第55話 酒宴
ボインスキー王を倒した後、そこに仕えていた非戦闘員に対する雇用を募り、必要最低限ボインスキーの領土を維持できるだけの人員を確保することができた。
非戦闘員からすればトップがかわるだけであり、特にこれといった大きな変化はないので、そのまま続けるものが多く、ただボインスキーにセクハラされてた、ちょっと顔があれなメイドさんたちはみんな辞めていった。
恐らく相当嫌だったのだろう。
戦っていた金で雇われていただけの傭兵たちはディーによって意図的に逃がされた。
理由はこちらの強さを広めてくれる人間が必要であり、当初の目的である弱小王脱却の為の伝言人になってもらうとのこと。
すべての後処理を終えた頃には夜になっており、祝勝会も兼ねて本拠地の中庭でキャンプファイアが焚かれ、大きな炎の周りに、酒を片手に持ったチャリオットのメンバーが集まっていた。
「ウェーイ」
「アッハッハッハッハ!」
「それあたしが育ててた肉ーーー!」
「早いもの勝ちにゃ」
「ガッハッハ、その時ワシのマシンガンが火を吹いてバッタバッタと」
「姉様肉」
「肉は体臭が臭くなるから気をつけなさい」
「あらあら皆さん、そんなにはしゃいでは危ないですよ」
「ラムは臭いがダメネ」
「アンデッドのくせに肉嫌いなんですの?」
ボインスキー城から家畜を何匹か拝借してきたらしく、久々の肉に肉食獣共が歓喜の声を上げている。
その脇で俺はディーから今回の戦闘報告を聞いていた。
「幸い今回の戦闘で死者は0、怪我人は数人出たもののいずれも軽症ですぐに復帰できます。またボインスキー城を調べたところ、国庫内にはほとんど食料も金品も入っていませんでした。恐らく兄ナルシスへの支援物資としたのかと思われます。いずれにしても、すぐに得られるのはワインと少量の小麦に羊毛程度と思われます」
「後ろの湾はどうなってる?」
「領民の話によると、巨大な魔物が出没するようで、漁師が船を出すと必ず沈められるらしく、今は港も機能していないようです。陸で釣り程度はできるようなのですが、危険が伴います」
「うーん、戦争には勝利したけど、戦利品はうまくはいってない感じだね」
「はい、ですが羊などの家畜が多く見つかったのは良いことです」
「それ羊毛用だよね。みんなに食べちゃわないように言っておいてね」
「はい、既に何匹かこの宴会で犠牲になっているようですが」
「仕方ないな。朝起きたら家畜小屋に骨しか残ってないとかダメだよ。ワインは飲んでいいから。チーズもだしてあげて」
「かしこまりました。よく言い含めておきます」
「小麦、ワイン、羊毛が手に入ったってことはこれを元に貿易できるんじゃないか?」
「貿易ですか?」
「そう、小麦って雨が多い南では育ちにくいんだ。それと同じで羊のような家畜も牧草地がないと育てることが難しくて、鉱山の多い北部で飼うのが難しい。でも布団やコートの材料に必要だから需要は高い。そういうものを交換条件にして、ここではとれないものや、お金を貰う」
「なるほど」
「この世界常に戦ってるから、そういった貿易みたいなのはあまり盛んじゃないよね」
「はい、特に食べものに関しては慎重になってる王が多いです」
「そうか、なら羊毛の方が価値は高そうだな。食料品も同盟国とかになれば買ってくれるかもしれない。ところで捕まえたボインスキーはどうしたの?」
「一応城の一室に監禁していますが。見張りから、うるさいから殺していいかと聞かれています」
「一応そのままにしといて。ナルシストが攻めてきたときに使える……かもしれない」
「見捨てそうですけどね」
「俺もそう思う」
俺があいつの身内なら多分見捨てる。
というか誰だって見捨てる。
「他に現在ナルシス王と戦争中の王が判明しました。どうやら同盟軍らしく、この湾の北側に位置する地域を中心にした王の集まりで、ブルードラゴンと名乗っています」
「同盟軍対、ナルシスト一人なんだ。でも宣戦布告なのに一対多っていいの?」
「申し込んだ方が一対多でも受けるなら可能です」
「ナルシストは弱小が集まったところで叩き潰す自信があるわけか」
「ええ、同盟軍といっても規模は圧倒的にナルシス軍が大きいですから。未確認の情報ですが、ナルシス王は同盟軍の一人に求婚をしているようで、戦争が止まっている原因はそれの可能性が高いです」
