誰か彼女を助けてください
@schirm
第1話 初めての海外旅行
春休み、昼寝から起きると近くに姉が居た。姉はなんだか機嫌がよくて生き生きしているように見えた。
「ねぇ、準備は終わっているの?」
準備、何の準備だったかと一瞬頭を悩ませると、すぐに姉が言葉を被せてきた。
「まだ何も準備してないの? 明日出発なのに信じらんない。あんた海外初めてのくせによくそんな度胸あるわね」
何も準備していないわけじゃない。
後は買ってきたものをスーツケースに詰めるだけだ。そう思っていたんだけど、準備は終わっているのかと改めて聞かれると、少し不安になってしまう。
日程は、正直良くわからなかった。何やら遺跡の見学が4日間びっしりと詰められていて、海外に遊びに行くというよりも勉強に行くみたいな日程だった。
保田さんはS大学の助教授で海外の遺跡発掘に携わっていた。姉はS大の学生で、保田さんと付き合っているそうだ。年齢差14歳、僕とは倍も離れている。元々今回の旅行は、現地にいる
僕は海外旅行は初めてだったけれど、タダで行けるなら場所なんてどこでも良かった。現地の言葉も、英語だってろくにしゃべれないけれど、あんたは私の後ろに立ってニコニコ笑っていればいい、と姉に言われたこともあり気楽に考えていた。ここではないどこかに、本当の自分が活躍できる場所があるんじゃないかと夢想していた僕は、海外の空気に触れるだけで自分は変われるのではと期待していた。
さて、後は忘れ物ないかな。ESTAは5月まで期限があったはず、と思ったときにちくりと頭痛がした。ESTAの期限は去年の5月までだったんじゃないか? 今から申請しても間に合わないかも?いやそもそも行き先はアメリカじゃないからESTAは要らなかったはず。頭がずきずきと痛い。
携帯電話が鳴り響く、懐かしい着信音。発信者は「安田さん」と表示されていた。安田さんに電話番号を教えたっけか。と訝しみながら電話に出ると、たった一言こう言われた。
「まだ、こちらにはこないのですか」
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