第4章 ※原作Web版5章のネタバレあり。

第31話 調子に乗るのはやめましょう

「よっ…、ととっ……はわわっ…!」



「……なにやってんだあいつは」


 大きな荷物に小さな体を翻弄されている奴を見つけて。俺はため息を一つついて駆け足で近づく。


「ほれ、半分持ってやるからよこせ」


 そう言って俺は小さな体の持ち主――ロリサキュバス――が持っていた荷物の半分を少し強引に受け取る。俺にしてみれば軽いものだがこいつみたいな子供体型には厳しい量の荷物だろう。


「あ、ありがとうございm……って、ダストさん!? ダメですよ! それはお店でお客さんに出す品物なんですから! 返してください!」

「まるで俺がひったくりしたような反応はやめろ! さすがの俺もちょっといいことしたのに留置所入れられるのは納得しねえぞ!」


 道行く連中が警察呼ばなきゃとか言ってるし、割りと洒落になってない。


「……え? もしかしてダストさん、私の荷物を持ってくれようとしたんですか?」

「そうだが……」


 なんでこいつは信じられないものを見たような顔をしてんだ。


「あ、もしかして何か悪いものでも食べたんですか? ダメですよ、人間は食中りってのをするんですから」

「そのネタはもういいと言っただろうが……」


 なんで俺の周りにいる奴は、俺がちょっといいことしたらそんな反応すんだよ。


「じゃあ、ダストさんは正気なのに善行を?…………槍でも降るんでしょうか」

「降らねえよ! お前らは俺をなんだと思ってんだ!」


 リーンといい、ゆんゆんといい、俺の周りにいる奴……とくに女どもは俺の事を悪魔かアクシズ教徒だと思ってんじゃねえだろうな。


「悪魔より悪魔らしい人だとは思ってますね。……実は上級悪魔だったりしません?」

「しねえよ……」


 本当にそう思ってんのかよ。流石の俺もバニルの旦那に比べたら普通だぞ。


「はぁ……なんか荷物持ってやる気が失せて来たんだが……」


 なんで気を遣ってやったというのに悪魔みたいとか言われなきゃならないんだ。


「ぁ……ごめんなさい。意外すぎることとはいえ、失礼でしたね。その……持ってくれるなら凄く嬉しいです。ありがとうございます」

「おう、一言多いのは気になるが、素直に謝ったから良しとしよう。感謝しろよ」


 ゆんゆんのおかげで一言多いのは慣れてるしな。




「それで、ダストさん。どうして荷物を持とうだなんて思ったんですか?言っておきますけど、流石に荷物持ってもらったくらいじゃ店の割引は出来ないですよ?」


 並んで歩きだした所で。ロリサキュバスは不思議そうな顔をしてそんなことを言う。


「なんで見返り前提なんだよとお前のほっぺた引っ張って聞いてやりたいとこだが……別にそんなこと期待してねえよ」


 そりゃサービスしてくれるんなら喜んで受けるが、リーダーの姉ちゃんならともかく、新人ロリのこいつにそんな権限あるとか思えないしな。


「じゃあ、私の女としての魅力に魅了されちゃったんですか?」

「お前の女としての魅力……?」


 ロリコン限定の魅力があるのは認めるが、それを女の魅力とは認められないぞ。


「なんで本気で不思議そうな顔をしてるんですか! 最近は私の人気も急上昇で『エロい』ってたくさん誉められてるんですからね!」

「ロリコンが多いんだな、この街」


 ルナが行き遅れてる原因ってサキュバスサービスじゃなくて、案外そっちなんじゃねえか?


