第47話 前の勇者の正体

 朝だ! 徒歩での久々の旅。なんとしても今日の間にテルーニャに着きたい。早めに出発する。



 着けるんだろうか……。地雷切り、ニタの魔法を使ってできるだけ接近戦を避けている。今度は徒歩だから戦闘能力のないジュジュとルートを巻き込みたくないからだ。

 意外なところで毒にやられたら歩けなくなる。深手の傷もそうだ。これ以上歩みを止める訳にはいかない。



 かなり歩いて来た。戦闘が入るから距離は不明だったんだけど……あれ……城だよね。でも、思ってたのと違う! 位置も、街はまだだ! 魔王の城は街のもっと向こう側のはず。どいうことだ?

「な、なあ! あれって……」

「ああ、あれはトオルの前に勇者だった人が魔王を倒した後に建てたんだよ。世界を変えるって、もう改革しまくってたらしいよ」

 ニタの話は疑問がいっぱいになるだけだった。勇者が城? 世界を変えるって支配したってこと? なんだか、勇者像が大きく変わるんだけどそれに……あれって日本の昔の城だよな?

「私の里を作ったのも信長様なんだ! だから、勇者に、トオルについて行こうって決めたんだ」

 見えて来たよ。いまのツバキの言葉で、船長が言っていた俺の前の勇者は魔王かってぐらいの奴だって。魔王をさっさと倒してこの世界を統治した。忍者の里を作り城を作った。信長。完全にあの信長だよな。織田信長。日本統一できなかったからこの世界統治したんだな。やりそうだよ。ぱっぱと魔王倒してそっちが本番とばかりにやってそうだ。

「織田信長かよ」

「トオル知ってるの?」

 ツバキには憧れの人みたいだよ。よく俺が勇者でツバキの勇者像が崩壊しなかったな。

「ああ、俺の世界であと一歩で天下統一出来なかった。有名な武将だよ」

「そうなのか! やっぱり信長様は違うな!」

 ツバキ、勇者が俺で不服ないわけ?

 今の話で勇者のハードルが一段いや、三段以上あがり、ますますヤル気がなくなった俺。

 その横で前の勇者で盛り上がるリンとツバキとルート。なぜ、こんなに違う勇者について不満が出ないのか不思議だが、俺は不満だ! 織田信長連れてき来といて、なんで次が俺なんだよ!


「ちょっとだけ」

「ダメだ!」

「少しだけ」

 ツバキ、言葉を変えただけで全く内容は同じだ。

「時間がないし、魔物に襲われる。帰りにしろ!」

 果たして帰りがあるのか自信は全くないけど、信長様の城に行きたい! というツバキの突然のわがままと戦ってる俺。

 それにしてもあの城、闘技場みたいに紫色の煙がない。

 むくれてる忍者をよそに、どうやらいろいろ勇者信長に詳しい二人に聞く。これなら知ってはいけないことには触れないだろう。

「なあ、あの城なんだけど魔物いなさそうなんだけど、なんでか知ってる?」

「ああ、それは魔方陣の上にあの城は建ってるからだよ。自分の死後に城を魔物に荒らされたくないからって、勇者が町や村にもある魔法陣を描かせたんだ」

 さすが信長。考えが死後まで及んでいるとは。

「じゃあ、信長の子孫が住んでたりするの?」

「いや、今は誰もいないよ。信長自身が大魔術師の中でも一番の魔術師に延命魔法をかけさせて、自分の思い描く世界を作り続けたからね。最後はこれで気が済んだって、お腹を刀で切ったって伝わってるよ。なに三百年以上も生きてたからね」

 信長! すごい! 凄すぎて、同じ勇者って名乗れない。いや、元々名乗ってないけど、ますます名乗りたくないけど、格が違いすぎだ。俺以外にいなかったのか? 誰も?




 魔物を切るのにもヤル気をどうにか奮い立たせる。すっかりやる気を失くした俺。だけど、油断して魔物にやられたらもっとひどいことになる。ここで立ち往生するわけにはいかない。



 真っ暗になる。ルートが灯りをつけた。それ、攻撃に応用出来ないのかよ。と疑問の思ってる場合じゃない。あたりを警戒しながら進む。徹夜は避けたい。緊張しながら朝を迎えるという経験、船でさんざんしたがそれは俺だけだ、みんなにはさせたくない。


 暗闇の戦闘かよ。相手はサイ。と、ルートが呪文を唱えるとまわりが昼間のように明るくなる。す、すごいな。大魔術師。戦闘につかえないのはつくづく残念だけど。

 おかげで地雷切りもニタの魔法もリンの攻撃も相手を見てできる。近くに来た魔物をツバキが切り捨てる。小回りがきき素早いツバキにはこの役は適任だ。



 もう真っ暗になってどれくらい経ったのかわからない時にテルーニャに着いた。着いたんだ。ついにここまで。魔王の城の一歩手前まで。

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