3-2
(夢だったのかな、あれ)
琴子はぼうっと自分の両手を見つめた。
永谷から話を聞いたと言っていた母には、何かを隠しているような素振りも深刻な雰囲気もなかった。
夢だったのかもしれない。
自分にしか見えない穴のようなものも、いきなり現れた大男を変な力で吹っ飛ばしたことも、なんの道具もない中切断された藤の左腕を元どおりにしたのも。
そう思ったほうが納得してしまうほど、現実的に説明のつかないことが起こりすぎている。
考え込みながら琴子は脚を曲げた。
すると、じんと両膝に篭ったような痛みを感じた。
病院着を膝まで捲り上げると、そこには痛々しい二つの痣が並んでいた。
学校の廊下で粉塵に足を滑らせ、そこで膝を打ちつけたことを彼女は思い出した。
余程強くぶつけたのだろう。
青黒く変色した箇所は、暫くは消えそうになかった。
スカートは当分履かないほうがいいな。
そう思った矢先、ある考えが頭を掠める。
(藤先生の腕を治した記憶が本当だとしたら…)
この怪我も、自分で治せてしまうのだろうか。
患部に手を当てて念じてみればいい。簡単な話だ。
そうすれば、記憶が間違っていたことを証明できる。
現実的に考えて、あり得るわけがないのだから。
でも、万が一成功してしまったら?
異変が本当だったことを目の当たりにした自分は、ひとり恐怖に押しつぶされずに居られるだろうか。
おそるおそる、琴子は手を右膝へと伸ばす。
じわりと掌に汗が滲むのがわかった。
直後、トントンとドアを叩く音がした。
はっと我に返った彼女は、毛布を元に戻しながら返事をする。
すると扉の開く音とともに、亮が顔を覗かせた。
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