第12話『信じて向き合う』
放心状態の隼人が浩太郎達を見送った後、苦笑しながらドアを閉めた咲耶は落ち込む隼人の背中を見る。
「信じて待っててくれって。あなたが一番苦手な事よねぇ」
「ああ、だが……。今の俺にはそうするしかない」
「本当に? この私がいるのに?」
そう言って赤と黒のボストンバッグを取り出した咲耶に隼人は目を見開き、彼女からバッグを受け取る。
「アサルトフレーム……。あんなに破損してたのに、直ったのか?」
「ええ、スペア自体は大量にあったからハードは何とかなったけど問題はソフト。恐らくダインスレイヴがOSに干渉してリミッター解除した影響で元データが破損してた。
だけど、アサルトフレーム用に共用OSを調整している暇もなかったからだから、OSはそのまま。術式強度の常時調整も兼ねた神経接続がダウンしたままで、身体強化術式で戦闘出力からの負荷を軽減する事は出来ないわ。
今、戦闘出力を使用すればあなたの体が千切れるのは間違いないから、ここは無理をせず通常出力で使用しなさい」
「いや、通常出力じゃ性能不足だ。アサルトフレーム、戦闘出力で起動。操作はモーションコントロールで何とかする」
「戦闘出力ですって?! 無茶よ、通常出力ならともかく神経接続との連動無しで戦闘出力なんて、あなた、体を壊すつもりなの!?」
「無くても何とかする。今はこの状況を打破する事を考えるしかない」
そう言って入院着から新調された戦闘服に着替え、PTSD対策の薬を打った隼人は服の上からアサルトフレームを装着し、左腕のコンソールを操作した。
モーションコントロールのオプションを開いた隼人は突然起きた胸の痛みに跪き、背中から魔力を迸らせると実体化したそれに荒く息を吐きながら身構える。
「ダインスレイヴ……!?」
『ん~、これって、あなたがあの時使ってたおもちゃ? あっはは、面白そう』
「アサルトフレームに、何をするつもりだ……?」
『そうねぇ、私が、おもちゃを制御してあげよっか? 契約として。その供物として、血を要求するけどねぇ。どうするのぉ? 本当に私の助け無しで、動かしちゃうのかしらぁ』
(分かってて……言ってるな、こいつは)
そう言って笑うダインスレイヴに舌打ちした隼人はアサルトフレームの設定をデフォルトに戻す。
「分かった、契約を結んでやる。だが、それ相応に仕事をしろよ。それと、お前のコールは今からスレイに変える」
そう言って息を整えた隼人はフレームに吸い込まれたダインスレイヴが起動させた神経接続とOSに痺れと掻き毟られる様な感覚を得る。
『あっは、動いた動いた。接続、確認っ。私の魔力と一緒に送ってあげたわよぉ』
一瞬赤く染まった眼が元の色に戻り、それを見て『M93R』マシンピストルを下ろした咲耶は安堵の息を漏らしながらダインスレイヴ固有の魔力を脈打たせるアサルトフレームを見下ろす。
「はぁ、致し方ないとは言え、魔剣クラスとの契約なんて無謀にも程があるわよ。まあ、契約したのなら、一応手伝いましょうか。アーマチュラ、作戦展開の為に一応搬入しておいたのよ。
地下駐車場にあるから、取りに行きましょう。戦闘も楽になるはずよ」
そう言った咲耶は腰に拳銃を戻し、バッグから『HK417A2』バトルライフルを取り出して構える。その正面、フレームにワインレッドの魔力を纏う隼人がドアに手を掛ける。
「分かった。俺がドアを開ける。援護してくれ」
「了解よ、カウント3で開けてちょうだい。三、二、一」
勢いよくドアを開けた隼人は先行して外に出た咲耶が周囲を探るのを待ち、ハンドサインで合流を指示してきた彼女の前に付く。
「さて、どうやって地下駐車場に向かうんだ? エレベータ、階段、全部制圧されているぞ?」
「ふふふっ、まだあるでしょ? 移動手段は」
