第11話 ありがとう
顔に違和感を感じ、眠い目を手で擦りながら起きると、赤ちゃんの手が顔の上に置かれてた。
そういえば、片目や女王に無理言って赤ちゃんと一緒に寝れるように頼んで、赤ちゃんを挟んで川の字で寝たんだった。いや、言ってじゃない、身振り手振りでか。
赤ちゃんを起こさないように、俺の顔に乗ってる手をゆっくりと脇に退かし、赤ちゃんが起きてないか様子を見ると、穏やかな顔をして口をぽっかりと開けて寝ていた。
なんとか起こさずに済んだな。しかし、赤ちゃんは夜泣きすると聞くが、この子は産まれた時ぐらいしか泣いてないなあ。それにしても幸せそうに寝てるな。
赤ちゃんの顔を見てたら触りたくなってしまい、赤ちゃんの頬っぺたを指で突っついていた。マシュマロのように柔らかい。赤ちゃんが身じろぎしたので、俺は頬っぺたを突っつくのはやめて。赤ちゃんの顔を撫でていた。
異世界に来る前は女性とよくラブホテルなどには行ったが、三時間の休憩のみだけだったのでわからなかったが。どうやら俺は寝顔を見たら触りたくなるようだ。
赤ちゃんを見てて思ったんだが。なんか、昨日よりも赤ちゃんがひと回り大きくなってる気がするんだが、俺の気のせいだろうか。
赤ちゃんの頬を撫でてたら視線を感じたので見ると、いつの間に起きたのか女王が俺を見つめて幸せそうに微笑んでた。
なんだろう。気恥ずかしい場面を見られて顔が熱くなってなくな。
赤ちゃんを愛でてると途中から女王も加わり、愛でる行為は片目が訪れるまで続けてた。
やってきた片目は手に木で作った桶を四つ持っていた。そのうちの二つを俺に押しつけるおうにして渡し、部屋を出て行こうとしてる。
もしかして俺のお仕事だろうか? 名残惜しいが赤ちゃんの頭を一撫でして藁から離れ片目の後を追う。
巣から離れやってきたのは昨日も体を洗うのにお世話になった川だ。
片目は川に近づき桶に水を汲んでる。俺も片目を見習って水を汲んでると桶がコツッと石に当たってしまった。
すると、川からメリュジーヌが現れた。これって俺が呼んでしまったんだよな。とりあえず謝っておこう。
「間違えて呼んでしまった。ごめん」
意味が伝わったのかわからないが、いつもどおり俺に対して警戒してるな。
そんなメリュジーヌに片目が声をかけて何か言うと、メリュジーヌは警戒した視線ではなく敵意に近い視線を向けてきた。
あっ、これは片目が状況を説明してくれたおかげで俺への好感度が下がった感じですね。
そのあと、俺はメリュジーヌにひたすら頭を下げていた。
水を汲み終えた俺達は桶を巣に置き。今度は何かしらの皮で出来た胃袋の形をした水筒を五個と腐った肉を一杯に入れて桶を持って戻ってきた。そして俺に重くなった桶を渡して、また巣から出た。
そろそろ足が疲れてきた頃、見覚えのある物体が見えてきた。
人間の大きさほどある蕾、アルラウネだ。最初に出会った時と同じで花びらが閉じた状態になっている。
アルラウネっていつもこの状態なんだろうか? いつもこんな状態だと襲われるまで無防備に思うんだが。
片目は手に持ってる皮の水筒を俺に渡してから、茂みを出てアルラウネに近寄って行く。
すると、地面から触手が飛び出して片目の足を絡め捕り、片目は逆さに吊されて触手が更に手にまで絡まっていってる。
俺は前にアルラウネに全身の骨を男の記憶がフラッシュバックして、片目と男の姿が重なって見え、血の気が引くのを覚えた。
「やばい…… 今行くから待ってろよ!」
すぐに俺は片目を助けようと動き、手に持ってた水筒と桶を投げ捨てて片目に向かって全力で走る。
が、茂みから出た所で足を引っ張られたと思ったら天地がひっくり返った。
「くそっ!」
何が起きたのか一瞬理解出来なかったが、頭に血が上るのがわかったので片目と同じように逆さに吊られてるのだとわかった。
ミイラ取りがミイラになる。二次遭難。などという言葉が頭に浮かぶ。
このままだとやばいと思いなんとか触手から逃れようとじたばたするが、行動とは裏腹に触手は手にまで巻き付き動けなくなる。
俺は動けないとわかっていても諦めずに体を動かそうと力を入れると、片目が何か喋ってるのが聞こえた。
片目に頭を向けると、いつも仏頂面だったあの片目が微笑んでた。
片目は微笑みを浮かべ俺に向かって落ち着いた声で、繰り返しゆっくりと何か言ってくる。
その声は慌ててた俺の頭に入り込み、沸騰していた脳を鎮めていく。
なんとなくだが片目は「落ち着け」と言ってる気がした。
俺がもがくのをやめると、片目も静かになって辺りは静寂に包まれる。
結局のところ、俺の早とちりだった。あの男のように体を折られることはなく、逆さまにされて手足を拘束されるあけだった。
こうなるとわかってて、片目は俺に荷物を渡したんだな。恥ずかしいことしちゃったなあ。俺「今行くから待ってろよ」とか言ってたな…… 恥ずかしい!!
今自分の顔を鏡で見たら真っ赤に染まってるんだろうな。あれからなんか片目が俺を見ながらニヤニヤしてるし。
早くアルラウネ起きてくれ。
逆さにされて何分ぐらい経っただろう。木々の間から日がさし、始め俺の目がくらくらしてきた時にアルラウネの蕾が開いた。
や、やっとこの状態から解放される。
開いた蕾からアルラウネの姿が見てた。アルラウネはあくびを隠す為に手で口を隠しながら、大きく体を伸ばした状態で現れる。
太陽が真上近くにあるから今の時間は12時辺りだろう。えらく遅い起床だな。それとも日に当たらないと起きないのか?
まだアルラウネは眠いのか目を手で擦ってる。片目は寝起きのアルラウネに下ろすように言ったんだろう。俺と片目の体がゆっくりと下ろされて、手足に絡まってた触手が離れた。
地面に下ろされたんだが、まだ目がくらくらして立ち上がれそうにない。
そんな俺とは違って片目はすぐに立ち上がてる。いつものことだから鍛えられたというより慣れたのかな。
まだ立ち上がってない俺に片目は微笑みながら近づき、俺の肩に手を置いて「メッシー」と小さく言った。
俺はその単語に聞き覚えがあった。この異世界に来る前の日本で。
けど、ここがどこなのかなんて今更どうでもいい。
なんてたって、いつも仏頂面だったあの片目が、そっぽを向いて照れ隠しに頬を指で掻いてたんだ。
今大事なのはどこなのかではない。今大切なのは魔物娘達との関係なんだ。
俺は片目に手を差し伸べると、片目はその手を掴み引っ張って立たせてくれた。
どこの国だってこの言葉から関係は始まる。
俺は未だに照れてる片目に向かってつたない言葉で「メッシー」と言う。
片目はその言葉を聞くとにっと笑い、アルラウネの方に歩み寄って行った。
そう。どこだって「ありがとう」から関係は始まるんだ。
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