっている上でやっているのです。
「ほら、早く白状して下さい。そうしないと、もっと近寄るよ」
ジリジリと上目遣いのまま、ちょっとずつカナちゃんに近付いて行く。
すると、流石に耐えられなくなったのか、ため息を突きながら、カナちゃんは額に手を当て呟いた。
「嫌われたくないの……」
「えっ?」
「だから、昔の事を話して、椿ちゃんに嫌われたくないの」
それは薄々分かってはいたよ、カナちゃん。
1番最初に出会った時、覚さんの能力を使っていたからね。それが限定的で、妖怪の心は読めなくても、半妖の心は読めたんだよ。
そしてその時、彼女の心の奥底に、こべりついた様な感じで残っている、とても黒い部分があるのを感じていたんだ。
それが何かは分からないから、こうやって聞いているんです。カナちゃんの力になりたいからね。だから、まだ上目遣いのままで、僕を信じて欲しいって訴えます。
「うっ、椿ちゃんさ……そうやって、目で訴えないでくれる? 可愛いから」
どうやら効果はありそうなので、そのまま継続です。
カナちゃんにも、この方法が通じるとは思わなかったよ。白狐さん黒狐さん限定だと思ったのに、案外色んな人に使えますね。
「もう、しょうが無いなぁ……話すつもりはあったんだけどね、でもね、心の準備がいるの。だから、もうちょっとだけ時間頂戴」
「んっ、分かった」
これ以上無理に聞き出しても、カナちゃんの心の傷を抉ってしまいそうになるので、この辺りで止めとかないとね。とにかく、話すつもりがあったのなら良かったです。
そして、ちょっとだけ気分が良くなった僕は、手に持ったかき氷を食べ様としたんだけれど……もう半分溶けちゃった。
「…………」
「あっ、ごめん。ちょっと溶けちゃったね」
「そうだ、良い事思い付いた」
あることを思い付いた僕は、自分の持っているかき氷と、カナちゃんのかき氷を確認すると、彼女のかき氷の方に、僕のかき氷を放り込んだ。
「あ~! 何してんの! 椿ちゃん!」
僕は練乳かけの宇治抹茶。カナちゃんはイチゴ。さて、どんな味になるんだろう。
「新しい味に挑戦!」
「新しい味と言うか、凄い味になってそうなんだけど!」
見た目が凄いよね、これ。だけど良いんです。これで――
「んっ、一緒に食べよう。カナちゃん」
「もう、尻尾を嬉しそうに振っちゃって。それが目的で1つにしたの?」
そう言う事ですよ。友達と一緒に、1つのかき氷を食べるというのを、1度やってみたかったんだ。
その為だけに、かき氷を犠牲にっていうのもどうかと思うけれど、今思い付いた事だからね。
だけどその後、僕の後ろから、意外な人物の声が聞こえてきた。
「何、やってんの? かき氷に失礼」
その声に驚いて後ろを振り向くと、そこには何と、如月さんの姿があった。
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