女の武器を使って行け

 ご飯終わった後、私はコンビニで一先ず下着だけ購入した。綴君の家に戻ると、二人は夕方まで一緒にやっていたテレビゲームをやっている。鈴木君が綴君が作ったコースで遊んでいた。


「戻ったよ~」

「お帰り、由美さん」


 あっ、なんかこれ……ちょっと変な気分。

 綴君が振り向いてそう言ってくれたのが、なんだか家族みたいな感じで頬が熱くなった。なんか……そう。もし綴君と結婚したらこんな感じなのかなって思っちゃいました。


「お風呂沸いてるから、先入っちゃいなよ」

「えっ? いいの?」

「まあ俺達は」

「レディーファーストって言葉もあるしね」


 鈴木君も、ゲームをやりながら答えてくれる。まあそれならお言葉に甘えようかな。


「服は俺ので大丈夫?」

「えっ!?」


 服!? 何で服!? もしかして。


「貸してくれるの?」

「まあ、同じ服じゃあれかなと思って……」


 そこまで言って、綴君は珍しく顔を赤くして、手で口元を覆った。


「ごめん。いつも鈴木は勝手に俺の服着るから感覚麻痺ってた。女の子に男の服着せるのは駄目だし、嫌だよね?」


 その仕草がレアすぎて、そして可愛すぎて、心臓を鷲掴みにされた気分だった。


「いや……借りる。何か簡単なのでいいから、用意してくれると嬉しいかも……」


 言ってって途中恥ずかしくなったが、こうなったら行けるところまで行ってしまえ! それに綴君の服を合法的に着れるチャンスなんて、今度来ないかもしれないんだから、着て損はないはず。


「じゃあ用意しとく。バスタオルは適当に使って」

「うん。ありがとう」

「洗面所のところだから」

「うん」


 ああ恥ずかしい! でも頑張れ私! ここで引いたら女が廃るよ!


 洗面所に入って、お風呂場の電気を付ける。好きな人の家のお風呂を借りることに、少なからず恥ずかしさと抵抗はあったら、意を決して服を脱いだ。


 ~~~


「ごめん。お待たせ」


 入ってから一時間。なんだかいつも通りに入浴してしまった。ただ使ったシャンプーやボディーソープから、綴君の香りがするみたいで、ちょっと変な気分になってしまったのは秘密だ。


 リビングに入ると、鈴木君は別のゲームに熱中しているようで私の声には気付いていないようだった。綴君は台所で食器の洗い物をしていて、私に気付くと手を止めて「お帰り」と麦茶の入ったコップを持って来てくれる。


「ありがとう」

「いいよ別に、それより着れ……」


 コップを手渡され一口飲んだところで、不自然に綴君は言葉を止めた。なんだろう? と彼の顔を見ると、また手で口元を覆っていた。頬や耳は真っ赤になっていてる。


 どうしたんだろう?


 渡された服はちゃんと来ている。Tシャツに短パン。確かに綴君のだからだぼっとしてるし、肩口はかなり出ちゃってはいるけど、変な所はないよね?

 何が起きているのはわからない私に、綴君は今度は目元を手で覆ってから、手を引っ張って廊下に出る。


「ちょ……綴君?」

「由美さん……その……下着は?」

「えっ? ちゃんと下に穿いて……」


 下に穿いて……上には……着けてない。


 急激に顔が熱くなり、胸元を腕で覆う。


 しまった! お風呂を堪能しちゃったから、いつもの癖でブラ付けるの忘れてた!


「はっ……はわわ!」


 綴君も申し訳なさそうに視線を逸らしてくれている。私は泣きそうになりながらも、洗面所に忘れて行ったブラを取りに行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る