「……なんだか、ダストさんに私の魅力を分からせるのは無理のような気がしてきました」

「そうでもないぞ。お前がリーダーの姉ちゃん並にむちむちになりゃいくらでも魅了されてやるよ」


 子供体型なだけで顔自体は文句なしだし。


「私があそこまで成長する頃にはダストさん死んでますよ……」


 今現在で俺の数倍生きてるって話だもんな。立派に成長する頃には確かに俺は寿命か。

 ……こいつには、幼い身体のわりに妙に色気を感じることもあるし、成長した姿なら実際魅了されそうなんだがな。なんで俺の回りにいる女は守備範囲外だったり成長不足だったりともったいない奴ばかりなのか。


「なんかこう、一気に成長する方法とかねえのか?お前が成長した姿を一目でいいから見てみたいんだか」

「見るだけなら夢の中なら見せられると思いますよ?」

「それも悪くはないんだが、ゆんゆんでそれやっちまってるからなぁ……」


 有り難みがないというか、有り難みがなくなるというか。


「現実でとなると……ダストさん並に良質な精気をたくさん貰えれば成長が早くなるかもしれないですね。私がこの歳で残機が増えたのもダストさんの良質な精気を毎日のように貰えたからでしょうし」

「たくさんって言うとどれくらいだ?」

「ダストさんの精気100年分?」

「死んでるじゃねえか!」


 仮に生きてるとしても、じいさんになってまで精気絞られてる自分はあまり想像したくねえぞ。


「いえ、100年分というのは普段の悪影響与えない範囲での量ずつの話で、限界ギリギリまで吸っていいなら5年くらいでいけます」

「それ途中で死なねえか……?」


 死なないにしてもまともに冒険出来る気がしないし、そこまでやって5年というのも地味に長い。


「大丈夫ですよ。ダストさん並に良質な精気をくれる人がいれば負担は減ります」

「……俺並に良質な精気を持ってるやつお前は知ってんのか?」

「……知らないですね。ダストさんの精気って、先輩達からダストさんの担当やってるの羨ましがられるレベルですし」


 ダメじゃねえか。


「他になんかいい方法ねえのか?」


 別にないならないでそれでいいんだが。


「んーと……悪魔使いの方が私と契約してくれれば、与えられる魔力を利用して一時的に大きくなれるかも……?」

「なんだよ、いい方法あるじゃねえか」


 疑問形なのが少し不安だが、100年分の精気を集めるよりかは現実的だ。


「でも、悪魔使いの方が行う召喚契約って指名式にしてもランダム式にしても地獄にいる悪魔が基本なんですよね。バニル様みたいに本体が地獄にいるとかならまだ対象になるみたいですけど、私含めてサキュバスは本体で来てますし」

「めんどくせえな……」


 つまりこいつが悪魔使いと契約をしたければ一旦地獄に帰らないといけないってことか。


「てか、サキュバスって本体で来てんのか。旦那みてえに仮の姿か何かだと思ってたんだが」

「下級悪魔のサキュバスが仮の姿で来れるわけないじゃないですか。来れたとしてもまともに動けないですよ」

「…………意外にペナルティ大きいんだな」

「地獄の管轄世界である魔界ならそこまで大きなペナルティでもないんですけどねー。地獄からこの世界に魔力を送るのはすごく大変なんです。だからバニル様は私達の憧れなんですよ」


 仮の姿だってのに旦那はアホみたいに強いからな。


「でも、弱くなるのになんで旦那は仮の姿で来てるんだ? そりゃ、旦那の目的考えればそこまで強くある必要はねえのかも知れねえが」


 旦那はこの世界でトップクラスに強い。だが、最強ってわけでもない。冬将軍クラスの大精霊を相手にするなら流石の旦那も勝てないはずだ。アクアのねーちゃんみたいなイレギュラーは置いておくにしても、ゼスタや紅魔族と言った奴らに複数で挑まれれば死ぬ可能性はゼロじゃない。


「それは本体で来てもこの世界で本当の力は全然発揮できないからじゃないでしょうか」

「? 本体で来てもペナルティはあるってことか?」


 魔力を送るのが大変だから弱くなるって理屈はわかるんだが、本体でもそういうのがあるのか。


「これは悪魔に限った話じゃなく、神とかでも一緒なんですが、強すぎる力はこの世界では抑制されるんですよ。それも力が強ければ強いほど加速度的に」

「つまり……バニルの旦那クラスに強い存在は仮の姿できても本体で来てもそんなに強さは変わらないってことか?」

「本体出来たほうが強いのは間違いないと思うんですけどねー。ただ、本体が完全に滅せられる可能性があることを考えれば仮の姿のほうが安心ですよね」


 まぁ、仮の姿を潰されても本体は平気だもんな。


「じゃあ、本体で来てるサキュバス達は死んだらそこで終わりってことか」


 そう考えればこいつらは凄い危ない橋を渡ってんだな。


「そこが少しややこしい所なんですが、本体でこの世界に来ている悪魔も基本的には死んでも地獄に帰るだけなんですよ」

「…………もしかして、残機か?」

「……ダストさんってたまに鋭いところを見せますよね。そうです、この世界に来ている悪魔は基本的に残機を1つ以上……2回以上殺されないと死にません。そして、召喚された悪魔であれば残機を一つ失った時点で、そうでない悪魔も残機を全て失えば地獄へ帰るように契約しているんです」


 残機を複数持つ悪魔は珍しいと言われているが、裏を返せば一つ持っている悪魔は珍しい訳じゃないんだろう。というより、人間から見れば残機を1つ殺されて地獄に帰ったか、本当に殺されたかなんて分からない。複数持ってる悪魔ならすぐにこの世界で復活することがあるから残機持ちだと分かるだけだ。


「でも、そう聞くと本体でくるデメリットはそんなないように思えるな」

「実際ないですよ? オーバーキルされたら残機とか関係なく完全に死んじゃう事以外は……」

「…………なんだかんだでお前には世話になってる。怖いやつに殺されそうになったときは遠慮なく言えよ」


 だから、そんなうつろな目をしてんじゃねえよ。見てるこっちが痛々しい。


「じゃ、じゃあ……最近銀髪の盗賊風の格好をした男の人や金髪碧眼のプリーストの服着た女の人に、仕事に行く途中襲われたりするんですが…………」

「…………そういう話はカズマにでもしろ。俺の管轄外だ」

「助けてくれるんじゃないんですか!?」

「いや、助けたいのは山々だが…………あいつら相手に守りきる自信ないし」


 その点カズマならなんだかんだで何とかするだろう。


「だいたい、仕事行く途中ってことは見つかるほうが悪いだろ。どうせ飛んで移動したり、サキュバスの服来て宿に向かってんじゃねえのか?」

「ぅぐ……。た、確かにそうですけど……、飛ぶのはともかくサキュバスの服を着ていくのはお客さんを喜ばすためだからやめられないですよー」

「どうせ大体のやつは寝てるだろうに……」


 寝てたら格好なんて何着てても変わらない。


「でも、たまにカズマさんとか起きてますし……カズマさんサキュバスの服を気に入ってるみたいですから……」

「…………やっぱりあいつロリコンじゃねえか?」


 そりゃ俺もサキュバスの服はエロくて好きだが、こいつが着るって考えるなら村娘の服でもそんな変わらない。


「…………ダストさんもロリコンさんになればいいのに」

「天地がひっくり返ってもねえな」

「じゃあホモになってください」

「なんでだよ!?」

「ダストさんがホモになれば幸せになる人が増えると思うんですけどねぇ」


 それは俺が女にセクハラしなくなるからという意味だろうか。…………ホモになったら男にセクハラするようになるだけじゃねえのか? いや、真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しいけど。





「とにかく、お前は結局ロリコン好みの体型のままってことか。この世界にいる悪魔と直接契約する方法はねえのか?」

「ない……ことはないんですが…………」

「その反応は難しいのか?」


 ロリサキュバスは下を向いて考え込んでいる。だいぶ考え込んでるのか、持っている荷物の中身が落ちたのに気づいていないくらいだ。


「…………技術的にはそこまで難しくないんですが、リスクを考えるとかなり難しいです」

「ふーん……まぁ、とりあえず言ってみろよ。そのリスクもなんとかする方法あるかも知れねえし」


 それこそバニルの旦那ならなんとかする方法知ってるかもしれないしな。


「じゃあ、言います。その方法は『真名契約』って言うんですが……」

「『真名契約』?…………あー、前にどっかで聞いたことがあるな」


 いつだっけか。だいぶ前だしダストになってからじゃねえな。てことはライン時代だが…………あの頃の記憶は姫さんやミネアのこと以外は殆ど覚えてないからなぁ。


「『真名契約』はその名前の通り悪魔の真名を使った契約です。必要なのは契約者が悪魔の真名を知っていることと。それさえ満たしていれば眼の前にいる悪魔となら『真名契約』を誰でも結べます」

「…………本当技術的には簡単だな」


 多少の手順はあるだろうが、それは別に難しくないんだろう。誰でもと言うにはステータス的な制限もないんだろうし。


「……で? リスクはなんなんだ?」

「…………ダストさんは、普通の召喚契約がどういうものか知ってますか?」

「専門じゃねえから詳しくは知らねえが…………悪魔に契約の代償を提示するんだろ? で、悪魔側が代償が気に食わなかったりそもそも召喚主が気に食わなかったら殺して召喚をなかったことにすると」


 だから悪魔使いは悪魔の召喚にあたって綿密な計画を立てるし、契約に失敗しても命だけは助かるように逃げ道をたくさん用意する。


「『真名契約』の代償は『真名を他の誰にも話さない』で固定されているんです。そしてその代償を守っている限り契約者には絶対服従で殺すことも出来ない」

「…………そりゃ、リスクどころの話じゃねえな」


 普通の召喚契約であれば絶対服従なんてことはない。あくまで代償に見合った範囲で力を貸したりするだけだ。絶対服従の契約をするのであれば悪魔の持つ力に応じて膨大な代償を払わないといけない。それが『真名契約』なら真名を話さないという誰でも簡単に払い続けれるものでいいという。


「しかも、真名を知られていれば悪魔側に拒否権がないんです。だから悪魔は人に真名を知られることを何よりも忌避します」

「そういや、店のサキュバスたちも『ロリサキュバス』やら『サキュバスリーダー』やら呼ばれてるだけで名前で呼ばれてる所見たことねえな」


 サキュバス同士で話している所でも『リーダー』やら『新人ちゃん』呼びで固有名詞が出た覚えがない。『真名契約』というものがロリサキュバスが言った通りのものなら当然かも知れないが。


「ん? じゃあ、旦那の名前も偽名なのか?」

「そのはずですよ? と言っても悪魔の真名は自分と自分を作ってくれた悪魔しか知らないのが普通ですからバニル様の真名は知らないですけど」

「そうなのか。じゃあお前らも偽名を名乗ればいいのに…………って、あれ? お前今さらっと凄いこと言わなかったか?」


 自分を作ってくれた悪魔……?


「下級悪魔は自分で仮の名前を付ける権利を持たないんです。上級悪魔以上なら名乗れるようになりますけど、それ以外の悪魔なら誰かと契約してその人に名付けてもらうとかしないと」

「…………なんつうか、悪魔も大変なんだな」

「そうですよー…………はぁ、自由に偽名を名乗れる人間さんが羨ましいです」


 おう、そんな意味ありげな視線を向けんな。いや、確かに俺はこいつにしてみれば羨ましがられる立場なのかも知れねえが。






「あれ? ダスト君? ダスト君がゆんゆんさんや、あの魔法使いの子以外と一緒にいるなんて珍しいわね」

「あん? セシリーじゃねえか。別に俺はゆんゆんやリーンとばっかり一緒にいるわけじゃねえぞ。ルナにちょっかいかけるのも日課だし、このロリっ子とは割りと一緒にいる」


 後ろから掛けられる声。振り返ってみればアクセルの街が誇る破戒僧。アクシズ教団アクセル支部長のセシリーの姿があった。

 …………こいつもアクシズ教徒の中じゃ割りとお偉いさんなんだよな。こんなやつが出世できるって本当あの教団はどうなってんだろう。


「(……で、ロリサキュバス。なんでお前は俺の後ろに隠れてんだ?)」

「(さ、さっき話した金髪碧眼のプリーストってこの人のことなんですよー。あんまり顔を合わせたくないんでダストさんお願いします)」


 あー……やっぱりさっきの話はセシリーのことだったか。となると銀髪の盗賊の格好した男ってのはクリスのことで良さそうだな。てか、この街で見かける銀髪なんてクリスくらいだし。

