第12話 フェアーの手当て
気がつくとジュジュもリンもツバキも涙目で俺の周りにいる。どうやら戦闘中に気絶したようだ。最後に目の前にいたイカを切った記憶があるだけだ。
「大丈夫? トオル」
リンが聞いてくる。
「ああ、うん。大丈夫」
ここは甲板だ。まだ真っ暗で灯りを灯している。三人とも起きて来てくれたのか。
「ジュジュが呼ばれたんで、一緒に起きたから来たんだ」
「トオルってば毒にやられてるのに動き回るから、身体中に回ってたんだよ。毒が」
ジュジュはまだ手当てしてくれている。左腕だったからか左腕に手を当てている。フェアリーの治癒は手当ての言葉通り手を当てる。うっすらとピンク色の光がジュジュの手から出てる。昼間には見えなかったけど光を放ってたんだ。なんてどうでもいい発見をしてる場合じゃない。
「魔物だー! 後ろから登ってくる!」
「行かなきゃ!」
立ち上がろうとすると三人の腕で押さえられた。
「まだ終わってないからダメ!」
「でも」
さっきも戦闘員の数がギリギリだった。人数が足りない。
「私たちが行くから大丈夫。トオルはしっかりジュジュに治してもらいなさい!」
リンにバシッと言われる。いや、リンとツバキが参加するのも心配なんだけど。でも、ここは甘えるしかない。さっき抑えられる前に自分が立てないことがわかった。諦めるしかない。
「じゃあ。頼んだ」
「うん」
「行ってくるね」
ツバキとリンは船の後ろへ消えた。
「ジュジュどれくらいかかる? ってか俺どれくらい寝てたの?」
「私が治癒をはじめてから少しだけだよ。すぐに目を開けたからホッとした。トオル、動き回ったから時間かかるよ」
「ああ、ごめん」
って事は、この魔物の襲撃はさっきの次だな。良かった。
次の魔物の襲撃までには治癒が終わってくれ。そうじゃないとジュジュもリンもツバキも眠れない。昼間もあれだ。しっかり寝ないと明日戦えない。
船長が夜の当番にリンとツバキを外した意味がよくわかる。夜は過酷だ。
後ろの方では魔物の悲鳴があがってる。海に落ちているんだろう、水の音が続けざまに続いている。頼むもってくれよ。俺には耳を澄ます事しかできない。
*
水の音も魔物の悲鳴もなくなった。終わったのか? リンもツバキも大丈夫かな?
続々と剣士と魔法使いがこちらに戻ってくる。もどかしい、頭をあげるのも出来ないなんて。
って、あれ? おい、俺の頭ジュジュの膝にある! 膝に俺の頭を乗せて左腕をジュジュの両手で治癒している。膝枕なんてしなくていいのに。動きたくても動けないし。なぜ乗せた。膝に俺の頭をなぜ乗せたんだ! 時間かかるからしびれるよ。いいのか。何を言っても無力な俺にはどうしょうもないから聞いてはくれないんだろうけどな。
そこにリンとツバキが戻って来た。疲れてるはずなのにツバキが嬉しそうだ。なんならスキップしかねない。
「お疲れ! 大丈夫だったか?」
見たところ二人は大丈夫そうだが、心配なので聞いてみる。
「うん。大丈夫。岩だったよ」
また岩かよ。
「ねえ! 聞いて!」
またツバキにスイッチが入ったらしい。俺に飛びついてきた。
「どうした?」
嬉しそうにしてるし、いい報告なんだろう。ああ、揺さぶらないでよ。俺、結構ヘビーな状態なんだけど。
「魔物をね。かなーり切れるようになったの!」
かなりをかなり強調してるな。まあ、あれだけ昨日というか昼間に切ったから修行の成果だな。
「よかったな。スッパリ切れるようになりそうだな」
「うん」
嬉しいのはわかる。俺も嬉しい。が、揺さぶらないでくれ! だいぶ気分は良くなったが体に力が入らない。イカの毒恐るべし。って、ジュジュいなかったら死んでたな、俺。
*
あー。膝枕しんどいんだろうね。だからって、三人で交代してまで膝枕しなくても。だんだん感覚戻ってきて感触がわかってくると恥ずかしい。柔らかい感じがそれぞれに違ってる。ツバキはやはり鍛えているのか弾力のある感じだし、ジュジュは肉が少ない感じ、リンの膝が一番柔らかくて気持ちいい。って! 俺、楽しんでるしこの状況。
四人で会話してるけど、主に女子三人で話してる。なんかこの状況を楽しんでるのか三人とも。すごく楽しそうだけど。
会話の中身は魔物について。あー、こっちでもやっぱりあれはツッコミたくなるんだね。異世界からきた俺だけかと思ってたけど。
特に岩はないよね、水陸なんてねー、などと言ってるけど、イカもサメもエビも船の上に登ろうとしてるし。陸でも平気で襲ってくるし。むしろ魔物は何呼吸か知りたい。
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