出会い

「大きくなったな、スクナ」

「なにを……」

「『愛の真ん中にあって、必要不可欠なものは何だ?』」

「それ!」

「俺の名はユースティリア・リーゼン。この名前に聞き覚えは?」


 怯えるスクナに視線をあわせながら、やさしく笑うユースティリア。そんなところがユティーとは違って、スクナの警戒を強める一因だった。


「あ、雨ノ国の……」

「違う、ユティーは名前なのか?」

「え」

「本当の名前なのか?」


 ふと、記憶がフラッシュバックする。


 幼い頃、遠足として言ったヒイラギで迷ってしまった時。路地裏で壁にもたれて座る男を見つけた。平和な街の中にふさわしくないかっちりとした軍服。風になびく右袖。ぜいぜいと大きく全身でなされる呼吸。スクナを見た、金色の瞳はぎらぎら輝いていて手負いの獣のようだった。


「あの、だいじょうぶですか」

「来るなガキ、殺すぞ」

「えっと、くるしいの? なでなでしてあげるね。つるばあちゃん、スクナのなでなででいつもらくになるっていってくれるんだよ」

「触るな、殺すぞ」

「なでなでー」


 強い視線にも負けずに背中をさするとびくりと震えた。一瞬息をつめ、何回か繰り返すと、それに合わせるように男は息を吐き出していた。

 何も言わず、無言で背中をさすっているスクナに、男は吐き捨てるように言った。


「行け、ガキ。もういい」

「えー、でもスクナお兄ちゃんのおめめきらきら見てたいもん」

「は」

「きらきらのいろ、おほしさまみたいきれいねー」


 嬉し気に何度もきれいきれいと繰り返すスクナを、男はそのきれいな顔を呆然とさせながら見ていた。

 なにを言われているのかわからない、そんな顔で。呆然と、唖然と口を開けてスクナを見ていた。この時ばかりは、まるで図ったかのように風も呼吸も止まっていた。


「この目が……」

「んー?」

「この金の化け物の目が、綺麗?」

「化け物じゃないよ! うん、たからものみたい! きれい!」


 きゃっきゃとはしゃぐスクナを見る目は、見たこともない生き物を見るまなざしだった。珍妙な何かを視界に入れたというような目だった。


 やがて、男は重い口を開いた。


「なぞなぞは好きか、ガキ」

「? だいすきー」

「じゃあ答えろ。『愛の真ん中にあって、必要不可欠なものは何だ?』」

「ん……ん? なぞなぞ……あいにひつようなもの?」

「そうだ、なんだと思う」

「んーとね、スクナはねえ。『こころ』かな?」

「なぜ……」

「だって、あいっていっぱいのだいすきなんだよ? こころがなくちゃ、だいすきはおもえないの」

「は」


 答えた瞬間から。ゆっくり足先から光の粒子となっていく男の身体。今思えば、あれはしがらみが解けた証だったのだ。当時はそれを知らなくて、スクナは泣いて縋った。消えないように、左腕をぎゅっと抱きしめて。


 その時、男はスクナに囁いたのだ。


「私の名はユースティリアだ。覚えろ、ガキ」

「がきじゃないもん! スクナだもん! ユーティ? ユティーお兄ちゃん?」

「誰が死ぬか、馬鹿者め」

「むー、スクナばかじゃないもん!」


 ぎゅっと固く目を閉じていた。消えてしま瞬間が怖くて。爆発的な光の後、抱き返された時にはひどく安堵して、そのまま眠ってしまった。それが。

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