女子高生、鈴木美鈴
12 嫌悪感
わたしは酷い女だ。
自己嫌悪。
自己嫌悪。
自己嫌悪。
わたしはわたしが大嫌い。つまり、自己嫌悪。
嫌な感情の渦が、ぐるぐるぐるぐる、脳内で回っている。めくるめく害悪。生ゴミのような思考回路。胸がムカムカするのは、朝からカップラーメンを食べたせいじゃない。この酷い自己嫌悪のせいだ。それほど猛烈な嫌悪を感じていた。その感覚は朝起きた瞬間からあった。
わたしはお父さんに愛されている。性愛でも情愛でも関係ない。愛されている。それなのにお父さんを裏切って、知らない男の人の部屋で一夜を明かした。そんな罪悪感が自身に対する嫌悪感に拍車をかけていた。
許されるのだろうか?
こんなふしだらなわたしが。
許されるのだろうか?
わたしは自問自答しながら、ベッドの上を眺めた。そこには誘拐犯が眠っていた。どうも寝不足だったみたいで、彼は朝ごはんのカップそばを食べるなり、ベッドに寝転がってしまった。一人きりの時間、わたしはただひたすら自己嫌悪していた。
お母さんとわたしは血の繋がった親子である。だから、似たところが多くある。男の趣味もそう。お母さんがお父さんと結婚したとき、わたしは少しだけお母さんに嫉妬していた。こんなに優しくて素敵な男の人が、永遠にわたしのものにならなくなってしまった。そう感じて、嫉妬していた。
お母さんがいなければ、お父さんがわたしのものになったかも知れないのに。そんな風に思った事もある。だから、もしかしたら、そのせいで、お母さんは死んでしまったのかも知れない。
それなのに、いざお父さんがわたしを愛してくれるようになったら、その途端に、わたしはお父さんを愛せなくなった。大好きだったお父さんを、大嫌いになってしまった。隣の芝生は青く見えるって言うけど、そう言うことなのだろうか。人のものだから欲しかっただけなのだろうか。だとしたら、わたしはズルくて酷い女だ。わたしの罪はきっと許されない。この罪は死ぬまでわたしの心にのしかかり続けることだろう。
そんな暗い考えがわたしを支配する。
窓の外から、太陽がわたしを狙っている。わたしのような罪人を燃やし尽くそうと、太陽は破壊光線を放っている。わたしは慌ててカーテンを閉じた。
薄暗くなった部屋の中。疲れ切ったような蝿の羽音が聞こえる。弱弱しくて、どこから聞こえてくるのかも分からない。けれどブーンと不愉快な音が確かに聞こえる。それから、誘拐犯の寝息も聞こえている。そちらはスウスウと可愛らしい音だった。
誘拐犯のほうに目をやると、彼は穏やかな表情をしていた。赤ちゃんのような寝顔だった。母性本能がくすぐられる。こんなわたしでも。酷い女でも。高校生でも。罪人でも。母性本能はあるようだ。険が取れたような誘拐犯の寝顔が、とっても愛おしくて、わたしは彼の頬にキスをした。
「勝手にキスをするなんて!」不意にそんな声が聞こえた。
やっぱりわたしはふしだらな女だ。そう自覚して、嘆息した。
自己嫌悪がわたしを支配する。
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