そう言って上を指した咲耶に吊られて見上げた隼人は階段を上がり始める彼女の後を追って屋上に上がった。
がらんとした屋上、その端に移動した二人は同じ事を考えていたらしく下を見下ろすと四人いる見張りのうち一人の頭上を取れる位置に移動してジェネレーター室の壁にブレードを打ち込むと隼人は落下防止用の手すりを掴む。
「屋上からのラぺリングドロップ。考える事は一緒だな」
「ええ、以心伝心ね。あなたの後を追うから、よろしく」
「簡単に言ってくれる……。降下準備、三、二、一。降下!」
そう言って手を離した隼人は十数階もの高さから降下し、フリーになったワイヤーが勢いよく放出される。
地面まで数メートルと言う所で減速をかけつつ、見張り目がけて降下した隼人はユニットを切り離してドロップアタックを仕掛けた。
「戦闘開始」
『あはは、りょうかぁい』
甲高いユニットの駆動音と共に目を赤く濁らせた隼人は押し潰した一人目の死体を傍らに蹴り飛ばすと増幅された瞬発力で銃弾を回避し、上空で宙返りをしながらスラスターを噴射。降下と同時のニーキックで二人目の見張りを吹き飛ばした。
返り血が全身に散り、それがしゅうしゅうと音を立ててフレームに吸収される。
『あはっ。汚い味ねぇ』
「文句を言うな。下種の血などそんなものだろうに」
『うふふ、そうねぇ』
そう言って笑う少女をウィンドウに入れつつ、三人目の頭を地面に叩き付けて殺害した隼人は自分の背後でナイフを手に上方から7.62㎜弾に滅多打ちにされて死亡した四人目の傍にしゃがみ込むと路上に流れた血をフレームに塗り付けた。
「どうして、お前は……。俺に協力なんかする事にしたんだ。このまま、俺を乗っ取れる筈だろうに」
『今の私にそんな力は無いもの。だから、力を蓄える必要があるの』
「ふん、だろうと思った。まあいい、利用できるならさせてもらう。お前が、何を企んでいようがな」
そう言って立ち上がった隼人はマガジンチェンジしながら駆け寄ってきた咲耶を待つ。
『そう言うあなたは、これからどうしたいの? 世界を壊すの? 居場所を否定するの?』
「世界は壊さない。どれだけ醜悪な事を見せつけられて、反吐を出そうが俺はアイツらを……。レンカ達の居場所を守る。俺の居場所を作ってくれたあいつらの為に」
『ふぅん、そう。じゃあ、その覚悟、私の力を使って見せてみてよぉ。血を流しながらね』
そう言って笑い声を上げるスレイの声を聴きながら立ち上がった隼人は合流してきた咲耶の後を追う。
戦闘出力で分厚いシャッターを殴り、変形させた隼人は大きく歪んだ底を掴んで思い切り引き上げた。すると紙細工の様にメキメキと変形し、人一人が寝て入れる位の隙間が出来上がる。
「先に入るわよ!」
そう言って拳銃に持ち替え、横ロールで入った咲耶がクリアリングを済ませる。
「クリア! 入ってもいいわよ!」
その言葉を聞いてロールして入った隼人は、電源がダウンした地下駐車場に入る。薄暗いそこに入った隼人達二人はフレームのナイトビジョンを起動してスロープを下る。
周囲を警戒しつつ、地下駐車場に入った二人は薄暗い構内に六つのライトを確認し、手近な車に身を潜めて駆動モードを通常に戻すと暗闇でのハンドサインで殺傷法をサイレントキルに切り替え、二手に分かれる。
「ここの占拠は楽だったなぁ。人っ子一人いねえ」
「上じゃ、何かPSCの連中が抵抗しているらしくってな。あーあ、上に行って撃ちてえなぁ」
「馬鹿。ここの仕事ぐらいまともに済ませろ。それに俺はあんなラリった連中との仕事、俺は御免だぜ」
そう言って巡回する兵の会話を聞いていた隼人は離れていった兵を追うと背後から首を絞め上げ、もがく兵の首を折って車の陰に隠す。
咲耶も同じタイミングで一人排除したらしく、ライトが一つ消える。それを確認した隼人は業務用のライトに照らされたトラックに集まる四人を見据える。
