お仕事おわり
「ユティー……」
「どうしたスクナ。謝る気になったのか」
青ざめているのを驚きのあまりととらえたユティーのにやにやとしたいやらしい笑いは止まらない。戸惑ったようにユティーとチナミを見比べるスクナに、チナミは怪訝な瞳を向け首を横に傾けた。
「本当にどうしたんだ、君。青いぞ」
「チナミ班長……。大丈夫です。謝りはしないけど、ユティー『お願い』。本、戻して」
「ちっ……わかった」
「ありがとう」
「ふん。本よ、元あった場所へ」
まるでマイクを通したときのように、きぃんと副音を響かせながら通る声。特に大きな声ではないそれが静かな図書館の中に響き渡る。自然と視線を集める声に、スクナとチナミはユティーへと視線を投げていた。
2人は当然のように動きを止め、絶対的な絶望的なまでの圧倒力に支配された感覚を味わいながら。息をつめ胸が苦しくなるような感覚に陥った。
すべてのものが時間を止めたその中で、命令を下された本たちは。その一言だけで床、長テーブルに落ちていたすべての本が浮き上がり、本棚へと我先にと駆け込んでいった。
そう、スクナは気付いたのだ。気づいてしまったのだ。ユティーの「有言実行」の能力、言葉で事象を操るそれを使えば。一瞬で本は戻り、今日の作業は終了することに。
最後の一冊が自ら割り込むように本棚へと戻っていくのを最後に、圧倒的なまでの支配は解かれた。ふっと緩められた空気。
それを見ていたチナミはぽかんと口を開け目を丸くする。
今日1日、今までの苦労はいったい……。
「チナミ班長……」
「言うな。今日は課外授業で、ヒイラギの人たちと親睦を深める日だった」
「……そうですよね! あと、頑張りをみる日だったんですよね」
「そうだとも」
腕を組み、鷹揚に頷いて見せるチナミ。いまだ呆然としながら今日の意味を何とかつけようと胸前で手を握り空元気を見せるスクナ。そんなスクナを見てつまらなそうに顔をしかめるユティー。
3者3様の反応を示しながら、図書館の中。終業の鐘は鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます