[29]
―「長征14」―
「通信ブイを浮上させる。これから言うメッセージを司令部に送れ。言うぞ」
陸は発令所に呼び出した通信士官に言った。
「日本の『そうりゅう』型潜水艦と遭遇した。本艦が追跡に最適な艦艇であるから、全部隊は本艦の追撃海域から離れろ。『長征14』艦長、陸陽明上校。これに我々の位置、深度、針路、速力を追加し、ただちに送れ」
「了解しました」
メモを取った通信士官は発令所を飛び出して行った。陸は楊に命じる。
「副長、4番発射管にタイプ65を装填。1番と2番にすでに装填済みの魚雷と合わせて、3連発で発射する準備を整えておけ」
楊は戦術表示モニタを見た。
「艦長が爆発を予定している海域に、味方の水上部隊がいます」
「そこで爆発させるつもりはない。まだ敵の位置を掴んでいないからな。ここから2000メートルほど走らせてから魚雷を爆発させる。その頃には、味方はもう十分な距離を取ってるだろう」
「艦長、お言葉ですが、通信文を各部隊に中継するには時間がかかります。艦艇が海域から離れるにも、時間がかかります」
「副長、目標動静解析が概念上のものであることは、貴官も知っているはずだ」
陸は戦術表示モニタを指差した。
「この画面はこの海域にいるのはたぶん彼らだろうという予想を表示しているに過ぎない。推定値と予測を基に下した判断やセンサのエラーに左右される。この艦艇はどこか他の海域にいるのかもしれないし、あるいは存在しないかもしれない」
「艦長・・・」
「とにかく、まだ探知していないだけで『そうりゅう』を支援する敵艦が他にいて、我々はそれらを排除することになるかもしれん」
「分かりました」楊は兵装状況のモニタ画面を呼び出した。「1番、2番、4番、魚雷装填完了です」
「魚雷3発全てを直線航走にセット」陸は言った。「撃ち出す角度は右30度、ゼロ、左30度に設定。爆発深度は1000」
「直線航走、3発を30度間隔で展開、爆発深度1000」楊は言った。
《発射管室、魚雷角度の設定、爆発深度1000、了解》
「本艦の位置を知られないために、最初の4キロは3発の魚雷が互いに衝突しないよう、ジグザグに静かに航走させる。その後、雷速を最大にする。そのように設定しろ」
「ジグザグを20ノットで4000」楊が答える。「それ以降は75ノット」
「65のどれか1発が向かってくる音を聞いたら、敵は慌てふためくだろうな。泡を喰って今いる位置を明かせば、今度は有線誘導で魚雷を操作して、3発とも奴の
「魚雷を1発ずつ発射するのはどうですか?」楊が進言する。「1発目の爆音を聞き、その後も彼らが生きていなら、2発目、3発目がやってくる音を聴くのは拷問に近いでしょうから」
「その考えは気に入ったぞ、副長」
陸はうなづいた。
「だが、敵を動揺させたほうがいいだろう。しばらくの間、この海域は最初の爆発でソナーが使えなくなる。それに、魚雷発射の間隔から爆発までの時間から、こちらの距離を奴に推測させることになる。だから、一気に発射して敵を混乱させる方が最善だろう」
「分かりました」楊は言った。「発射管室は準備よし」
「1番、発射」
「1番、発射しました」
「2番、発射」
「2番、発射しました」
「4番、発射」
「4番、発射しました」
《魚雷は3発とも正常に航走しています》ソナーが報告した。
「副長、爆発までの時間は?」陸は尋ねた。
「9分です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます