ユーティフ冒険記
静観 啓
第1話始まりの始まり
草木も眠る深夜。
真っ暗な森を2つの満月が照らし出す。
驚くほど静かなその森に、二人の男たちがいた。
「悪いな。こんな時間に呼び出して」
ロングコートにフードを被った男が、申し訳なさそうに謝る。
「なんのなんの。気にせんでもいいわい。それにしても、お前がわしを呼び出すなんて珍しいのう」
「緊急だったんでな」
その言葉に、向かいに立っている白髪の男が眉を寄せる。
「どういう事じゃ?」
「…今朝、カルアの家族とナンシーの家族が襲われた」
「なに!? 二人は無事なのか?」
「ああ。子供も無事だ。今は安全な場所に身を隠してる。そのことでお前に頼みがあるんだ」
すると、コートの内側からフードの男に抱きかかえられた赤ん坊が現れた。
「しばらくの間、この子を預かっといてほしいんだ」
「もしかして、その子はお前の子か?」
「ああ。たぶん、次に狙われるのはオレの家族だろう。だからオレとの接点があまりない、お前に預かっていてもらいたいんだ。お前なら信頼できる。頼まれてくれないか?」
「……いいじゃろう。わしの命に代えても、守ると誓おう。だが、お前はどうするんじゃ?」
フードの男は自分の息子の顔を覗き込む。一歳にも満たないその赤ん坊は、父親の腕の中でスヤスヤと眠っていた。そして男は、一度小さな息を吐くと、何かを決意したかのように頭を上げた。
「オレはカルアとナンシーの家族を本部まで連れて行く。あそこなら安全だからな」
「無理じゃ! さすがのお前でも、守りながら一人で本部まで行くなんて無謀じゃよ!! 今は慌てず、本部の救援を待った方がいい」
「それがそうも言ってられないんだ」
男はフードをとる。赤毛の髪に、キリッとした目。しかしそれとは対照的な、優しいブラウンの瞳。その整った顔には、月明かりにも暈(ぼか)されない確かな覚悟の色があった。
赤毛の男はまた一つ息を吐くと、二つの月で明るい夜の空を見上げる。
「どうしたんじゃ?」
「……オレ達の中に裏切り者がいる」
「なんと!?」
白髪の男は目を見開き、思わず叫ぶ。
「カルアとナンシーの家が敵にばれていた。しかも脱出用の秘密通路まで知られていたんだ」
「…それが本当なら、本部に救援を求めるのは難しい」
「ああ。下手に本部と連絡をとって、スパイにこちらの情報が漏れたら最悪だからな」
「手伝ってやりたいが……」
「いや、いいんだ。これはあんたの仕事じゃない」
「……気をつけるんじゃぞ」
「わかってる。オレはまだこんなところで死ぬわけにはいかないからな」
男はそう茶化すように笑顔でいうと、腕の中の赤ん坊を白髪の男に渡す。
「オレの息子を頼んだぞ」
それだけ言い残すと、男は明るい深夜の森からその姿を消した。
ここから、物語は動き出す。
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