第56話 登攀者

人呼んで『魔王城』

大陸最大にして、おそらくは唯一残された未盗掘の塔である。


なにしろ地上の正門は固く閉じて開かず、その外壁は青銅の斧さえをも撥ねつける。

となれば塔の頂に必ずある簡易門、そこより他に侵入口はない。

だからこれまで数多の盗掘者クライマーたちがその登攀に挑み、そして散っていった。


俺のアタック初日。

まずは蔦の繁る『密林地帯』を抜ける。

ここから先は樹脂の吸盤と爪靴で、じわりじわりと登っていくのだ。


登攀17日目には嵐を必死で乗り切り、22日目で雲海を突破した。

しかしこれで朝露を舐める以外には飲み水もなくなり、31日目でいよいよ携行食も尽きた。


俺にはもう引き返す道もない。

飢えと乾き、寒さと息苦しさに耐えながら、ただひたすらに登る。


なぜこうまでして?


それは俺にも分からない。

だがきっとそれは、お宝とか仲間の敵討ちなんてちっぽけな理由なんかじゃない。



俺は登攀者クライマー

その矜持だけを背負い、この命の限り登っていく。

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