第4話 悩める悪役

 前回の投稿から、長期にわたって間が空いてしまいました。申し訳ありません。


 予告どおり今回は「葛藤」をテーマに考察します。






 葛藤とはシンプルに言えば、「心の中で相反する感情がぶつかりあうこと」です。


 たいていの人は「何かをやりたい、しかし実行すると問題があるからできない」状態になると、悩んだりイライラしたりします。


 この心理は物語のジャンルを問いません。ファンタジー、ラブコメ、歴史・現代もの、その他の何であれ共通のテーマです。



 ・「好きです」と伝えたい、でも親友を裏切ることになるから言えない。


 ・あのハゲ大臣を殴ってやりたい、しかし国家的問題に発展しかねないから我慢するしかない。


 ・恋人を救うか世界を救うか、どちらかを選べ。



 即断即決できない問題に直面すれば、人間らしい心を持ったキャラクターは多かれ少なかれ悩みます。


 生まれた葛藤にどう対処するのか。


 決意して行動した、あるいは行動しなかったことで、物語の結末はどうなってしまうのか。


 これが多くのドラマの原点であり、葛藤の深さはそのままドラマの面白さに直結します。






 では、葛藤と悪役にはどんな関係があるでしょうか?


 第3話で考察した、「譲れない何かを持った悪役」を思い出してください。


 譲れない信念や信条を貫こうとすれば、おおむね障害にぶち当たって悩むのがリアルな人生です。だからこそ読者は登場人物の悩みに共感し、その後の展開が気になります。


 つまり悪役にも何らかの葛藤を抱かせれば、ぐっと身近で理解しやすく、共感を呼びやすいキャラクターになります。


 たとえばこんなキャラクターたちです。


 ①「卑怯な戦い方だけはしない武人」が、謀略を用いなければ主人公に勝てないとそそのかされる


 ②「金と銃しか信用しない殺し屋」が、気まぐれで助けた少女に安らぎを感じてしまう


 ③「悪の道に堕ちて正体を隠してきた父親」に、そうと知らず息子が戦いを挑んでくる


 こんな敵が出てきたら、「この後どうなるの!?」と物語の展開にワクワクしつつ、彼らが葛藤とどう向き合うのか気になりますよね。




 ちなみにモデルは下記の通り。


 ①「ダイの大冒険」のクロコダイン


 ②「レオン」のレオン(主人公ですが、そもそも犯罪者なので)


 ③「スター・ウォーズ」のダースベイダー


 いずれも「譲れない何かを持った悪役」であり、それゆえ心に残るキャラクターたちです。






 また、先ほど「葛藤の深さはドラマの面白さに直結する」と書きました。


 そのキャラクターにとって「譲れない何か」と、現実が折り合わない時に葛藤が生まれます。「どうあっても譲れない」という信念が強固なほど葛藤は深くなり、同時に読者はキャラクターを理解しやすくなります。結果、悪役への共感が強くなるのです。


 反対に、信念やプライドを極端に弱くすれば「情けない悪役」を作れます。


 いつでも強い方に尻尾を振り、負けたら泣いて命乞いをし、脅されれば逃げ出すような敵。


 こういうコミカルな小悪党が出てきても面白いし、これはこれで共感を呼ぶでしょう。ラスボスに据えるとなると、物語の構成に工夫が必要でしょうけれど。






 ところで、ここまで述べてきた悪役は「人間的な魅力を持つ」悪役です。


 しかし小説でも漫画でも映画でも、非人間的で強烈な印象を残す悪役は存在します。彼らはおおむね、やりたい事を好き放題にやるので「葛藤」が存在しません。


 次話ではそんな「悩まない悪役」について考察してみます。

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