第26話 墓穴掘りまくり

 そんなことを思っていると、清水君が珍しく眉間に皺を寄せて田中さんに呆れたように言った。


「ほら見なよ、松君も驚いているだろう。お前の無計画な出費を。」


「だってしょうがないでしょう~。玲奈の相手するのは手間がかかるんだよ!」


「確かに手間がかかりそうな人だよね。でも、3日20万も、びっくりだけど、ここの活動費って一体いくらなの?」


「あっそうか、そのこと松君にまだ話してなかったね。詳しくはこの案件を片付けてから話すけど、予算は表向きの1次と2次でだいぶ違う。1次はどこの生徒会とも代わりがないよ。2次は1ヶ月上限30万。それより必要な場合は佐藤先生を通じて交渉になるね。」


「そうなんだ。」


僕は唖然とする。恐らく口は半開きだったと思う。


「ここの生徒は、もう分かっていると思うけど、上流階級の奴らばかりだから、付き合うのも資金がいるんだよね。」


そう清水君は言うと、キャビネットから分厚いアルバムを取り出し、開いて見せてくれた。アルバムの中の清水君と田中さんは、それぞれスーツとパーティードレスで正装していて、何かの豪勢な船上パーティーみたいなところで食事をしているようだった。


え~、僕こんな豪華なスーツなんか持ってないよ……なんだかいろいろと面倒くさい学校に入っちゃったな。


「まっ、取り敢えず今優先することは、彼女の男性恐怖症の原因になっている父親の浮気癖があること。これをどうするかだね。」


「でもさ~、原因は分かったけど、彼女の父親の性癖を私たちが直すことなんてできるのかな~。」


「そうだな、こういう場合ちょっと荒療治をしないと効果がでないと思うんだが」


「ええ~荒療治? 清水の考えかあ~私はこういうの考えるの苦手だからいつもこれまであんたに頼ってきといてこう言うのも悪いんだけど、何か騙しっていうかトリックみたいなの使う気でしょう?」


「そうだな、例えば彼女の父親に、彼女も相当な浮気性な娘だと思い込ませてみるとか」


「なるほどね、父親にも同じような嫌悪感を味合わせてってやつね。いつものように、SNSとかで情報操作するんだ」


 なんかちょっと普通にすごいこと言ってるよこの人たち、僕があっけに取られていると、

「松君は何かアイデアはあるかい?」

と清水が僕に振ってきた。


「えっ? ええと」

 しばらくの沈黙の後僕は意を決したように言った。

「アイデアっていうか、これは僕の知人の話なんだけど。その人の父親がよく母親に暴力をふるっていたみたいなんだよね、その上いろいろ他の女の人と付き合ったりしていたみたいなんだ。」


「それで?」

 2人は興味津々という表情で聞いてきた。



「それで、ある日その知人が父親の事をなぐったんだ。ただ殴った時できるだけ感情的にならず冷静に、まるで物でも叩くように。そしたら完全には良くならなかったけど大分殴る回数が減ったって。そして浮気をするとかは無くなったとか言ってたな。もし、彼女の父親が酒癖も悪かったら効果は半分しかないけど」


 それを聞いていた清水は、一瞬僕を哀れむような表情を浮かべ直ぐに穏やかな表情に作り直し、

「そうか、その人は大変だったね自分の父親の事を感情を押し殺して物でも叩くように殴るなんて、叩くほうが拷問を受けているようなものだね。辛かったろうね」

と労わる様な仕草で言った。


「分かった、それじゃあ田中はどっちの案がいいと思う?もちろんお前の案があれば言って欲しいんだけど」


「そうだね~私はさっきも言ったとおりに、こういうのあんまり得意じゃないから、二人の案のうちどちらか選ばせて貰うよ。う~ん、よし決めた! どうだろう今回は玲奈の男性恐怖症の原因を突き止めたのが松君だから、松君のアイデアでいってみない? あんたの謀略みたいなの効果的なんだけどちょっとはこういう正面攻撃的な事もいいかな~なんて」


「分かった、でも松君の案はいいとは思うけど、どうやって彼女を納得させるかだね」


「僕が、正直に言ってみるよ同じ恐怖症同士として」


「え? 松君が言うの? 直接?」


「清水君も、田中さんも頭が僕なんかより相当いいからとっくに気づいているんでしょう? 僕が重度の女性恐怖症だって」


「え? まあ」

清水は少し困惑の色をその整った顔に出している。


「だから、正直に自分の思っている事を言ってみる」


 二人は驚きの表情を見せたが、直ぐに僕の気持ちを理解してくれたようで。


「分かった、君の案にのるんだから君のやりたいようにやったらいいよ、俺たちはバックアップに努めるから、なあ田中」


「うん、そだね、でも松君あまり無理しないでね」


「有難う」


「じゃあさ、今度の週末にどこかへ4人で遊びに行ったときに話してみるってのはどうかな?」

 田中が事もなげに言う。


「そうだな生徒会室に呼び出して説得じゃ彼女の気持ちを変えるのは難しいだろうからね。いいアイデアだ田中、と言う訳で松君悪いけど今週末は空けといて貰えるかな」


「う、うん」


 しまった!まさかこんな展開になるとは、ああ女の子と週末どこかへ行くなんて、休みなのに気が休まらない、どうしよう。墓穴を掘ったのか僕は?

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