異世界で魔王を倒すのはゲームと変わらない

@100728

第1話 プロローグ

朝起きて身支度をして朝食を食べて登校し授業を受けて部活をやるという流れとかした一日がまた始まる。


「はぁ~」

「溜め息ついてないでさっさと食べないと遅刻するよ」

「分かってるよ」


 遅刻して説教食らってもいいから異世界に行けないか な~。そうなれば新たな非日常を味わうことができるし。まあ、そんなことが起きないのは分かってるんだけどね。


 現実では起きないことを考えるより遅刻せずに説教を免れる方が今は先決だと判断し朝食を一気に口の中に含む。自然と喉につまったので飲み物で流し込む。


「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 鞄をもって家を出る。玄関のとなりには我が家の愛犬ココが寝ている犬小屋があるのだが年をとったせいか、朝は寝ていることが多い。小さい頃は俺が家を出るときに必ず吠えてくれてたから少し寂しく感じる。吠えられなくてもコミュニケーションは欠かしたくないので犬小屋の前で屈んで頭を撫でる。ココは、気づくとゆっくり顔だけ上げて小さな声で“ワン”と吠えてくれた。

 久しぶりに聞くココの朝の挨拶は心に染みるものがあった。


 っといけない。浸ってる場合じゃなかった。早く行かないと郷東の地獄の折檻が待ってるからな。


 郷東は、生徒指導の先生で毎朝校門に立ち遅刻のチェックをしている。ただ、厳しさは校内でもトップでわずか一秒遅れただけでも完全なアウトになり普通に遅れたもの同様の説教もとい折檻が行われる。

 唯一、幸いなことは家がか学校に近いことだろう。も し、そうでなければ何度遅刻して折檻を受けていたか想像もできない。

 要するに寝坊常習犯です。


 全力ダッシュで走り遅刻の時間、五分前に校門を潜ることに成功。

 学校に入ると特による場所もないので二階の教室へ直行する。教室には既に8割近いクラスメイトが登校を完了していた。皆怖いんだね。

 俺は、クラスメイトが話している間を挨拶をしながら潜り抜け自分の席に座ろうとしたが先に誰かが座っていた。


「おっす。光一」

「おはよう、雅春じゃなくて何でいつも俺の席に座ってんだよ」


 そこに座れるのは俺と異世界から来た住人だけだ。それ以外の人間が座ることを俺は断固として認めるつもりはない。たとえ親友の雅春だとしても。


 草野雅春は、俺の小さい頃からの親友で何をするにしても一緒に行動することが多かった。けど、明るく誰とでも仲良くなれる雅春は高校の今では、学校一の人気者で校内の三割近い女子から告白されている男として憎むべき相 手。親友でなければ病院送りにしてるところだった。


「まあ、いいじゃん」

「はぁ~」


 雅春のテンションにはインドア派の俺はついていくことが困難。


 リア充はどうしてこうも人の席に座ったり朝から話し込んだりとコミュニケーションを積極的に取りたがるんだろうか。昔の雅春はもうちょっと大人しかったのにスクールカースト上位に入ったせいで確実に俺の対応できるレベルを越えつつある。

 かくいう俺は、雅春のお陰でスクールカースト底辺にはいない。


 そこに関しては本当に感謝。


「ところで昨日の緊急クエストどうだった?」

「余裕だよ」

「流石は光一だな」


 雅春のいった緊急クエストとは最近人気ので始めたスマホRPGゲームで行われたもの。基本はマルチプレイをメインとしサブ的な役割として個人プレイがあるのだが緊急クエストはサブ的な要素を唯一メインにする期間限定のイベント。なので、大抵の人はまずクリア出来ないのだが俺のように一人でいることの多いプレイヤーにとっては楽勝なのだ。


 この仕組みについてはネットでオタクびいきやリア充殺しとも呼ばれているが運営側は一人でしか出来ない人でも楽しめるようにと工夫をしてくれているんだ、文句を言わないでもらいたい。

 それ以前に止めればいいと思う。


 要するに緊急クエストクリア=ぼっちが成り立つ。

 けど、俺はそんなこと気にしない。何故ならぼっち以上にゲームを楽しめなくなることの方が辛いから。マルチだと仲間と話し合ったりして出来るとか言ってる奴がいるけど結局責任転嫁したり自分のデータを有利に進めたりと自分に都合のいいようにやるだけなのでそれなら始めから一人でやった方が効率がいい。


