1話 冒険を始めるには 1
【駆け出し冒険者の街-アクセル】
「うわぁ………………うわあああああああああああ!! すごいすごい! 本当に異世界だ!」
目の前に広がる光景に、私は思わず興奮して声を出してしまいました。
そこは、まさにファンタジーの世界にありそうな街並み。 ゲームではよく見る石畳の街道に、石造りの建物の数々。 視界に映る人は中世時代のヨーロッパにありそうな服を着ていて、さらにその服を着ている人も全員が全員人間というわけではありませんでした。
あの耳の長い綺麗な金髪の女性は間違いなくエルフだよね? 小柄で褐色の肌を持ったあの人はドワーフかな? あ、剣や杖を持った冒険者っぽい人達もいる! うわああああああああ!! この目にかかれるなんて幸せだよぉ!
これこそファンタジーの世界! と言わんばかりの光景に、興奮を抑えろというほうが無理なものでした。
ですが……
「アクア様…………私の格好はそのままにして送ったのね…………」
肝心の私の服装はと言うと、元の世界で着ていた半袖のセーラー服のままでした。
わー……ファンタジー感台無し…………こんなの許されるのは夢の国までだよ…………まぁしょうがないけど。 とりあえず、まずはどうしようかな? やっぱり酒場とか冒険者ギルド的なところに行ったほうがいいかな?
ギルドというのは、ぶっちゃけて言ってしまえばこの世界で言うインフォメーションセンターみたいなものです。 冒険をするにあたって、様々な事をレクチャーしてくれる事でしょう。
でも場所わからないしなぁ……案内板とかどっかにないかな? あ、でも探すより人に聞くほうが早いか。
そんなわけで、私は偶然通りかかったなんだかベテランな冒険者の雰囲気を漂わせている、厳ついおじさんに話しかける事に。
「あ、すみません! あの……………――――――――――はっ!?」
そのおじさんに声を掛けた瞬間、私は固まりました。
別におじさんの怖かったからではありません。 いや怖い顔なんですけどね。 そうではなく、あることに気づいたのです。
私、この世界の言葉知らない……
…………………………………………………………………。
ど、どうしよう!? この世界は一体何語で喋るの!? 私何語で喋ればいいの!? 異世界語!? あ、そりゃそうか……いやそうじゃなくてええええええっとぉ!!
「おう、どうした嬢ちゃん?」
「え…………」
強面のおじさんが発した言葉に、別の意味で固まってしまいます。
すごく日本語だ! いやその方がありがたいんだけど!
「ん……? 妙な格好をしているな。 それにここいらじゃ見かけねぇ顔だが……」
いやでも、うーん……、これは逆に私が異世界の言葉を理解していると考えた方が良いのかなあ?
「? 何だ? 用がねえなら俺は行くぞ」
「あーーーー! 待って待ってください! えっとですね、実は私冒険者になりたくって、冒険者ギルド的なところを探しているんですけど……」
「何? 嬢ちゃんがか? …………ほぅ、面白え。 丁度俺もギルドの酒場に行こうとしていたところだ。 案内してやるから着いて来な」
「あ、ありがとうございます!」
案内してくれると言ってくれたおじさんに、私はお礼を言いながらついて行きます。
人は見かけによらないとはよく言ったもので、そのおじさんはとても良い人でした。 見た目は正直に言ってしまえばファンタジーと言うよりは世紀末の物語に出てきそうな荒くれ者っぽい風貌なのですが、道中でもとても気さくな感じに話してくれて、この街のいろんなことを教えてくれました。
ここが駆け出し冒険者の街であり、名前が『アクセル』と言う事。 この街周辺のモンスターは狩り尽くされているという事。 やはり最初は仲間を集めることから始めたほうが良いという事。 途中「嬢ちゃんはどこから来たんだ?」なんて言われた時はどうしようかなと思いましたが、「遠くにある小さな村です」と、嘘のような嘘じゃないような感じの答えを返しました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さてさて、そんな風におしゃべりをしながら歩く事数分。 私達がついたのは、いかにも冒険者ギルドっぽいところでした。
「ほわ〜〜〜〜! すごいすごい! 本当に冒険者ギルドだ!」
「おいおいそんなにはしゃぐことねぇだろう。 まぁ、これから冒険者になるって手間、血が疼くってやつなのかねえ」
はしゃぐ私を見て、おじさんは苦笑いを含めながらも、「解るぜその気持ち」というように頷いていました。
おじさんの言う通り、私はウズウズして堪りません! ギルドといえば冒険のスタート地点! まさに私の冒険はこれからだという奴です! アレ? これ終わる奴だっけ? ……まいっか!
石造りの階段の進み、おじさんはギルド門を開き、紳士に私を迎え入れ、
「ようこそ地獄の入口へ! この命知らずめ! 冒険者登録のカウンターは入って右の所にある。張り切って行ってきな!」
ホント、盛り上げ上手で良い人だなぁと、私はクスリと笑いました。
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