第17話 武具選び

 まだ猛暑が続くある日。


「パパ。おきて、おきて。でんごん」


 部屋で寝ていた俺は娘に起こされ片目から伝言で「外で待ってる」とのことだ。


 なんだ?……まさかだとは思うが、キスをしてくれと言われるんじゃなかろうか。


 まだ片目とはキスはしてないのだが、わざわざ呼び出してするとは思えない。


 いや、強面からは想像しにくくて、実際は乙女な性格だったりするのか……それ、可愛いな。ギャップ萌え最高!


 俺は足取り軽く外に向かった。





 期待は儚くも散った。


 外に出た俺を待っていたのは娘達が何十人といて、置かれてる武器や防具などを選んでいる。


 何か戦いでもあるのかと身体を強ばらせたが、武器を選んでる娘達の表情は柔らかく緊張などしていなかったので安心した。


 試合や喧嘩などでもわかるのだが、戦いとなると顔や身体が強ばるものなのでぴりぴりとした雰囲気が漂うものだ。だから、今回は違う理由があるのだろう。


 そう考え周りを観察すると、武具を選ぶ娘達の姿で見えなかったが、奥の方で何人かの娘達と片目が人間大の藁人形をいくつも設置してるのが見えた。


「やっぱりか」


 今回のこれは戦闘演習だったようだ。

 言い訳がましく聞こえるが、大量の武具を選ぶ娘達を見て早とちりしてしまった。


 突然後ろからドンッとぶつかる衝撃がきたので、見てみると娘の一人が抱きついていた。


 このように抱きついてくるのは一人しかいない。先日の溺れかけた件に関わってる娘だ。あの件以来何かとくっつくことが多くなった。


「おねぇちゃん、よんでる」


 そう言って腕を絡めて引っ張っていく。


「わかった。わかった。急いだら怪我するぞ」


 片言で喋る娘を可愛く思いながら、なすがまま腕を引っ張られて外に出た。




 片目のそばに行くと、ちょうど片目達も藁人形の設置が終わったところで、俺に気付いて「おはよう」と挨拶をしてくれたので、俺も挨拶を返した。


 片目が娘を介して話しかけてくる。


「ぶき、ぼうぐ。えらぶ」


「俺?」


 自分を指さして聞くと片目は頷く。


 返事をする前に、また娘に引っ張られ、武具のところに足を運ぶ。

 武具の前に集まっていた娘達は、俺を見るなり道を開けて譲ってくれた。


「ありがとう」


 礼を言いながら武具が置かれてる前にたどり着く。周りの娘達は俺が何を選ぶのか興味津々で見てきていた。


 皆の視線が身体中に刺さるなか、真剣にどれにするか考え始める。

 なんか、一部の視線が股間に集まってるのが一番気になるが……


 と言っても、使ったことがある武具など一切ないんだがな。あったとしても相手から奪った鉄バットで殴ったり、ポリバケツを投げたりぐらいのもんだ。


 やっぱり一番使ってるのは頭、肘、肩、拳、膝、足先、踵ぐらいか。


 とりあえず、金属で出来た籠手をと思ったんだが、最初に肘当てとひざ当てが見つかったので装着する。

 びっくりしたことに留め具はベルト形式になっていた。ベルトを使ってるということは、そこまで文化レベルは低くないかもしれない。

 他もベルトで留めれるようになっており、前腕の防具とすね当てを簡単に装着できた。つま先などを守れるものが欲しいが、ただでさえ重くなっているのにこれ以上防具で動きを制限されたくないのでパス。


 うーん、武器はどうするかーー


 ーーある物が目に付いた。

 西洋剣がいくつも見えるのだが、注目したのは刃の部分ではなく、柄の部分だ。

 ナックルガードと名付けられてたはず。これは柄を握った手を守るよう覆った金属部分だ。

 これならば、非殺傷武器でメリケンサックのように扱えるのではないだろうか。


 一度手に持ってみるが、重い。どこがといえばわかりきってることだが主に刃部分だ。この部分を除けてみないことには、使い勝手が良いのか悪いのかわからない。


「ここ、除けていいか?」


 片目に聞くと手を出して武器を渡すように言ってきたので、手渡すと慣れた手つきで武器を解体していき柄部分のみになった。


 柄のみになったそれを、片目は俺に放り投げたので受け取ると、先ほどよりも大分軽くなったのがわかる。


 さすがにメリケンサックほどは軽くないか。似た柄はあったんだが、もし拳に当たったことを考えると不安が残るからなぁ。


「これで妥協するか」


 ナックルガードを左手に握り、フック、ストレート、ジャブ、正拳突きなどをして武器の具合を確かめる。その様子を娘達は興味深げに観察していた。


 ……やはり重いな。いつもは素手でやるのだが、今回は防具や、拳を覆う板で指を伸ばせないのが痛いな。目潰し、拳底、手刀、掴みなどといったことが出来ないので、攻撃方法が限定される。


 悩んでる俺に片目が声をかけ手招きしてくる。


 近寄ると片目は周りに何か言うと、集まっていた娘達が俺と片目を中心に離れていく。


 これは……


 片目に近づく娘の手には約一メートル半ほどの木の棒を持っていた。先端には布を巻いて縛ってある練習用の槍だ。


 それを片目に渡すと娘は離れ、俺と片目が対峙する形になる。


 槍を両手で持った片目は、先端を低くして右足を前に出す構えをして、残った肩の手を俺に向けクイックイッと手招きした。

 その顔には挑発的な笑みを浮かべて。


 思った通りここは簡易練習場だったんだな。


「んで、俺は練習生か」


 久しぶりの実践練習に身体が奮い立ち、筋肉が膨張して硬くなるのがわかる。


 筋肉を和らげるために深呼吸をしながら首や手首、足首を回して柔らかくしていく。

 緊張を解して柔らかくなったのがわかった俺は、腰を軽く落とし左足は前に出して半身にして、肘で脇を締め手を軽く前に出して構える。


「じゃあ、お相手してもらおうか……」


 胸から溢れ出る高揚に自然と口角が上がって笑みが浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る