第34話 歯医者で流れる映画の謎

室内で流れている映画を眺めていて「ん?」と気づく。何かおかしい。


私の行きつけの歯医者では診察台の前にテレビがおかれ、そこでは映画が流されている。待ち時間もそれを見ながら時間を潰せるわけだ。なぜ映画か?というと、おそらく字幕を表示できるからだろう。音声を流すとうるさいし、とはいえ字幕がなければ音声がないと内容がわからない。ということで、映画が流れている。


すでにこの歯医者は10回目弱になるが、今まで流れていた映画は4本。オーシャンズ11とマネーボール、そして、ローマの休日だ。ローマの休日はわかる。見ていて気分がよくなるし、誰でも知っている映画だ。誰も傷つけない。歯医者に似合っているかどうかわからないが、まぁ悪くない選択肢だ。無難なホテルのバーでクラシックをかけるくらいは無難なチョイスだ。オーシャンズ11もまぁわからなくもない。大ヒットした映画だし、見ていて楽しい。虫歯の治療の辛さも忘れることができるだろう。マネーボールはチョイスがよくわからないが、まぁそれなりにヒットしたし、違和感を感じるほどではない。


しかし、今日見かけたのは、セブンだ。あの、セブンである。「七つの大罪」をモチーフにした連続猟奇殺人事件。フィンチャー監督の代表作ではあるが、とりあえずローマの休日とは対極に存在する映画である。


今日、僕はその映画を歯医者で見かけて初めて違和感を持った。「なんて気分の悪くなる映画を流しているんだ」と。これは7つの大罪の1つ「暴食」によって生じた虫歯を諌めているのか?とさえも思う。あるいは、この映画を見て「死ぬよりはいいか」と、虫歯の治療に諦観を持って迎えるようにしているのかもしれない。いずれにせよ、セブンが流れている映画は、なかなかめずらしいだろう。銭湯でEDMが流れるくらい珍しい。そこで私は推理する。この映画の関連性は何だ?ローマの休日がなければシンプルだ。他の映画に出てくるのは、ブラッドピット。すなわち、歯医者で働く誰かがブラットピットが好きなのだ。


しかし、ではなぜローマの休日が。また、ブラットピット好きでも、セブンを選ばなくてもいいではないか。Mr.&Mrs. スミスはどうだ。ジョー・ブラックはどうだ。確かにセブンの演技は名演技だが、歯の治療の前にはいかがなものか。


その後、私は受付の方に聞いてみた。院内でかかっている映画のチョイスはどうしているんですか?と。


「私たちが好きな映画を毎週交代で流してるんですよ。知らない映画も知ることができて楽しいです」と。


なんと。つまり、私がいった時はたまたまブラッドピット好きの人がチョイスした週だったのだ。きっと他の週はダイハードや天使にラブソングやショーシャンクの空にが流れていたことだろう。


「謎がとけた!」という爽快な結果ではなかったことにしょんぼりしながら私は歯医者からの帰りに考える。


人生もそういうものかもしれないな。意味もないものに人は繋がりや意味を見出す、と。まぁ、おかげで私も治療の痛い時間を、このような詮ない事を考えることで紛らわせることができたのだから、結果的に、意味がないことを考えるということにも効用があったわけだし。


ただ、セブンをチョイスした受付の人はどうかと思うな。

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