148.愉楽-Joyfulness-

1991年6月14日(金)PM:15:32 中央区特殊能力研究所付属病院五階六号室


 僕は愛菜と、最初は真面目な話していた。

 いつからか話しが脱線。

 他愛ない話しになっている。

 そして、かなり時間が経過していた。


 さすがに、長居し過ぎた気がする。

 彼女にまた来る事を伝えた。

 怪我はゆーと君のの方が酷いのだから、おとなしくしてなさい。

 そう言われて、怒られてしまった。


 また来るつもりだけどね。

 車椅子で病室の扉の前に移動。

 これがまた、慣れない大変。

 扉を開けるのも、割と一苦労だったりする。


 それでもここは、スライドタイプのドア。

 なので、まだ楽な方だ。

 扉を半分ぐらい開ける。

 すると、誰かの手が添えられた。

 一気に、開かれた扉。

 三井さんの顔が出て来た。


「無事話し合いは終わったのか?」


「はい、お気遣いとご心配おかけしました」


「いや、無事に終わったならよかった」


 そこには三井さんと鬼那さん。

 他に二人いる。

 吹雪さんや伽耶さん、沙耶さんはいなかった。


「あれ皆は? それとはじめまして?」


 鬼那さんと似たような雰囲気の二人。

 俺に頭を下げた。

 角や髪の色が違うので、全く同じ雰囲気ではない。


「あいつらは、女だけの密談だ、とか言って何処かに行ったぞ。この二人は、愛菜ちゃんにも紹介するので、悠斗ももう一度、戻ろうか」


「え? あ?」


 返事を返す間もない。

 三井さんに車椅子を押される。

 再び愛菜の近くに戻る事となった。


「あれ? ゆーと君どうしたの? それに三井さん、鬼那ちゃん。後ろの二人は始めましてかな? 中里 愛菜(ナカサト マナ)です。彼は桐原 悠斗(キリハラ ユウト)と言います」


 何故か僕の自己紹介もしてくれた愛菜。


「青髪が鬼穂、紫髪が鬼威だ。二人とも挨拶」


「愛菜様、悠斗様、お初におめめです。しばらくの間、愛菜様の護衛を仕りました、鬼穂と申します」


 青髪で濃い青角の少女が一礼。

 続けて一礼した少女。

 隣の彼女は、紫髪に濃い紫の角だ。


「お初にお目にかかります、だよ鬼穂。はじめまして。彼女と同じく、愛菜様の護衛をさせて頂きます。鬼威と申します」


「少女の姿だが、彼女等は強いから安心しろ」


「義彦様が言っても、説得力あまりないと思いますが?」


 鬼那さんの突っ込み。

 僕達は苦笑するしかなかった。


「悠斗は俺が病室まで連れてくから、安心しろ」


 鬼穂さん、鬼威さんを、その場に残していく。

 車椅子の僕を押し始める三井さん。

 別れ際、鬼那さんと、鬼穂さん鬼威さんの二人。

 親指を合わせるという、意味不明な事をしていた。


 病室に戻った後に、鬼那さんに聞いてみる。

 深い意味はないそうだ。

 自分達だけの挨拶らしい。

 しばらく会えなくなる時に、するそうだ。


「三井さんは何か、頼まれてるんでしたっけね。残ってもらってすいませんでした」


「いやいいさ。お前達二人の事が気掛かりだったしな。無事解決したようだし、これで心置きなく行ける」


「何処か行くんですか?」


「図書館の管理者ってのを、警備するんだが、場所までは聞かされてない。ただしばらくは泊り込みになるらしい」


「まだ怪我、完治してないんじゃないんですか?」


「まぁそうだが。よほど無茶しなきゃ問題ないさ。それじゃ、吹雪達にも挨拶して来るわ。お大事にな。あぁ、後、愛菜ちゃんと仲良くな」


「え? 一言余計ですよ。そんなキャラでしたっけ?」


「たまにはいいじゃないか。鬼那待たせたな。それじゃな」


「はい。またそのうち」


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1991年6月14日(金)PM:15:37 中央区特殊能力研究所付属病院五階六号室


 窓際に立っている土御門 鬼穂(ツチミカド キホ)。

 土御門 鬼威(ツチミカド キイ)は、愛菜の側。

 自分で移動させた椅子に座っている。


「私の護衛!?」


 首を傾げている愛菜。

 様をつけられて呼ばれたのにも動揺。

 更に、その後の護衛という単語に、驚愕したままだ。


  「そうですね。護衛です。それと、お話し相手になってくれると、とても嬉しいです」


 微笑んでいる鬼威。

 思わず、愛菜もぎこちなく微笑を返した。


「連続で、いろいろな事が起きてしまったので。念の為ですね」


 窓際から戻ってきた鬼穂。

 彼女もパイプ椅子を勝手に移動させた。


「怪我はしていません。だけど、体調が完全ではありません。なので、その補佐の意味合いもあるんだと思いますよ」


「あ!? う? うん、そうなんだ!?」


 唐突な事態に、置いてきぼりの愛菜。

 何処から質問していけばいいのか、判断出来ない。


「護衛というよりは、保険かもしれませんね」


 真面目な表情から一転。

 鬼穂も、満面の笑みになる。


「それに、私達は人間世界の一般常識を、ある程度は理解していますが、完全ではありません。そのお勉強の意味合いも含んでいるのだと思います」


「お友達が増えるのは、嬉しい事なのです。なので、余り深く考えなくてもいいと思うよ」


 鬼穂の言葉に、鬼威が続けた。


「う? うん、わかった」


 いまいち納得出来ない愛菜。

 だが、自分自身の未知の力の事もある。

 彼女達に、深く追求する事はなかった。


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1991年6月14日(金)PM:17:59 中央区道道八十二号線


 白紙 彩耶(シラカミ アヤ)の運転で進む一台の車。

 助手席には三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 土御門 鬼那(ツチミカド キナ)が、後部座席に乗っていた。


「図書館の管理者ってどんな人なんだ? 管理者って言う位なんだから、それなりに年配の人なんだろうけど」


 何気ない義彦の質問。

 彩耶は、妖しい微笑を浮かべた。


「うーん? そうねぇ? いい娘だと思うわよ。確か、君に会いたがっていたはずね。まぁ、今から会うわけなんだし、細かい事はいいんじゃないかな?」


「いやまぁ? 確かに、そうなんだが?」


 両側には時たま建物が見える。

 だがほとんどが、木々に覆われていた。


 そして車は更に、細い道にはいって進んでいく。

 細い道に入ってから、三十分以上経過しただろうか。

 現在地がつかめなくなった義彦は、彩耶に聞いてみた。


「ここ何処なんだ?」


「何処? うーん、説明がちょっと難しいかしらね。あえて言うなら、中央区と西区の境目って所かな」


「いや何処だよそれ?」


「見えてきたわよ」


「門ですかね? 門の後ろに誰かいるようです」


 それまで終始無言だった鬼那。

 彼女が突然、口を開いた。


「気のせいかもしれませんが、優しくて、力強い霊気が満ちている気がします」


「そうなのか? 俺にはわからないや」


「ふふ。君もまだまだね」


「彩耶さんはわかるのか?」


「心外ね。わかるわよ。経験が違いますから」


 そんな他愛もない会話をしていた三人。

 車を門の手前で停車させる。

 門の後ろにいるのは、おそらく四人。

 しかし、暗がりではっきりとは認識出来ない。


 三人は車を降り、門の前に並んだ。

 そこで誰がいるか理解した三人。

 四人のうち三人は、黒金三姉妹だ。


 黒金 佐昂(クロガネ サア)は、義彦に微笑んでいる。

 相変わらず無表情の、黒金 沙惟(クロガネ サイ)。

 黒金 早兎(クロガネ サウ)は、何故か仏頂面だ。

 そして、彼女達の背後に隠れている人物が一人いた。


「義彦様、彩耶様、鬼那ちゃん、ご苦労様です」


 四人を代表しているようだ。

 佐昂が、そう声を賭けて来た。

 隠れて姿の見えない四人目。

 彼女が呼んだ名前に、微かに反応したようだ。


「ヨシヒコ? 来たの? ウフフ。Finally met!!」


 状況がさっぱり飲み込めない。

 英語が苦手な義彦。

 最後だけ、何と言ったか理解出来なかった。

 しかし声から、女性、それも少女っぽいという事はわかる。


 おそらく彼女が、図書館の管理者だろうと推測。

 義彦は、管理者と言うから、もっと年配の人間を想像していた。


 だが、この予想外の歓声。

 この仕事を受けない方が良かったのではないだろうか。

 そんな考えが、一瞬頭の中を過ぎった。


「ワタシ Most joyful!!」

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