ふさふさとその生態

藤滝莉多

牧場での生態

 ふさふさは、毛が売り物になる家畜です。

 社会に流通しているふさふさの毛は、一般的に桜色。そして桜色でありながら、太陽に当たると金にも輝くものが最高級とされています。

 季節ごとに生え変わる毛が特徴で、その季節によって呼び名も色も変わります。しかしどの季節であろうとも、表記は「ふさふさ」であることが多いです。

 秋には毛が生え変わるため、まだ抜けきっていない夏の毛と、生え始めた冬毛が混ざってもさもさになります。

 そうしてその時期が終わると、冬にはもこもこになります。冬のふさふさは実は白い色をしています。雪国が発祥の家畜であるため、雪の中に身を隠して、天敵から身を守るためだと考えられています。しかし、世間に出回るふさふさの毛はほぼ全てが桜色。冬毛はあまり出回りません。実はふさふさが桜色であるのは、春一番の毛だけなのです。冬毛は暖かくなると、だんだん桜色に染まっていきます。

 その仕組みを利用して、フランスのコルシカ島で寒中水泳法という飼育方法が編み出されました。

 寒中水泳法とは、ふさふさを水の中に閉じ込めて、寒さで無理やり冬毛を生えさせる方法です。わざと体温が下がるような環境にふさふさをおくことで冬毛を促進させ、それが生えたら暖かい場所に移動させ、色の変化を促します。この手法をとることで作業効率が格段に上がるため、牧場では水の中をあっぷあっぷしているふさふさが一般的です。

 さて、ふさふさの毛の刈り方ですが、刈られている時はとても大人しいため、危険は全くありません。

 しかし毛を刈られたふさふさは、心に相当なダメージを受けます。そのため次の日の朝には舌を噛みちぎって全頭が死んでいる、ということも多いです。ふさふさを毛刈りした後は、非常に注意が必要になります。舌はあらかじめ抜いておくか、もしくは毛刈りした後は口輪をはめさせておきましょう。

 ふさふさには「テストキカン」という時期があり、その時期のふさふさの毛はぼさぼさになります。しかしこの時期がくると、育て主たちは非常に喜びます。

 何故なら、ぼさぼさになった数日後には必ず「ふわふわ」という最高級の毛に変わるからです。これが前述した、桜色でありながら太陽に当たると金に輝く毛の名称です。この時期は定期的にやってくるので、それに合わせて企業が毛売り市場に顔を出すことも多いです。

 しかしこの現象は若い個体にしか起こらず、期間も定められています。他にも「テイシュツビ」「シメキリ」と呼ばれる時期があり、似たような現象が起きますが、「テストキカン」には程遠いです。

 しかしそれらの単語が何を意味しているのかは分かっていません。そして、ぼさぼさになる時期は数日のばらけこそあるものの、どのふさふさもほぼ同じ時期に変わります。しかし不思議なことに、ぼさぼさたちがふわふわに変わるタイミングに、それぞれの時間の差はほぼありません。数日のばらけが生まれるのはともかく、何故一斉にふわふわへと変わるのかの謎は、未だにはっきり解き明かされていません。

 さらに、早いものであればふわふわになる1ヶ月前にぼさぼさになったり、遅いものであれば全頭がふわふわになるわずか一週間前にぼさぼさになるものもいます。何故かぼさぼさである期間が短いものほど、ふわふわになった時の毛が上質になり、ぼさぼさの期間が長いものほど、そこまでの質は確保できません。

 なお、「テストキカン」などの単語は、その時期だけふさふさの鳴き声にその単語が混じるために付けられた名称です。

普段の鳴き声は「ふさっ」「ふさふさっ」「ふさぁ」です。

 そして「テイシュツビ」「シメキリ」期間には、その鳴き声以外にも「レポート」という単語が聞き取れます。しかしこの二つの期間は成体になる前後のふさふさにしか起こらない現象のため、あまり知られてはいません。

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