第8話 騎士道悪魔 その3
キロは仕事を首になってから、自分が宙に浮いたような不安が付きまとうのを感じていた。
喉が渇くような不安感・・・
今はただ、そこから解放されたいとただ願うのみだった。
町のひとに優しくするのは、当然であった。
この街のひとは、特に警戒心が強く、よそ者が受け入れてもらえることは稀だからだ。
老爺を助けたこともすべて打算だった。
老爺はキロに話し始める、その眼光は鋭く、そして、やつれていた。
「今の世の中を、世界をどう思う?」
キロ「???」
戸惑うキロにかまわず、話を進める。
「腐っている・・・と思わんか?、特権階級の者は、利権をむさぼり、国民を食い物にする、国民はさらに立場の弱いものを虐げる。」
「腐っておる、腐っておる、腐っておる!!!!」
「わしは見てきた、何十年も、この町の栄華から、今に至るまで」
老爺は元議員だった。権力者だった彼は、多数派との意見の違いから、議会を追われることになったらしい。
まるで何かに取りつかれたように、叫び続ける・・・
「排除しなければならぬ、腐ったものに正義の鉄槌を・・」
キロ「・・・・・」
キロは正直、戸惑っていた・・・
使い魔の方をチラっと見たが、使い魔は両手のひらを天井に向けたポーズをしていた。
「・・・・ある日な、わしのもとに、黒い騎士の霊が現れた。神が私に遣わした使命なのだと思った。」
「わしは、その槍で欲に溺れた議員や権力者どもを貫いた。貫いて、貫いて、石に変えた。」
「世界が良い方向に向かっておる。わしのおかげで、世界が良くなっていく、わしの命は尽きるかもしれないが、使命を全うすることこそ騎士の定め!!」
老爺から黒い煙が立ち上っていた。
老爺は、苦しそうだった、顔面蒼白で、生気が感じられず、どんどんやつれていく。
キロ「これって・・・」
使い魔の方をチラっと見た、使い魔は首を縦に振っていた。
「お主もわしとともに戦ってくれぬか?」
キロ「どうして俺を」
老爺「お主はわしと似ている、そう思った。誰かのために自分が死ぬのを厭わないそんな人間に見えた。現に町の人から白い目で見られているわしを助けてくれた。」
キロ「それは、絶対に違う。俺は自分のことしか考えていない。」
老爺「どうにも奥ゆかしいではないか、ますます気に入った。」
キロ「・・・俺は私腹を肥やした政治家でさえ雇ってもらえるなら喜んで尻尾振って付き従うね。ただ夕食をごちそうになったことは感謝してるし、恩も返したい。でもあなたと一緒に戦っても・・・損をするような気がする。だからあなたの誘いには乗らない。」
絞り出すようにはっきりと答えた。
老爺「自分が世界の犠牲になることによって後に続く人々の為になることは至上の喜びであろう?」
キロ「俺は自分が認められていい暮らしがしたいだけなんだ。犠牲になんて・・・なりたくない。」
老爺「やはり、貴様も奴らと同じ、自らの欲に溺れて他人を顧みない、屑か」
老爺からあふれる黒い煙は、甲冑と大槍の騎士と雄々しき馬を形作った。
老爺「愚か者には鉄槌を!!!」
騎士はキロを槍で貫いた。なんとか剣で防いだものの庭先まで吹っ飛ばされた。夜空は曇り、小雨がぱらついている。
騎士道悪魔「逃がさぬぞ、逃がさぬぞ」
キロはいったん路地裏まで逃げ込んだ。
キロ「甲冑の騎兵に対して剣1本の歩兵はどう考えても釣り合ってないだろ。甲冑騎兵=歩兵10人とかな気がするが・・・」
使い魔「あーその辺りはうまくやってください・・・」
キロ「・・・丸投げかよ・・・」
カルデラ城の警備兵としてキロに教え込まれた武術は剣1本もしくは槍1本で戦うというものだった。
その理由は国家が財政難であることと100年前の騎士団の英雄が1本の剣だけでカルデラ国の混乱を鎮めたという伝説があるからだった。その英雄は加えて女性だったらしい。まあ、多少尾ひれはひれが付いているだろうけれど・・・ひとりで各国の軍隊をせん滅するその様から『神剣アーシェ卿』と呼ばれカルデラ国では子供でもしっている名前だ。
キロ(・・・・剣1本でもこっちは伝説の英雄の剣術なんだ。)
キロ「・・・使い魔・・・ちょっと耳を貸せ・・・」
老爺「・・・どこへ逃げた。姿を見せろ!!」
路地の行き止まりでカタカタと木箱が揺れていた。
老爺は容赦なく槍で突き刺す。「ひい、降参です。」箱の近くに居たのは両手を上げた使い魔だった。
建物の2階の窓からキロが飛び降りて馬の首筋に剣を突き刺した。馬はたまらず悲鳴をあげ暴れだす。次にロープで甲冑に身を包んだ老爺を引き釣り下ろして馬の入れない建物に押し込んだ。
老爺「貴様・・・仲間を使うとは卑怯な・・・」
キロ「馬も含めて2対2だ。卑怯でも何でもねぇよ」
上乗りになって老爺を拘束して甲冑に剣を突き立てた。
魔力を抜かれ、小さなロバのような馬が逃げて行った、残された老爺は気を失い雨の中倒れていた。
キロ「・・・・・・・」
おじいさんをベットに寝かしつけ、キロは逃げる様にその町を後にした。
キロ「・・・あのおじいさんは2度と目覚めないかもな・・」
使い魔「悪魔に取りつかれたままだったら、確実に死んでいました。・・・・気に病む必要はないと思いますが」
キロ「なんかどんどん不幸になっていく気がするよ」
使い魔「気のせいですよ」
しばらく、甲冑の老人が徘徊しなくなったことを町の人々はいぶかしがった。
しかしそれも7,8日のこと
それから、また、いつものように甲冑を身に纏い叫び続ける。
正義は自分にあることを
「やはり、人間は、自分のことばかり考えてしまうが、それでは駄目なのだ。どうかこの町をより良くするために、わしと戦ってくれる者はおらぬか!!」
そして、今日も老人の叫びが町をこだまする。
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