『ターゲットはあのトラックよ』
「中央の見張りが邪魔だな。俺が排除する。フラッシュグレネードで援護してくれ、ダイナミックエントリーで突入する」
『了解、三秒後に投擲。カウント、三、二、一』
カウントが終わると同時、男たちの中心でからんと乾いた金属音が鳴り響く。
「グレネード!」
悲鳴に近い叫びが響き、フラッシュグレネードが破裂する。同時に赤目に変わった隼人はダインスレイヴの魔力にブーストされた全身を瞬発させた。
手前にいた男の後頭部を打撃して吹き飛ばした隼人は、男から散った返り血を浴びると活性化したフレームの魔力をパワーに変えて疾駆させる。
「死ねぇ!」
凶暴に目を輝かせ、フルパワーの裏拳で男を殴り飛ばした隼人は目が眩んでいなかったらしいエンジニア二人に目を向ける。
「や、止めろ……。バケモノがぁ!」
そう言って放たれた拳銃弾の弾道を強化術式の効果で見切って回避した隼人は拳銃を拳で砕き、エンジニアの首を両腕で取る。
「ひ、ひぃいい!」
「貴様ら、俺の質問に答えろ。そうすれば見逃してやる」
「な、何だ!?」
「お前ら、どこの所属だ。雇われた、と聞こえたが。傭兵なら依頼内容も話せ」
「お、俺達は新アフリカの
言いかけた所で背後から発砲音が聞こえ、ライフル弾に滅多打ちにされたライトが次々に割れていく。その中に一発が右手の男の頭を飛び散らせる。
その光景にパニックになった左手の男を黙らせた隼人は、男ごと物陰に隠れる。
「こそこそ地下を嗅ぎ回ってるネズミ共! 出て来いよぉ! 蜂の巣にしてやるぜぇ!」
そう言いながら地下駐車場に通じるエレベーターから出てきた男たちがフラッシュライトを灯す。
『どうするのよ、新手じゃない』
「咲耶、トラックのカギは開けられるか?」
『フレームの神経接続がキーコードになるから、開く筈よ』
通信機の声に希望を見出した隼人は、怯える男に舌打ちして近場の自動車に放り投げた。
「ヒャッハー! 敵だァ!」
「や、止めろ、撃つな! 俺は味方だ! おぐふっ」
新手が放ったライフル弾に滅多打ちにされたエンジニアがくぐもった断末魔を上げる中、トラックの認証装置にコンソールを繋いだ隼人は追ってきた咲耶と共にトラックの中に入る。
「どのコンテナだ!?」
「そこ! フレームカラーのコンテナ! きゃあ!?」
「危ない!」
ロケットモーターの音の後、激震と共にトラックが横転してコンテナと共に隼人の体は咲耶の身代わりとして側壁に叩き付けられる。
「クソ、RPGか……!? 咲耶、大丈夫か?」
「ええ……。何とかね。でも、悠長にしてられる場合じゃないわよ」
「ああ、その様だな」
そう言ってお互いにミリ波スキャナーを起動した隼人達はドア越しに集結している男達を見据えると、二人揃って解放したアーマチュラのコンテナに身を飛び込ませる。
その瞬間、男達は手にしたライフルを構え、トラックの荷台目がけて一斉に銃口を向けて発砲した。
弾痕に塗れる荷台、常人なら生きてはいないであろうその数に兵士たちは揃って慢心する。
「こんだけぶちこみゃ、生きちゃいねえだろ」
そう言って笑ったリーダー格がドアを開ける様、部下に指示する。
ショットガンとサブマシンガン、それぞれを構えた男たちがドアに手を掛けた瞬間、男ごとドアが吹き飛んだ。
「何だァ!?」
驚き、周囲の部下と共に銃を構えたリーダーは、蜂の巣になったはずのコンテナの奥に、光る二つの双眸を見つけた。
緑と灰色、それぞれに分かれて灯るそれが近付いているのを目の大きさで判断したリーダーは、コンテナから放たれた光に目を閉じる。
直後、一斉射撃で放たれた弾丸をものともせず、膨大な光の中から飛び出てきた赤と黒の悪魔に絶叫し、そのまま悪魔の拳を食らった。
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