155期 リンゴ飴

今日は近くの神社の夏祭りだと知って、いっちゃんと出てきた。いっちゃんには、そんなのに興味があったんだ、って驚かれたけど、夏祭りって雰囲気が非日常的な感じで好きだ。

いつもは殆ど人のいない商店街に、今はどこから湧いてきたのかってくらい沢山の人が歩いている。遅い時間なのに女子高生じゃないかって集団とすれ違う。女の子達は浴衣を着ていて、手には綿菓子やリンゴ飴なんかを持っている。ワイワイとはしゃいでいる姿が、いつもはうるさいだけなのに、なんだか可愛いって思う。祭りマジックだろうか。

「今の子たち、ちょっと可愛かったね」って、いっちゃんに言ったら一瞬驚いた顔をしたけど、「浴衣ってだけでもなんか可愛いって思っちゃうけど、綿菓子とかリンゴ飴とか持ってたら余計にかわいく見えちゃうよね」と笑っていっちゃんが言った。

「いっちゃんもリンゴ飴とか持ったら、もっと可愛く見えるかも」ってオレが言ったら、いっちゃんが「いや、要らないから」って困ったような顔をして言った。

渋るいっちゃんに、それでもオレは赤い大きなリンゴ飴を買った。「はい」っていっちゃんに渡す。いっちゃんは、困った顔をして渋々それを受け取った。


人ごみから離れて、適当な縁石に腰を下ろす。遠巻きにたくさんの屋台と人を眺めた。

いっちゃんが手に持ったリンゴ飴をくるくる回す。その姿をチラッと見て、「やっぱり、いっちゃんも可愛いよ」ってオレが言ったら、「お祭りマジックだね」っていっちゃんが苦笑いした。

暫くして、いっちゃんが言った。

「ところでさ。リンゴ飴ってどうやって食べたら、きれいに食べきれるのか知ってる?」

「いや、わかんないけど、そのまま食べればいいんじゃない?」

何気なく言ったオレに「じゃ、どうぞ」って、いっちゃんが手に持ったリンゴ飴をオレに突き出した。その顔がすごく真剣だったから、オレはそれを受け取ってかぶりついた。

「カタッ!!」

そう言ったオレに、「でしょ」っていっちゃんが呆れた顔をした。

「零くんがかぶりつくにはいいかもしれないけど……」とチラッといっちゃんがオレを見る。

はぁ、って大きなため息をついて、いっちゃんはオレの歯形が付いたリンゴ飴を眺める。

「だから、要らないって言ったのに……」

そうならそうと、始めに言ってください、って思うのはオレのわがままか。

それとも、こんな有名な物の食べ方がわからないなんて思いもしなかったオレの問題か。

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