 世の中広いようで狭いもんだな。


「で? なんか俺らに用なのか? なんかおっきな荷物持ってるみたいだが」


 キャリーバッグって言ったか? カズマやら旦那やらが絡んでるらしい旅用の大きな荷物入れをセシリーは引いて歩いている。


「あ、うん。これは別に関係ないんだけどね。――はい、可愛いお嬢さん。荷物落としてたわよ」


 ひょこっと俺の後ろに顔を出して。そこに隠れているロリサキュバスの持つ大きな袋に、さっき落ちた荷物を入れてやるセシリー。

 …………わざわざ拾って追いかけてきてくれたのか。こいつはいろいろ頭おかしいし欲望に正直すぎるが、やっぱり悪人ではないんだよな。


「ひぇっ…………あ、ありがとうございます」

「いえいえ。……んー、なんかお姉さんのこと怖がられてるみたいだけど、お姉さん何かしちゃった?」

「べ、別に怖がってるとかそんなことは…………」


 そう言いながら何度もちらりと俺の方を見るロリサキュバス。その目が助けてください言ってる気がする……のは気のせいじゃないんだろうな。


「おい、セシリー。あんまり近づいてやんな。そいつは女性恐怖症なんだよ」


 一つだけため息を付いて。俺は適当にロリサキュバスへ助け舟を出す。


「女性恐怖症? 女の子なのに?」

「そうだ。そいつは生まれつきの男たらしでな。男に囲まれて男を手玉に取ることに生きがいを感じてるんだ」

「…………こんなに可愛い顔をして凄いのね」

「おうよ、そんな小さいなりしてんのに多くの男を魅了してるみたいでよ。さっきも『エロい』って褒められてて人気あるって自慢してたくらいだぞ」

「ひ、人は見かけによらないのね。流石のお姉さんもびっくりだわ」

「全くだ」


 ……で? ロリサキュバスさんよ。なんでお前俺の足を蹴ってんだよ。せっかく助け舟出してやってんのに。それに女性恐怖症以外は別に嘘でもないだろ。


「…………ダスト君もこの子に手玉に取られてるの?」

「いや、俺はロリコンじゃねぇから全然」


 おう、蹴るの激しくしてんじゃねえよ。そんなに激しくしてたらまた荷物落ちるぞ。


「くすくす……でも、仲良いのは確かみたいね」


 そんな俺らの様子の何が面白かったんだろうか。セシリーはまるで微笑ましいものを見る顔をしている。


「仲良いってか……ま、腐れ縁なのは確かだが」


 感覚的には妹みたいなもんか……? それ言ったらゆんゆんやリーンも当てはまる気がするが。…………でもこいつ一応俺よりもずっと歳上なんだよな。



「そんなことより、お前そんな大きな荷物持ってどこ行くんだ?」


 ロリサキュバスとの関係について深く聞かれたら色々面倒だ。あの店のことなしにロリサキュバスのこと説明すんのは面倒この上ない。早々に話を切り替える。


「あ、うん。ちょっとアルカンレティアまでね。馬車での旅になるからちょっと長い間留守にするわ」

「アクシズ教徒の総本山か。何しに行くんだ?」


 アクシズ教徒の総本山、水と温泉の都アルカンレティア。……今は温泉なくなって水の都アルカンレティアだったか。町並みはすげえ綺麗って話だから一度行ってみたいんだよな。ゼスタにもあの時のことお礼言いてえし。


