エピローグ『One Love』

 8月10日、土曜日。

 目が覚めて最初に見えたのは、昨日俺が着ていたワイシャツを着ている彩花の姿だった。彼女はぐっすりと眠っている。


「直人先輩……」


 彩花の夢の中にも俺がいるのか。


「……もっと、私のことを抱きしめてください……」


 どんな夢を見ているのやら。夢の中でも……しているのか?

「そうだ」

 寝言で俺の名前を言っているくらいなんだから、彩花のことを抱きしめよう。

「……温かい」

 彩花のことを抱きしめるととても温かい。彩花の甘い匂いが俺のことを包み込んでいく。

「直人、先輩……?」

 俺の名前を呟くと、彩花はゆっくりと目を覚ました。


「おはよう、彩花」

「おはようございます、直人先輩」


 そう言うと、彩花はにこやかな表情を見せる。


「俺の名前を寝言で言っていたけれど、俺が夢に出ていたのか?」

「……昨日、直人先輩と最後までしたことが影響したのか、夢の中でもたくさんしていました。今までにもそんな夢を何度も見たことあるんですけどね! ……って、何を言っちゃっているんだろう、私……」


 彩花は顔を真っ赤にして俺の胸に顔を埋める。言われた俺もどう返事をすればいいのか分からないけれど、恥ずかしがる彩花が可愛いからそれでよしとするか。


「もうちょっとしたら、起きて朝ご飯でも作ろうか」

「そうですね」


 俺は布団の中で彩花と抱きしめ合う。あぁ、温かくて幸せな気分になれる。

 そして、俺と彩花はソファーに隣り合って座り、俺はコーヒー、彩花は紅茶を飲みながらゆっくりとした時間を過ごす。


「何だか安心するな。こうして、彩花と一緒に朝を迎えられると」

「そうですか。……これから、先輩とまた毎日こうして一緒に過ごせるかと思うとドキドキしますね」

「そっか。俺は逆にいつもの生活に戻ったなって思うけれど。もちろん、彩花が恋人になったから少しはドキドキしているかな」


 彩花がここに住み始めたときは、手錠をかけられたりして束縛されたけれど。それも、今となっては笑える思い出になったかな。また手錠なんてかけられたら笑えないけれど。


「そうですか。直人先輩と恋人同士になって、ドキドキはしますけれど……また、直人先輩との日常が戻ったんだなって。ただ、不思議と、以前とあまり変わらない生活になると思うんですよね」

「それでいいんじゃないか。俺達らしくて」

「ふふっ、そうかもしれませんね。でも、これからは……寝るときはなるべく直人先輩と一緒のベッドで寝たいなって思っているのですが」

「うん、俺はかまわないよ。じゃあ、これからはそうしようか」


 以前は各々の部屋で寝て、一緒に寝ることはあまりなかったけれど、もう今は付き合っているんだし、一緒に寝てもいいよね。

 すると、彩花は俺と手を重ねて、頭を俺の肩にそっと乗せてくる。彼女から感じる温もりや重みが幸せに変わっていく。


「私、今……とっても幸せです。直人先輩とこうした穏やかな時間が過ごせて」

「そうか。俺もとても幸せだ」

「これまで色々なことがありましたから、本当に今が夢のようで。それに渚先輩、広瀬先輩、椎名さん……たくさんの魅力的な人達が直人先輩のことが好きで。そんな中で私を選んでくれたことがとっても嬉しいんです」

「……そうか。僕は一生を最も共に生きたい女の子を選んだ。それが彩花なんだ。彩花なら信じられると思ってさ。だから、ずっと一緒に幸せになろう」


 俺がそう言うと、彩花はふふっと笑う。


「何だかプロポーズみたいです」

「どういう意味で受け取ってくれてもかまわないけれど、まあ、その……プロポーズのときは改めて言うから。それまで待っててくれ。でも、ずっと俺の側にいてほしい」

「もう、今の言葉がまさにプロポーズじゃないですかぁ。私はずっと直人先輩の側にいるつもりですよ。むしろ、先輩が離れようとしたら私が追いかけて、抱きしめますから」

「彩花らしいな。……ありがとう」


 今はまだ結婚できる年齢じゃないし、もっとしっかりとした人間になってから彩花にプロポーズしよう。今から気が早すぎるって笑われるかもしれないけれど、俺はそれだけ彩花のことを愛しているんだ。


「彩花、好きだ。愛してる」

「私も直人先輩のことが好きです。愛してます」


 多分、互いに好きな気持ちを持っていれば、これから起こることもきっと乗り越えていけるだろう。これまでも色々あったけれど、俺と彩花は乗り越えることができたんだし。


「あの、直人先輩」

「うん?」

「せっかく、恋人同士になったんです。夏休みは残り半分くらいですけど、直人先輩と一緒に夏の思い出を作っていきたいです!」

「そうだな。じゃあ、どこか遊びに行こうか」

「いいですね! 実は私、前から先輩と一緒に行きたい場所があって――」


 恋人同士になっても、彩花はこれまでとあまり変わってないな。でも、それが彼女らしくて好きなところの一つなんだ。

 俺と彩花はこれからもずっとこういう日常を重ねていくんだろう。その中で俺と彩花の愛を育んでいければいいんじゃないかと思っている。それが俺達らしい付き合い方なんじゃないかなって。

 窓際に飾っているルピナスの花を見てみると、色鮮やかに咲き誇っている。かつては嫌だったルピナスの香りも今はとても心地よく感じることができる。彩花の好きな花は、まさにその花言葉のように、安らぎと幸せな気持ちをもたらしてくれるのであった。




『ルピナス』 おわり

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