第9章 侵略戦争
第50話 確率なんて目安
ラインハルト城ギルド本部にて、偉そうな男が足を組みながら資料を片手にギルド職員と現在の情勢を話していた。
「やはり南はドロテア軍が一番か」
「でしょうな。北の赤月、西は椿かと思われていたが、どうやら聖十字騎士団が台頭してきています。東は、まだバラバラでどうなるかわりませんしね」
「東は亜人や獣人が多いし、資源的にも一番厳しい。その点から見るとオンディーヌ家が一番かもしれないな」
「資源だけで見ればそうかもしれませんが、王のナルシス君は器ではありませんよ」
「僕もそう思う。東のEXレア保有率はどうなっている? なんといっても兵だろう」
「えーっと、ん?」
ギルド職員が資料に目を通すと一つ異常な点に気づいた。
「小規模チャリオットでEX四人なんてありえるのですかね?」
「ハハッ、ありえないでしょう。EXは凄まじい力を持っていますが、その反面維持コストがかさみますし、小規模ギルドで四人も持ったらコストに耐えきれず自壊しますよ」
「そんなところあるのか?」
「ええ、最近規模を増やしたみたいで……」
「あー、この王知ってますよ。確かレアリティRの戦士といつもウチのギルドに来てました」
「そんな凄い王なのかい?」
「いや、特にそんなことはなかったんですが」
「でも四人はバランス崩壊を起こしかねない人数だな」
「一度面談してみますか?」
「そうしよう。彼のEXも見てみたい」
俺はステファンギルドに急きょ呼び出されてソフィー、ディー、エーリカ、レイランと共にラインハルト城下町に来ていた。
「いきなり呼び出されるとかナニか悪いことしたネ?」
「なんにもしてねーよ。いきなりEX全員連れてギルドに来いって言われただけだ」
「やはりアンデッドを仲間にしたのはまずかったのではありませんか?」
チラリとレイランの方を伺うソフィー。
俺はそれにでこぴんを入れる。
「別に仲間がアンデッドだろうが、生きてようが死んでまいが関係ないの」
「死んでるのはさすがに関係あるのでは……」
「ワタシやっぱり迷惑ネ。外で待ってるヨ」
踵を返してギルドに入らず、どこかに行こうとするレイランの腕を掴んだ。
予想通り顔を覗くとちょっと泣きそうである。
意外とメンタル弱いところもある奴だと知っている。
「いいから行くぞ」
強引に腕を引いて連れていく。
「ちょ、離すネ、子供じゃないアル!」
その様子を膨らんだ風船みたいに見つめるソフィー。
「敵に塩を送るというのはこのことですね」
エーリカはソフィーに追い打ちをかけてから後に続く。
「恐らくだが、小規模チャリオットに四人もEXがいるというのは異常な事態なのだろう。だから一度様子を見たかったんじゃないだろうか?」
「だろうな」
今日自城を出る時、オリオンにはEX縛りってことを内緒にしていたが一瞬で気づかれて膨れトマトが出来上がってしまった。
帰りになんか買って帰ってご機嫌をとらなくてはならない。
ステファンギルドに入って用件を伝えると、すぐに二階に通された。
一つの部屋の前で何人かの王が待たされており、どうやら呼び出されたのは俺だけではなかったらしい。
お供を随伴している王はちらりほらり、大体一人で来ているようだ。
見知った顔はいないが、あまり景気の良さそうな顔をしている王はいない。
「失礼しましたー」
部屋からバンダナを身に着けた少年が出て来ると、目があった。
「ありゃ、梶さんじゃないっすか」
「おっ、カークか」
俺より後にこの世界に転移してきた王で、拠点は遠いのだが何度かギルドで出会ったことのある、俺と似たようなレベルの王だった。
ギスついた王が多い中フランクな性格で、誰とでも仲良くなれる特技を持っている。
後から来たのに既に俺より知り合いが多い。ぼっちとか言うな。
「お前も呼び出されてたのか」
「そうなんすよ。なんか弱小王集めて面談してるみたいで」
「やっぱ弱小のくくりなんだな」
俺は苦笑いをこぼした。ということはこの外で待たされているのはゴマ粒みたいな領地しか持たない有象無象の王なのだろう。
勿論俺もその中の一人である。
「何聞かれたんだ?」
「いやー特にこれと言って。兵が言うこと聞かないとか、お金がなさすぎて破算しそうとか、なんか困ってることないかって」
「ほんとただの面談なんだな」
「そうみたいっす。あっ、あと戦争する気あるかって」
「弱小王にそんな体力あるわけないだろうに」
「でもギルドとしては王がどんどん増えていくばかりなんで、できれば戦ってほしいみたいっすよ」
「管理も大変だろうからな」
「併合か、もしくは同盟軍か。今東には中途半端に強い王しかいないみたいで東西南北の四地域に分けて頭になる王がほしいみたいです」
「なるほど。ってことは北は赤月、南はドロテア、西は……あんま知らないけど椿か? 南の方が小さい国は多かったけど全部ドロテアに食われちまったからな」
「ですです。梶さんいっちょ東で旗あげして強国と渡り合えるくらいになってくださいよ~」
「ウチは今日生きるので精いっぱいです」
「ウチもですけどね」
カークと笑い合っていると、面談が終わったのか女性のペアが外に出てきた。
一人は髑髏の眼帯に海賊がよく身に着けているトライコーン。はちきれんばかりのビキニの上に革のロングコートを羽織り、下は短いスカートとブーツをはいていて、腰に二本の短銃をさしている。
切れ長の瞳に上品な顔立ちをして、凛々しく気が強そうに見える。
もう一人の少女は対照的に、華奢な体に猫背で黒ぶちの大きな眼鏡をかけオドオドとしており、こっちの世界に来たばかりの時の俺と様子が被った。
ふと少女の着ている服のセンスと、その手に持っているものを見て気づいた。
「あの子、俺と同じ世界から来てるな」
「わかるんすか?」
「スマホって言って遠くの人間と話をする道具だ」
「あー、たまに持ってる人いるっすね。まぁ自分には必要ないっすけど」
カークが中空を撫でると、そこにはスマホと全く同じ画面が映像として映しだされている。
スマホを持っている人間はスマホに情報が出されるが、持ってない人物は自分で投影し閲覧することができるようになっているらしい。
「あの子、多分来たとこっすよね?」
「そうだな。そう見える。でもあのあっちの海賊の方は凄く強く見えたな」
「そうっすね。Sか、もしかしたらEXかもしれないっす。羨ましいEXっているだけで一騎当千っすよ。俺もEX一人でいいから来てくんないかな。……でも噂っすけどEXは変な人多いらしっす」
変な人が多いと言われ、痴女シスター、痴女山賊、痴女ロボット、痴女キョンシーを見て確かにと思う。
「なにか失礼なこと考えてません?」
「あの顔は考えていますね」
「王の上位に入るにはEXの存在は不可欠とまで言われていますからね」
「小規模チャリオットでEXってどれくらいの割合で持ってるんだろうな」
「小規模でEX持ってるチャリオットなんてほとんどいませんよ。確かガチャからの排出確率0.1%じゃなかったでしたっけ?」
「れ、0.1?」
そんなに低いのか。
「ガチャに割合書いてるでしょ?」
言われてスマホを開くと、ガチャ割合と書かれた項目を見つけタップしてみる。
[EX0.1%]
[SR2%]
[HR10%]
[R35%]
[N52.9%]
うわ、なにこのブラックガチャ、サイモン出まくりじゃねーか。地味にSRの確率も酷い。
「たまに野良でEXクラスの人間がいるらしいんですけでど、そんな人俺達じゃスカウトできないっすから。きっと召喚石100個とか、10億ベスタとか要求されますよ。でもそれくらいの価値はあると思います。サイモン100人いてもEXにはきっと歯が立たないっすから」
確かにそれはそうなのだが。
俺はチラリと横目で四人のEXたちをうかがう。
世間知らずのお嬢様プリーストに、おかたい山賊騎士、人格を喪失した融機人に、正義オタクですぐ泣くアンデッド……。
いろいろ言いたいことはあるが、実力は確かなものなので黙ることにしよう。
話している間に俺の順番が回ってきて、カークに別れを告げて部屋の中に入る。
「失礼します」
扉を開いた直後だった。
唐突にナイフが三本、俺の顔めがけて飛来する。
「なっ!?」
かわす暇もなく俺はディーに引き倒され、レイランが前に出て青龍刀でナイフを弾き落とし、ソフィーが防御フィールドを展開しながら前に出る。
その後ろでエーリカがナイフを投擲した人物の眉間に、拳銃の照準を合わせていた。
「いや、お見事お見事」
ナイフを投擲した人物は、何が面白いのか楽しそうに拍手をしながら椅子に座る。
部屋の中には二人のギルド職員がいて、どちらも見たことのないやつだ。
ナイフを投げた髭の男と、ザマス眼鏡をかけた女。
二つの机とその前に椅子が一つだけ用意されている。
「お前何ネ、今度なめたことしてくれたらお前の喉搔っ切ってるやるネ」
狂犬のようなアンデッドをなだめつつも、いきなり顔面ナイフはご挨拶だなと思う。
「そりゃ怖い。まぁ座りたまえ」
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