「なんでもゼスタ様が問題起こして捕まったみたいでね」


 …………いや、うん。アクアのねーちゃんを例外にすりゃ、あのアクシズ教徒の最高責任者だしな。そりゃまともなやつじゃないのは想像付いてたが…………。

 一応命の恩人で、ハンスやベルディアに立ち向かう姿は結構格好良かったからなんかがっくりくる。


「問題って、一体全体あのおっさんはなにをしたんだ?」

「うん。なんでもエリス教徒のプリーストと衛兵への度重なるセクハラがついに限度を超えちゃったみたいで。裁判起こされて有罪判決」

「ほんとがっかりだよ!」


 セシリー以上の変態とは聞いていたが……。


「そのゼスタって方もダストさんにだけはがっかりされたくないと思いますよ?」

「さっきから後ろに隠れてるくせにそんな所だけ反応すんじゃねえよ!」


 お前を一応庇ってやってるのになんで後ろから刺されないといけないんだ。


「うんうん。その子の言うとおり。ダスト君だってセクハラばっかりでいつ捕まってもおかしくないじゃない」

「お前にだけは絶対言われる筋合いねえからな……」


 大体最近の俺がセクハラしてんのなんてゆんゆんとルナくらいだぞ。あいつら相手ならちゃんと加減分かってるし捕まるわけがない。



「まぁ、捕まった原因はどうでもいいか。とにかくお前はゼスタの罪を軽くしようと署名活動でもしに行くのか」


 どんなやつであれ教団の最高責任者だ。いないとなると困るだろう。早く出てこれるように何かしに行くに違いない。


「ううん。ゼスタ様の代わりの最高責任者を決めるための選挙をするみたいだからそれに参加しに」

「…………あ、うん。そうだよな。お前らアクシズ教徒だもんな」


 普通の思考回路をしてないからこいつらはアクシズ教徒になったわけで。


「というわけでダスト君。今度会う時の私はアクシズ教団次期最高司祭のセシリーお姉ちゃんよ」

「そこまで自信満々に言われると本気でそうなりそうだからこええな……」

「ふふーん、実際私の敵になりそうなのってトリスタンくらいだもの」


 トリスタンとかいう人もセシリーと同じくらいおかしいやつなんだろうか。……こんなやつが複数人いるとかアクシズ教徒怖い。


「つーか、そんだけ野心持ってる奴らがいてよくゼスタは最高責任者を長いこと務められてたな」


 最高司祭になってからもう4年、次期最高司祭として実質的な最高責任者になってからなら7年位か。クセのあるアクシズ教徒をそれだけの間まとめて上に立つってのは普通できるもんじゃない。


「…………あの方のアクア様に対する信仰心とプリーストとしての実力だけはみんな一目置いているから。あとついでに変態性も」

「そのついではいらねぇ。…………ま、アクアの姉ちゃんを抜きにすりゃ人類最高のアークプリーストだろうしな」


 …………人類最高のアークプリーストがセクハラで裁判起こされて有罪判決か。もう、人類は魔王軍に滅ぼされたほうがいいんじゃねぇか?


「まぁ、選挙をするって言っても、なんだかんだでゼスタ様が選挙期間中に牢屋から出てきて、結局ゼスタ様が最高責任者を継続って形になる気もするんだけどね」

「もしかしてお前らは…………」

「ん? どうしたのダスト君?」

「…………いや、なんでもねぇ」


 ゼスタが早く出たいと考えるように、盛大に選挙をしようとしてるなんて考えすぎか。こいつらは俺と一緒でただ自分に正直に生きてるだけなんだから。


「それで? 結局いないってどれくらいの間いないんだ?」


 別にいなくなるのは構わないがも近い。俺としてはどうでもいいがの事を考えるならこんな奴でもいたほうが嬉しいだろう。


「んーと……2週間から3週間くらいかしら?」

「…………おい」


 完全にを越えてんじゃねえか。


「というわけでダスト君。私は不参加になっちゃうわ。埋め合わせは絶対するからよろしく言っておいて」

「はぁ……しょうがねぇな。ちゃんとは用意しとけよ?」

「分かってるわ。アルカンレティアでちゃんと探しておくから。…………ダスト君にもお土産欲しい?」

「いらねえからさっさと行ってさっさと帰ってこい」


 時期外れなくらい遅れたら微妙な感じになるんだからよ。


「ん、分かったわ。でも……ふふっ」

「なんだよ、変なふうに笑いやがって」


 お土産いらないってのがそんなに面白かったのか?


