第16話 フェアリーについて

 朝日が登って来るのを俺ははじめて見た。そして感動、いや、安堵した。寝れる! ベットでの安眠だー! 船に灯されていた灯りが消える。戦闘に加わっていた魔法使いのものかと思ってたら、船長だった。船長! 何者なんだ? 戦いは剣を使ってたのに。



 次々に戦闘員が起こされて朝食を取っているみたいだ。そういや腹減った。食べて寝るんだろうか。しかし、魔物は俺の安堵を許してはくれない。



 *



「魔物だ! 前方。」

 はいはい。行きますよ。朝食の匂いを振り切り前方へ。あ、昼間、いや昨日やられた貝! 今度こそリベンジしてやる。俺のやる気にも火がついた。

 だんだん大きなつるぎを操るコツも掴んできた。大きいし重いから普通よりかは体力を使うが、以前に比べれば軽々だと言ってもいいくらいだ。一日中戦った成果は出てるな。

 例のウニュウニュに注意しつつも次々と切りつけていく。海はいいな。あの紫色の液体の残骸見なくていいから。



 最後の一匹を叩き切り。戦闘終了。

「おい。坊主なかなか様になってきたぞ!」

「はい」

 なんか俺、素直ないい子になってるな。船長相手だとついこういう態度になる。


 後ろでは続々と交代の剣士や魔法使いが出て来てる。リンもツバキも見当たらない。ニタはちゃんといるのに。きっと夜の戦闘に加わったから遅く起床になったんだろう。船長なかなか気が利くな。あの冒険者的ところをもっとなくせばいいのに。



「ニタ、頼んだぞ!」

「なあ、ツバキ! とリンは?」

 ニタ、それをリンが聞いたら怒られるぞ。

「夜に俺がイカにやられてジュジュに手当を受けてたんだけど、リンもツバキも一緒に起きてきたんだ。で、そのまま俺が回復するまで戦ってたから遅くまで起きてたんだ。だから寝かしてくれてるんじゃないか?」

「そう、そうか」

 残念そうだな。まあ、一日中って訳じゃないだろう。

「ツバキもリンもそのうち来るよ。怪我気をつけろよ。エビは下からも攻撃するし、イカも毒あるからな」

「あ、うん。わかった。おやすみ、トオル」

 後ろ手にニタに手を振る。限界だった。匂いにつられてそのまま食堂へ。あー。ご飯あるよ。良かった。さっきまで一緒だった剣士や魔法使いもいる。みんなじゃないから、残りは睡魔を取ったんだろう。



 幸せなひととき。ニタのベットの隣に満腹になった俺は体を沈める。うう、眠りって大事だよな……



 *



 目が覚めて窓の外を見ると夕暮れが近い。どうやら交代の時間かな? また食堂からのいい匂い。食べて寝ただけなのにお腹がすいてる。夜中の激闘を俺の胃袋が訴えてるかのようだ。何か音がする。廊下に出ると甲板での騒ぎが聞こえた。慌てて部屋に戻りつるぎを手にして俺は甲板へ走って行く。




 エビが! 大発生したようだ。かなり侵入されている。これでは戦いはますます困難だろう。

 手近な奴から切りにかかる。バサバサと陸地戦でも小回り切りの効果が出ている。

 恨みがあるからエビ相手はムキになる。次々と真っ二つにするが、なんてことだまだ上がってくる。キリないって。

 よそ見をしたのがいけなかった。

「トオル危ない!」

 と、ニタの声に振り返るとエビが三匹並んでる。うわ! やばい。つるぎをかまえて一匹切ろうとするが端の奴の手が伸びてくる。無理だ間に合わない。

 ボーッツ!!

 ん? エビが三匹同時に倒れた!? 倒れた後ろにはニタがいた。倒れたエビは後ろ側が真っ黒に焼けている。一応怖いから焼かれた魔物につるぎを刺しとく。

 ニタ何をしたんだ。ガスバーナの火力じゃないよな? 今の。

 それを話す時間はない。次々と魔物を真っ二つにして行く。後で掃除大変だな。これ。

 なんて余裕が見えはじめたのはエビが上がってこなくなったからだろう。俺以外にも戦闘に気づいた者が参加したので何とか船に登っているエビは消え去った。あとは入れないように守る。ちょうど甲板がエビの残骸だらけで足場が悪くなってたんだよな。






 戦闘終了。


 エビを甲板から海へ放り投げる。みんな総出でやってる。なにせ足場がなくなるぐらい倒れてたからな。次は掃除。お腹がなる中掃除する。いや、気持ち悪いからな。紫色の甲板。真っ二つってこういう時よくないな。サラッと切れないかな? サラッと切るイメージしながら掃除する。うーん。真っ二つにする気はさらさらないが切れちゃうんだよな。つるぎの切れ味よすぎと重さでつい。



 掃除も終わって食堂へと行くように指示がある。ニタに聞くのは後だな。ツバキもリンもジュジュもいた。やっぱり遅めに起こされたんだな。




 満腹になり甲板へ。もう一度誰も負傷してないか確認。まあジュジュが治すからわからないがその場合服は切れているから、念のため見ている。ちなみにツバキは露出が多い服なので太もも切っても服は無事だった。ある意味、戦闘向きな服装だ。


「おい、ニタ! 新しい呪文が浮かんだのか?」

「うん。見てて」

 おい! またやるのかよ!

 ニタは船の端に行き海に向かって手の平をかざす。すると手の平から炎が吹き出した。すごい! エビも丸焼けになるわけだ。火の魔法を戦闘で使ってるからかな? これも修行になっているのか?

 ニタ、一応場所をわきまえて魔法使ってたんだな。

「すごいな。これなら一度に大量に魔物をやれるな」

 ああ、羨ましいよ。だんだん遠くも攻撃できるようになってるし。やっぱり魔法使いがよかったよ。勇者はつるぎって決めたの誰だよ!




 リンとツバキとジュジュもニタと一緒に交代する。

「じゃあな。今日はジュジュ呼ばずに済むように頑張るからな」

「うん。トオル気をつけてね」

 ジュジュ目が潤んでる。まだ俺やられてないから。

「いつでも呼びなよ」

 いや、呼ばないようにするって言ったし、ツバキ。

「また明日ね。トオル」

 ああ、そうなんだ。そうなんだよな。明日になるんだ。

 すれ違いまくりの勇者一行というか勇者だけ別行動なんだけど。

 まあ、ニタ含めあとの三人が昼で、俺だけ夜なのにはその分割の仕方だけで意味がわかる。他の剣士や魔法使いを見なくても。夜は危険で体力も使うしハードなんだ。視界もよくないし。



 *



「おう、坊主!」

 船長、気に入ってるのか俺に声をかける。ずっと坊主扱いは少し気になるが。

「昨日のヒカリイカには気をつけろよ。あいつら動きが素早いからな」

 昨日俺が毒にやられた奴だろう。ヒカリイカ……そのままのネーミングだ。

「昨日はすみませんでした。」

「いいよ、いいよ。普通はやられたら動けなくなるのに、お前倒れるまでやるとはな! さすが勇者だよ」

 え? 認めるの勇者って? 昨日はすごいふわっとした認め方だったけど。

「いえ、倒れて迷惑かけて。あの、どうしてジュジュが来たんですか?」

 いくら昼間も治癒してて、さらに同じグループだからって女の子のジュジュを夜に呼ぶんだろうか? と不思議に思ったから聞いてみた。

「え!? 覚えてないのか! お前がジュジュを呼んでくれって言ったんじゃないか」

「全く覚えてないです」

 無意識にジュジュに助けを求めてたんだ。

「まあ、でも魔術師にはお前を助けられなかったかもな」

「ええ。はい。え?」

 ヤバイ、バレてる、ジュジュがフェアリーの卵だって。

「あんなに悪かったのに、戦闘に復活できるなんてそれしか考えられないからな。ハチマキもその為なんだろう」

「あの、そのことは……」

「大丈夫。みんな必死だったし。存在を知ってても見たことある奴は少ないからな。ただの、いやすごい魔術師に見えてるよ」

 船長はフェアリーという言葉をあえて入れない。気を配ってくれているようだ。周りに聞かれないように。

「なあ。フェアリーは世界樹になぜこもるか知ってるか?」

 船長はわざと話を変えてるように話しだした。

「いいえ」

「フェアリーは慈悲深い生き物なんで、この世界にいたら自分の命をすべて使っても人を助けてしまう。だから世界樹にこもってるって話だ」

 そうなんだ。意味があったんだな。ってなんでそんな話を?

「フェアリーにあんまり治癒させ過ぎはフェアリーには毒になるってことだよな?」

 ああ、そういうことか。ジュジュに頼らず治癒をさせないようになれって。

「はい!」

「坊主! なかなかいい勇者になりそうだな! 伝説期待してるぞ!」

 え? あの、勇者ってそんなにすぐに伝説になるの? ていうか俺、魔王倒せる気全くしないし。魔王の城にたどり着くかも疑問なんだが。

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