第31話 塔最上階

「へ?」

「あれ?」

「終わり?」

「緊張したー!」

「終わりだ、な」


みんなそれぞれの感想をいい終わったが、この塔の攻略も終わった。さっきの牛の群が最終だった。このフロアにはマントしかない。


俺はマントの方に近づき、手に取る。あれ? そういえば船長、お供も何とかって言ってたよな? 俺は占い師の言葉の半分も聞いてなかった。お供にも何かあるんじゃないのか? 探すがマントをかけていたポールしか見当たらない。なんだよ船長、あの言葉は何だったんだ? 勘違いか?


「やあ! 良かった、来てくれて、もうダメかと思ったよ」


誰だ? まさかのここでボスか? ていうか魔物もボスだと話すのか? 声のした方を振り返る。

そこには魔術師が立っていた。どういうことなんだ?



「あなた誰?」

年はどう見ても三十前ぐらいだし、一応年上なんで敬語使う。が、実際俺は十歳、年が戻ってやり直してるから、同い年ぐらいなんだけど。魔術師らしく怪しげな服装に濃い紫色のマントを羽織っている。深緑の髪にグレーの瞳、黒ブチの丸メガネをかけたいかにも怪しげなやつだ。

「私はルート。いや、アリストゼンで勇者の到着を待っていたのに、なかなか来ないから見逃したと思ってこの塔まで来たんですよ」

「なんで最上階にいるの?」

すっごく怪しい男なんだが。魔術師なのにあの魔物の群れをどうしたんだ?

「はじめは塔の外で待ってたんですがね。魔物が襲ってくるんで塔の中に入ったら……」

そこ大きく間違ってる! 魔物がいっぱいいる塔の中に入ってどうする?

「すぐに中にいた魔物に見つかって逃げに逃げてたら、気がつけばこの階にいたんです。ここは守られていて魔物は入ってこられないみたいで」

この狭い塔の中を攻撃せずに逃げ切りここまで来たのかよ。ある意味すごい男だけど。

「でも、塔から出れなくなってしまって、もう三日もこの塔にこもってて危ないところでした」

なぜ、3日もここにいて元気なんだ。つくづく不思議な男だよ。

「最初見た時いなかったけど?」

どっから湧いてきたんだ?

「ああ、扉が開いたんでついに魔物が来たのかと思って、あの隅の窪みに隠れていました」

男の指差す方には影になって見えにくくなっているが確かに窪みがあった。


この話の途中から、リンもジュジュもツバキも俺の後ろに隠れてる。確かに怪しさ満点の男だ。

こういう時はスルッとかわそう。

「そうですか。じゃあ、下の魔物はもう倒していないから。マント手に入ったんで俺たちはもう行きますから」

男が不信過ぎたんでずっとつるぎを構えていたが、背中に戻し、振り返ってマントを拾う。危ないと思ってマントを落としてつるぎを手にしてたからだ。


「ツバキ、頼む」

と、マントをツバキに差し出す。ツバキは異次元を作り出して、俺のマントをなおす。なにせこれも一度きりのマントだから魔王の城まではいらないからな。


「おお! 異次元魔法! さすが勇者だ!」


なんか急に褒めてるけど俺の魔法ではないし。


「じゃあ、気をつけて」


と男に言って最上階を後にする。この塔の魔物からも逃げれるんだこの男。街までも大丈夫だろう。塔までだって来てるし。男の横を通り過ぎてさっさと階段を降りて行く。

お供にはなにもなしかよ今回は。

がっかりがにじみ出る。船長何と間違ったんだ? 腕輪の時か?



塔を出て街へ帰ろうとすると男が俺の腕をつかんでいる。

「何か?」

「勇者を待っていたんです!」

うん。聞こえてたよ。でもそこはあえて、スルーしたんだけど。男は腕を話す気はなさそうだ。

「で?」

「私は子供の頃から勇者伝説を書くのが夢でして。是非、直接同行して書かせていただきたい!」

だからこの男、ずっと腰が低いわけだな。こちらには怪しさしか伝わってこないけど。

「嫌だ。魔術師だろ? もう治癒できるし」


本当はこの怪しい男と一緒が嫌なんだが。ジュジュは世界樹を目指してて魔王の城に一緒には行かないんだから。


「いえ! 私は勇者伝説を書くんです!」


余計にタチが悪いだろ。ただの役立たずじゃないかよ。ついてくるだけって。


「嫌だ」


さすがにジュジもリンもツバキもニタでさえ、口を挟まない。


「いえいえ、勇者の腕輪をもらった時のお供の指輪の数を覚えてますか?」


そう一個多かった。だから、船長に期待したのに。あ! あああ! お供の装備って船長は言わなかった。お供が何とかって。そういうこと? 塔に行くとお供が増えるって事? 塔にお供がいるってことか。

……勇者伝説……毎回最後はこんな間抜けなお供が増えるのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る