【2進数は嗤う】

 質量兵器が投下されてから3か月が経過した。1つはアフリカ大陸中央部、2つ目はアメリカ西海岸、そして3つ目はヨーロッパ南部にそれぞれ大型クレーターを残した。大量の噴煙が巻き上げられ、太陽は眠ってしまったらしい。

なんとかここまで生きてはいられたが、あの日以降誰一人も見てはいない。

街中に腐臭がたちこめている。ガスマスク越しでさえ吐きそうなほどだ。


 私の住んでいたミズーリ州も津波こそ無かったが、衝撃波で建物は全て半壊、もしくは跡形もなく破壊されてしまっていた。だがこうなることはもう知っていた。他の馬鹿共はゲームのしすぎたって笑いやがったが、結局私はこの個人用シェルターのお陰で生きながらえている。だが、発電機が壊れるなんて予想外だった。テレビも、PCもラジオもあれっきり何も言わなくなった。

誰が電磁障害まで起こると予測できたのだろうか?まぁそんなことは今更どうでもいいのだ。だいぶかかったが最低限の通信環境の修理と復旧が終わった。

食料も水もこの街にあるものは殆ど取り尽くしてしまっただろう。そろそろ心もとない。ここらで他の生存者とアクセスを取り、行動を共にしたい所だ。


 電源を入れてディープウェブへと接続する。チカチカと表示が付き、最近更新されたサイト一覧が現れた。どうやらこのシステムは私が思う以上にタフだったらしい。ただ、全てのサイトの最終更新があの日のあの時刻で止まっていると言う事実だけが心に重く圧し掛かった。

 試しに1つ書き込んでみる。普遍的な1文だ。鉄板だとも言えるだろう。

画面が映し出され、思うままに打ち込んでいく。


----------------------------------------Chat start--------------------------------------------

                     me:[生きている奴はいるか?] 

???:[ええ、もちろん]

me:「これは嬉しいな、そちらと合流したいんだが]

???:[私もよ、誰かと話せるなんて久しぶり]

             me:[こっちはもう備蓄が尽きそうだ、お嬢さんは?]

???:[こっちはまだ数年は動けるだけの備蓄があるわ]

                me:[発信位置を特定できた、今から向かうよ]

----------------------------------------END--------------------------------------------------


 まったく最高だ!やっぱり生存者はいたのだ。しかも3年分の備蓄まであるとは、かなりの当たり物件を引いたらしい。最低限の荷物をまとめてすぐさま移動を始めた。食料も到着するまで凌げるだけあればいいのだ。少し離れてはいるが十分到達可能だ、まぁ3日はかかりそうだがな。


 到着すると、そこには崩れたビルの残骸だけが残っていた。しかし、足元に小さく穴が開いているのを見つけるとピンと来た。地下室か、なるほど。

がれきを除けて進んでいくと光が見えた。どうやら電力システムは珍しく生きているらしい。手前の部屋から音が聞こえる、発電機だろうか?開けて見てみるとその通りだった。燃料の残量はまだまだ残っている。パッと見で最低でも3年以上は持ちそうだ。

最も奥から呼びかけるような声が聞こえる。あのお嬢さんもきっとそこにいるのだろう。髭を整えてゆっくりと扉を開いた。


 「ここに居たのか」と声がするが人の姿は見当たらない。部屋は乱雑で見たこともないような複雑な機械で溢れている。

 私は恐る恐る「やぁ」と返すと、それの画面から「やぁ」と返答を受けた。


 訳も分からず呆然としていると、後ろから何者かに叩かれた。

「いい加減ゲームは辞めなさい」母はそう一言だけ忠告して部屋を出て行った。

      今に見ておけよ、いつか絶対起こるんだからな…

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