165期 世の中って
なんでいつもこんな事態に陥るのか全くわっかんねぇ。大体、水着を一緒に買いに行こう、と理沙に誘われたのは幸希のはずで、珠里、つまり女装した俺は理沙に誘われてないわけで。なんで、お前が珠里も誘ったから、とか理沙に言うわけ? 俺、このパターンにはまるの、これで何度目?
遠く、と言うほど離れてもいないベンチに腰かけて、特設された水着売り場を眺める。あれこれ物色している理沙は、売り場の奥に入って行って見つけられない。
「水着とさ下着って……」と、急に口を開いた隣に座る幸希を俺は見た。
「布面積的にはあんま変わらないのに、なんで水着は男と選べて下着は駄目なんだ?」
「は?」
唐突のなことを言う幸希に、思わず地声が出る。通り縋りのお姉さんが小さく「え?!」と驚いた顔をして去って行った。
一瞬、自分が珠里だって忘れてしまったことに俺は軽く溜め息をつく。そんな俺を見て、幸希が「馬鹿じゃね」と言った。誰のせいだよ……。
「そういえば、最近はさ、『パパ』と買いに来るお姉さんも多いよ」とニコッと笑って言うと、幸希は「パパ?」と言って俺のほうを見て、「あぁ、『パパ』ね」と何か納得したように再び水着売り場に目を戻した。
「最近は、オッサンが人気なんだってさ」
「そういえば、理沙も最近オッサンがどうとか言ってた」
「本当は、自分が理沙の選びたいとか?」
「いや、違うけど」
予想していた回答がすんなり返ってきて、でしょうね、と俺は持っていペットボトルに口を付けた。
「なんで水着、着たいんだろう。普段は体の線が出るのは着られない、とかいうクセして」
オンナってわかんね~、ってことなんだろうけど、そんなこと俺に聞かれても困る。俺、オンナじゃねーし。
「知らね~よ、夏マジックじゃねーの?」って適当に言ったら、「夏マジックね~」と幸希は俺のほうを見た。
「何?」と言った俺に、「声」とだけ幸希は言ってまた売り場に視線を戻した。
スマホが震えて見てみると、理沙からだった。
「どうしたの?」って尋ねると、どっちか決められないから選んで欲しいってことだった。
「行く?」と通話を切って幸希に尋ねたら、「ここで待ってる」と。
「なんで? 理沙の選びたかったんじゃないの?」って言うか、理沙が選んで欲しいんじゃないのか?
「楽しみにとっとく」
「は?」
お前の頭の中が一番わっかんねぇよ、このエロ野郎、と俺溜め息をついてその場を離れた。
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