第4話


 わたしは生まれつき、心臓に病気を持っている。毎日お薬を飲むことを忘れるわけにはいかないけれど、それで普段の生活を送れているのだから。


 でも激しい運動はできないから、体育の授業は見学だし、いろいろと不便なことも仕方ないとあきらめているところがあった。


 それ以上に嫌だと思うのは同級生からの視線なんだよね……。ひそひそ声でいつも何かを言われていることも知っている。もしかしたらわたしの自意識過剰って言われてしまうかもしれないけれど、それをわざわざ聞くだけの勇気もないし。



 そのことはもちろん先生たちも知っているし、何かあればすぐに報告してほしいともいわれているよ。でも、そのことで学年の中での雰囲気を余計に悪くしてしまわないか……。そんなことが頭をよぎってしまうから、これまでにいろいろあったのは確かだけど、それを報告するということはしてこなかった。


 少しでも早く大人になりたいって思って、服装や髪形を少しずつ変えてきてはいるけれど、かえって「葉月のくせに」って言われてしまう。正直どうしたらいいのか分からなくなった時もたくさんあった。



 先生たちも、このまま公立の中学校に進学することは、今の状況がまた3年間続いてしまうという心配もあって、新しい友達を作るには私立校の方がいいかもしれないという話は前々からあったんだよ。



「でも、葉月さん。笹岡は難しいわよ?」

「分かってます……。今の成績じゃ行けないってのは……」


 そうなんだよ。わたしの今の成績では合格ラインにはまだほど遠いことくらい自分でもわかっている。


「他の私立では考えていないわけね?」

「はい……」


 他の学校じゃ意味がない。笹岡にこだわる理由というのは別のところにあるから……。


「お姉ちゃんと一緒に通えるんです……。それに……」

「そっか……。お姉さんも笹岡だったわよね。そうか、そこか……」


 先生も思い出してくれた。私のお姉ちゃんもこの小学校を卒業して、今は笹岡学園の中等部の3年生。高等部への進学もほぼ問題ないと言っていた。


「そう。それじゃ他は考えられないわね」


 3年前まで、一緒にこの学校に通っていた時のことを先生は知っているから、「葉月さんがそう考えるのも自然なことね」と納得してもらえた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る