第341話 サラトガ城攻略戦Ⅳ
サラトガ軍の召喚士ホマソンを倒すと、俺達の前にメイド服の忍者が天井から現れる。
いつもは着地に失敗する黒髪ショートボブの気弱そうな銀河は、珍しくシュタっとカッコよく降り立ち、俺の前で膝をつく。
「お館様」
「銀河か、人質の場所はわかったか?」
「リカール様の位置は確認いたしました」
「おぉでかした」
あとフレイアとクロエを救助できれば憂いなく戦える。
「よし、なら残りの人質を探しに行こう」
しかし銀河は俺の手を掴んできた。
「お館様」
「どうした?」
「リカール様のご様態をご確認下さい」
「見つけたなら後でで――」
「ご確認下さい」
銀河は少し強めに言うと、唇をきゅっと一字に結ぶ。
「…………」
そう、銀河はリカールを発見したとしか言っておらず一言も五体満足で、などと口にしていない。
俺達は銀河に案内され、城の地下牢へと到着した。湿気を帯びた薄暗い空間には松明の一つもなく、石壁には一部苔が生えている。
錆びた鉄のような嫌な臭いが充満しており、地面をでかいネズミが走り抜けていく。長時間ここにいると気分が悪くなりそうだ。
銀河の後をついて行くと、鉄格子が開かれた牢がある。
そこではレイランが壁際で影のように立ち、見知らぬエルフの女性がリカールの介抱を行っていた。
「…………」
「ひどい」
ソフィーはその無惨な姿に口元を両手でおさえる。
リカールの体は血まみれで、顔は元の顔がわからなくなるほど腫れ上がり、口からは夥しい血が流れていた。
筋肉質な体には焼きごてを押し付けられた跡もあり、彼が拷問にあったのは明白だった。
銀河は俺に耳打ちを行う。
「お館様、右手の中指と小指、それと……舌が切りとられています」
「……助かるのか?」
「はい、一命は取り留めています。ただし、もう喋ることは出きないかもしれません」
「……なくした部位は?」
「中指は発見しましたが、小指と舌は恐らくネズミに持っていかれたかと……」
「そうか、そっちの女性は?」
「ここに閉じ込められていたダークエルフで、回復魔術を使えるとのことでご協力を願いました」
「そうか……ソフィーかわってやってくれ」
「はい」
痛ましい表情を浮かべたソフィーは膝をつき、リカールにヒーリングをかける。
「この先にサラトガの研究室があるネ。そこはここより悲惨ネ」
「内臓を除去されたエルフの死体がたくさんありました」
確かサラトガはダークエルフをミイラ化させ、それをすり潰して秘薬にしているって言ってたな。
実際は効果がない、防腐剤とエルフの死体の粉だが。
「奴の研究ノートに子供のミイラが鮮度が良く、よく効くと書いてたネ」
「ミイラの鮮度ってなんだよ、くたばれオカルト呪術師が」
「いかがなさいますか、お館様?」
「ここにいるものは全員解放して、研究所は燃やせ」
「畏まりました」
「レイラン、リカールを運び出してくれるか。魔軍ならワンチャンなんとかしてくれるかもしれん。ソフィー付き添ってくれ」
「任せるよろし」
「はい」
さてと……キレちまったわ。
俺達は地下から上がり、玉座へと向かう。
ほとんどの敵兵は魔軍やアマゾネス達によって倒されており、特に苦労もなく到着。
ディーや魔軍もその場に待機しており、俺の到着を待っていたようだ。
「サラトガ王は?」
「この中に。恐らく人質も」
「そうか」
玉座前の鉄扉に手をかけると、中から鍵がかかっている。
「開けろオラァ!!」
鍵のかかった扉を蹴破ると、目の前に広がったのは、広大な玉座の間。天井は高く、少なくとも10メートル以上あるだろうか。石造りの床には豪華な赤い絨毯が敷かれており、それが中央の玉座まで一直線に続いている。
左右の壁にはサラトガの自画像が飾り付けられ、石壁に組み込まれた巨大なステンドグラスは、外から差し込む光で幻想的な色合いを作り出している。
石柱が立ち並ぶ玉座に王冠を被ったサラトガ王とドレス姿の若い女、近衛兵数名と縛られたフレイアとクロエの姿があった。
「秘密通路とかで逃げてなくて良かったわ」
俺達が室内に入って数歩歩くと、白髪色黒の老人にしか見えないサラトガ王は声をあげる。
「そこで止まりたまえ」
控えていた兵が、クロエとフレイアの喉元に剣をつきつける。
「お前の負けだ、悪あがきするなサラトガ王」
「トライデント王よ、交渉がある。我が軍が劣勢にあることは認めよう」
「劣勢というか陥落寸前だけどな」
「しかしこちらには人質がいる。今すぐ軍を引けば、人質を返還しよう」
「黙れ、俺はお前の舌を抜いて殺す」
「指も全部千切るからな」
俺とオリオンが言うと、サラトガ王は苦い表情をして隣に控えた槍を持った男に耳打ちする。
「(エッジ、貴様人質の舌を切ったのか?)」
「(あんたがやれと言った。それに元からあいつは拷問を受けていた)」
なんか小声でゴチャゴチャ言ってんな。
サラトガ王は眉間に深い溝を作りながら、こちらに警告なのか命乞いなのかよくわからないことを言う。
「交渉が決裂すれば、人質は全員死ぬことになる。本当にそれでも良いのか? 今ならまだ誰も命を落とさずに済む」
「これ以上ウチの連中に傷つけてみろ、この国地図から消すからな」
「お父様、今すぐ降伏を」
「黙れタニタ」
ドレス姿の女は娘だったらしく、父を止めようとするがサラトガ王は引かない。まぁこっちも今更引かれても困るが。
「トライデント王よ、こちらも滅ぼされるのであれば一人でも多く貴様らを道連れにして死ぬ。私には、この城にある魔力障壁装置のコアを暴走させ、城ごと君たちを木っ端微塵にすることができる」
「…………」
めんどくせぇことするな。大体機能していない装置のコアを暴走させることなんかできるのか?