「だって、あんなに捻くれてたダスト君が随分素直になったなあって、凄く嬉しいんだもの」

「…………うぜぇ。旅に出るならさっさと行っちまえ」


 お前に俺の何が分かるってんだ。ただの腐れ縁のプリーストのくせに。


「確かにそろそろ馬車が出る時間ね。……じゃ、またねダスト君。そっちの可愛い子も」


 そう言ってセシリーは手を振って馬車の止まる場所へ向かって走っていく。


「ふぅ……怖かったぁ……」

「この貸しは高く付くからな。あのプリーストの相手はただでさえ疲れんだからよ」


 セシリーの姿がなくなって。俺の後ろから出てきたロリサキュバスは安堵の息を付いている。


「分かってますよ。流石に店の料金をサービスみたいなことは出来ませんけど、この前みたいに精気を貰うのなしで夢を見せるくらいならします」

「…………次は真面目にやれよ?」


 ちゃんとエロい女を夢に出してもらわないと礼にはならない。


「あの時もちゃんと真面目にやろうとしたんですけどねー……はぁ」


 真面目にやって自分を夢の中に出すとかどんだけこいつは自分に自信があるんだ。

 ……でも、こいつって別に自信過剰とかそういうタイプじゃねぇ気がするんだがな。


「それより、ダストさんってあのプリーストの人のこと苦手なんですか? なんだか凄い押されてた気がするんですけど」

「まぁ……苦手は苦手だな」


 あいつを相手にするといつもの調子が出ない。別に嫌いってわけじゃないし、自由に生きているあいつの生き様は割りと好きですらある。ただ、ああいうタイプに俺は強く出れない。


「何か理由でもあるんですか?」

「……思い出すんだよ。ああいう自由で奔放過ぎる女を見てるとな」

「それって――」

「――うし、店についたな。どうする? 中まで運べばいいか?」


 話して歩いている内にサキュバスの店までつく。


「……それじゃあ裏口までお願いします」

「了解」


 話を途中で切られたからか、妙に不機嫌そうなロリサキュバスに気づきながらも。俺はそれに気づかないふりをして荷物を運んでいく。



「よし、じゃあもういいよな? 帰るぞ」

「あ、はい。ありがとうございました」


 持っていた荷物を下ろして俺は肩を回す。そんなに重たくないとは言えそれなりの距離を歩いたからか微妙に肩がこっている。

 …………もう少しだけ恩返ししていくか。


「ひゃぅっ! だ、ダストさん? いきなりどうしたんですか?」

「んー……やっぱお前の肩もこってんな。次の買い出しはロリコンなやつでも捕まえて荷物全部持ってもらうようにしとけよ」


 ロリサキュバスの小さな肩を指でほぐす。俺と同じようにこってるその肩を揉んでいると悪魔って言ってもサキュバスは人間とそんな変わらないんだなと、なんとはなしに思う。


「ど、どうしたんですかいきなり? ダストさんにいきなりこんなことされると裏があるんじゃないかって疑うんですけど」

「別に裏はねぇよ。今日のはただのきまぐれだ」


 この間のグロウキメラ討伐クエストで。俺がゆんゆんを助けに入れたのはこいつが槍を持って後ろから付いてきてくれたからだ。手伝ってくれた理由にバニルの旦那の存在があるとは言え、助かったことに変わりはない。

 だから、きまぐれでこれくらいの恩返しはしてもおかしくはない……よな。


「きまぐれ……ですか? なら、きまぐれで足の方のマッサージも……いたっ!」

「調子に乗ってんじゃねえぞ。そういうのはお前にマッサージするのが役得とか思うロリコンにでもたのめ」

「うぅ……なんだかんだで私に魅了されたのかなって思ったのに……」


 デコピンされた額を抑えて。恨めしそうな顔をしているロリサキュバス。


「だから俺はロリコンじゃねえって言ってんだろ。悔しかったらさっさと大きくなるんだな」



 でもまぁ、こいつはずっとこのままでもいいのかもしれない。

 怒って頬を膨らませているロリサキュバスを見ながら、俺はそんなことを思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る