「ほー、敵国に求婚ってまた恋愛小説みたいな」
「そのようなロマンチックなものではないようですがね。どうやら同盟軍はその女性を切り離したがっているようなのですが、その女性のチャリオットが同盟軍の中で一番強いようで扱いに困っているように見えます」
「そのナルシストに求婚されてる不幸な人が原因で戦争が続いてるけど、同盟軍もその女の人がいなくなると困るってことか。それどっちにしろ戦争やめられないよね」
「ええ、その求婚を受けた瞬間、同盟軍は壊滅させられるでしょうしね」
「と言っても、宣戦布告だしてるんじゃ俺達は手の出しようがないよね」
「そうですね、敗色濃厚ですので、一旦敗戦にして領地を明け渡すしかありません」
「俺、あれよく知らないんだけど、負けて領地を失った王ってどうなってるの?」
「王としての資格をはく奪されるので、次に領地を得るまでは冒険者と同じ扱いになります。ただ王の権利剥奪と共にチャリオットは解散が原則ラインハルト法で定められてます」
「チャリオット単位で山賊になられたらたまらんもんな」
「それに召喚で呼び出された戦士は強制帰還させられますしね。スカウトした戦士たちは生活が安定できなくなるので王の元を離れるものがほとんどです」
「実質のゲームオーバーだな。ウチも他人事じゃない」
「ここは例え解散になっても残るものが多そうですけどね」
「そうか? キュベレーとかドライそうだけど」
もしオリオンとか強制帰還させられるって聞いたらなんて言うんだろう。
悲しむだろうか、それとも意外と平気なのか、関心がないってことはないと思うけど。
気になったので、ワインをラッパ飲みしてるアホを呼んでみる。
「オリオン、お前もしチャリオット解散になって強制帰還させられたらどうする?」
「はぁ!? なんで! ふざけんなよ! 殺すよ! なんかわかんないけど何かを!」
答えはキレるが正解でした。
俺のもし解散になったらという話題は他のメンバーにも広がり、次々にどうするか答えが返って来る。
「解散になったら我らが面倒を見てやりましょう」
「我が王、アマゾネスの酋長なる。これ王じゃなくなっても有効」
「ワタシたちと一緒に影の警察やるよろし。法に守られない弱い人間いっぱいいるネ」
「モー!」
「リリ考えるの嫌いだから後先は王が考えるといいにゃ」
「小僧、王じゃなくなったらワシと一緒にガリアに来い。一流の改造人間(ベイダー)にしてやろう」
「本機もガリア行きにはついて行きます」
「私はフレイアちゃんと王様がいれば家族なので、どこにでも一緒についていきますよ」
「王様! 僕王様と一緒にいたいです!」
「みなさん、王様はみんなの玩具じゃないんですよ。王様ー王様やめたら私の実家に帰りませんかー? 神も言っております、男一人くらい飼いならすのが女の甲斐性だと」
お前(ソフィー)の掌クルーには神もびっくりだぜ。
サイモンは遠吠え始めるし、アマゾネスは腕相撲大会開催するし、ソフィーはへべれけで石に向かって会話してるし、クロエは脱ぎだすし、エーリカは花火あげるし、レイランは何もしてないのに勝手に泣いてるし、オリオンは羊追いかけ回して……あっ、吐いてる。お前一応ヒロインなんだから自覚もてよ……。
この状態を止められるのはディーさんだけだぜ。
ほら、宰相兼いろいろ役、この場をおさめてくれ、そう思ったがディーはワイン一杯で寝ていた。
ディーさん酒弱すぎるやろ。
そして俺は考えるのをやめた。
「何よこの状況……」
バカ騒ぎしていると城の中から腕を吊ったフレイアが顔を出した。
今回一番の貧乏くじである。
この状況でシラフとは不幸な奴だ。ここは誰もが狂ってる狂気の世界。常人が耐えられる空間じゃない。
「あんた酒飲めないでしょ」
「シラフは俺も一緒だった」
「具合はどうだ?」
「別に、ミノタウロスにいきなり後ろから殴られただけよ」
「普通死ぬよね?」
「こんなときの為にお守りがあるのよ」
そう言って取り出したのは俺がやった火の結晶石だ。
「これがなければ即死だったわ」
「えっ、この小さい石で何を守ったの?」
まるで凶弾からまのがれたみたいな言い方だけど、ミノタウロスのデカい棍棒は確実に防げないよ?