ブラフくせぇと思っていると、エーリカが教えてくれる。
「体温、発汗、声紋、視線動作から見て91%嘘です」
9%本当か。ガチャなら単発引きも十分ある、破格な確率という嫌な数字だ。
「君の兵も甚大な被害を被ることは間違いない。そこで提案がある、古き戦い一騎打ちでケリをつけないか?」
「一騎打ち? 俺とあんたが?」
「いや、君の一番強いと思う兵と、私の一番強い兵を代理で戦わせる」
「一番強い兵ね……」
「勿論勝てば人質は返すし、この国も私の首も好きにするが良い。ただし負けた場合は我々に賠償金を払ってもらい、我が国に攻め入らないという誓約書をラインハルトに提出してもらう」
中立国ラインハルトはこの地域の領土戦争を管理しており、国家間で締結した条約を破った国を領土戦争参加国から除外し、テロ国家として認定する。
テロ国家指定された国は、通常1対1が原則の領土戦争ルールが適用されず、複数の国に攻め落とされ資源をむしり取られることになる。
「また我々が負けた時、娘のタニタの安全を保証するのであれば、一騎打ちがどのような結果になっても人質は返還しよう」
娘を逃がしてくれるなら、俺達が負けたとしても人質は返すと。
向こうとしては勝った後の人質なんか放り捨てたいだけだから、それをうまく利用されている。
本当ならテメェこの野郎、何都合の良いこと言ってんだ。一族郎党皆殺しにするに決まってるだろと言ってやりたいところだが、王としての俺が復讐よりも救出を優先させる。
「いいぞ、飲んでやる。賠償金はいくら欲しい?」
「……3億ベスタ」
あるかそんな金。
「それも飲んでやる。ただし戦闘は一騎打ちじゃない、兵と王だ。つまり俺と俺の兵、あんたとあんたの兵でやる」
あっさり条件を飲んだ俺に、ディーが耳打ちする。
「王よ、あまりサラトガ王をなめてはいけません。奴は衰えているとは言え、元宮廷魔術師として強い力を持っていた男です。ここは私と向こうの兵と一騎打ちを」
「いい、あいつは俺が倒す」
サラトガは「良かろう」と言って立ち上がると、玉座から杖を取り出す。
「王の身で決闘に出るとは、見上げた勇猛さよ」
「お前はよその非戦闘民に拷問するわ人質とるわで、見下げた卑怯者だけどな」
「エッジよ、貴様に任せるぞ」
短髪の髪を芝生のように立て、黒の槍を手にした青年が前に出る。
目の色は赤く、耳には銀色のピアス、装備は動きやすさを重視した黒の革鎧で、腕と足だけを金属鎧で守っている。
細い体つきで飄々とした雰囲気があるが、奴の全身からは自信と獰猛な蛇のような殺気が漂っている。
エッジと呼ばれた男は、俺を見ると口角を釣り上げてニマッと笑う。
「久しぶりだな貧乏王」
「誰だお前?」
「おや、覚えてないのか? ディーを雇用する時に会っただろ」
そんな奴いたっけ? と思ったが、数秒経って閃く。
「あぁ! あの時の詐欺師!」
「詐欺師はひでぇな、まぁ詐欺したのは事実だが。最初に会った時はもっと情けない感じだったが、今は多数の兵を従えて立派になったもんだな。顔つきも……わりと男の顔になってる」
「俺のおかんみたいなこと言うな」
エッジはチラリと本物のディーに視線を向ける。
「へー、あんたが本物か。オレとやりあうのは彼女かい?」
「いや?」
俺の隣に控えていた、ピンク髪のビキニアーマー戦士が、胸に怒りを秘めて前に出る。
「オリオン、お前が倒せ」
「おう、任せろ」
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