「やめてよ恥ずかしいわね」
「何が!? 前後に脈絡がなさすぎるよ!」
やめろ、このボケしかいない状況でお前までボケにまわろうとするんじゃない。収拾がつかなくなるだろう。
そう思ったがどうやらアルコールの臭いで酔う場酔いしてるようだ。
フレイアの顔はほんのりと赤い。
「こんなときにしかできないゲームがあるんだけど、やる?」
「なにそれ、いきなりゲームとか怖い。フレイアさん文脈って知ってる?」
「ベースボールナックルってのがあるの」
「ベースボールナックル……」
「エレメンタルジャイケルって知ってるでしょ」
「あぁ、俺の世界でのじゃんけんだろ」
「そう、そのじゃんけん? に負けた方が一枚ずつ脱ぐの」
「それ野球拳だよね? お前確実にミノタウロスにどつかれて頭おかしくなってるよね?」
「じゃー行くわよ。ベースボールプレ~インナウ、アウト、セーフ、ドドンガドン!」
「嘘だろ、異世界だぞ! 掛け声くらいひねれよ!」
「酷い有様ですな」
「楽しいだろ」
ロベルトと捕虜であるセバスチャンは、ワインとウイスキーで乾杯していた。
「よいのですかな、捕虜をこのように自由にして。若を逃がしてしまうかもしれませんよ」
「そうなりゃその時はその時よ」
二人は王も兵も関係なく騒ぎ合う姿を見て、なんだか懐かしい気分になった。
「このように楽し気な酒宴なぞ、先代がご結婚なされた時以来か」
「ずっと主に仕えるってのは疲れないか?」
「いえ、私には誰かのお傍でお世話をするのが性にあっています」
「そんなもんか……」
ロベルトはぐいっとウイスキーを飲み干し、鉄の腕で口元を拭う。
「どうでぇあんた、ウチにこねーか?」
「私がですか?」
「ウチには小娘は多いんだが、男は王と、わんころだけでな。酒の相手が欲しかったんだ」
「そのような理由で……」
「そんなもんだろ。俺の親友も似たような理由で仲良くなって、それからずっと一緒に戦い抜いた」
「そのご友人は?」
「ドロテア軍と戦った時にワシたちを逃がすために死んだ」
「そうですか……」
「主君に忠義を立てるのは立派なことだ。だが、いつまでも犬ころのように忠誠を誓ったまま仕えてるんじゃ、進歩がねぇ」
「進歩……」
「あぁ、あの小僧……って言っちゃいけねぇが、王は一歩ずつ前に進んでいる。仲間の気持ちを考え、身を案じながらも前にな。戦うことでしか守れねぇのなら戦う覚悟をした。情けねぇところもいっぱいあるが、その方が鍛え甲斐もある。一番年下みたいな顔してるくせに、戦う時は前から動かねぇ。俺は案外こういう奴が覇権とっちまうんじぇねーかと思ってる」
「覇権とは大きくでましたね」
「なんせワシがついてるからなガハハハハ。まぁまずあいつには酒の飲み方から教えなきゃならんが」
「フフフ、それは私がお相手しましょう」
「おっ、やってくれるかい?」
「このミハエル・セバスチャン。老い先短い私にできることなど、教養や、戦術指南程度ですがね」
「そりゃいい、ウチのやつらに一番足りてねぇもんだ!」
ロベルトは豪快に笑うと、セバスチャンはグラスに入った真っ赤なワインを飲み干した。
葡萄の収穫は行っていたが、自分でワインを飲むことはここ数年なく、舌にひろがるほのかな酸味と甘み、鼻を抜ける果実の匂いを楽しむのだった。
R ミハエル・セバスチャン 戦闘指導官
筋力E ==
敏捷D ===
技量B =====
体力D ===
魔力C ====
忠誠A =====
信仰C ====
スキル 戦術教養 セバスチャンが戦争に出陣している時、経験値が多く入る。
品性教養 モラルの低下を防ぎ、礼儀と品性能力を上げる。
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