 あれ、俺ってひょっとすると天才かも。

 いや、違いますね。ただのぼっちです。はい。


「そういえば雅春、貸してたゲーム機は?」

「ノート?」


 ノートについて考え始めた雅春だが俺の予想を上回る早さで困惑の表情に変わっていた。額からは汗がどんどん流れて手足はがくがく震えている。

 まるで、天敵を目の前にした小動物のようだ。


 そんなこと考えてる場合じゃなかった。雅春が嘘をつくのが極端に下手だ。だからこそ言っていることはすべて正しいことになる。

 てことは、俺のゲームは今どこにあるのか分からない状態ってことか。


 小動物のように震え続ける雅春は、素早い身のこなしで教室を飛び出す。完全に隙をつかれて逃げれたが追うことはしない。

 勝手に戻ってくるはめになるのだから。


「こら草野、これから授業だってのにどこ行こうとしてたんだ」

「体調悪いので保健室に」

「嘘をつくな。あんなに元気のいい病人がいるか。席にもどれ」

「はい」


 担任に捕まった雅春は渋々といった様子で自分の席につく。

 他のクラスメイト達も話を切り上げ席につき始めた。今日も滞りなく授業が始まる。


 一時間目は俺の嫌いな英語だったせいで睡魔が襲ってきて重力に逆らえず机に突っ伏してしまった。当然、担任は目撃していたのですぐに近づいてきて丸めた教科書で頭を叩く強めに。この場合、体罰だと言いたくなるものだが寝てしまった俺も悪いので何も言えない。担任はそれを利用して叩いているんだが。


 ゲスが。


「いてっ」


 完全に心を読まれたのか起きているにも関わらず叩かれることに。今後、この人の前では感情を押し殺すことを決めた。頭の安全のためにも。


 授業は順調に消化し、午前分が全部終わり昼休みとなった。昼食は給食と違い弁当なので自分の好きなタイミングに食べ始めることが出来る。俺は、隠れてゲームをやる派なのでさっさと弁当を食べてやれる時間を増やす。しか し、今日のメニューは俺の嫌いなもののオンパレードで早く食べ終わるのが困難になってしまった。


 苦手なものがあるなら食べなければいいとおおもいでしょうが我が家の家訓には食べ物を残さないというのがあるため破ったらゲームの没収という耐え難い現実が待っているのだ。だからこそ苦手でも食べなければいけない。

 学校での楽しみが無くなってしまった。午後から耐えられるか心配だ。


 吐き気が何度も襲ってきてけれどなんとか食べ終わることができた。時間にして三十五分。昼休みの大半が弁当に費やされてしまった。

 一度は、雅春に譲るのも考えたのだがうちの親は絶対聞くから真実を語られて終わってしまうので結局全部自分で食べるしか道は残されていなかった。


 昼休みが終わりチャイムが鳴り響いて午後の授業が開始される。

 五時間目担当の先生が黒板に字を書こうとチョークを持ったところで廊下の方から足音が聞こえてきた。音は速いので走っているのは分かったが授業中に廊下を走るバカなんているのだろうか。

 生徒指導の先生に絞られるのに。


 窓の外を見ながら足音に耳を傾けると徐々に音が大きくなってくる。俺たちの教室に近づいてきてるってことだ。

 クラスの大半が気になって廊下の方を見つめている。もちろん彼らを注意しないってことは先生も見ていることになる。


 この状況、俺にとっては最高じゃないか。


 引き出しにしまってあるゲームを机と体の間に出来たスペースの位置に出し電源を入れて起動させる前に先生の確認をすることを怠らない。一向に視線を移す気配がないので心置きなくソフトを起動させて開始する。

 隣の席の人は気づいたようだったがそれ以上に足音が気になるのか先生に告げ口することなく廊下の方に視線を戻る。


 助かった~。

 ところで隣の席の人の名前も覚えれてないとか駄目だな俺。


 ゲームに没頭していると足音が自分に近づいてることに気づけず隣の席の人が教えてくれる。名前も覚えていないのにこんなに優しくされては罪悪感が残ってしまうから明日までに名前を覚えて例を言おう。

 明日の目的を一つ立てゲーム画面から顔をあげると長く透き通るような銀髪で金持ちが着てそうな豪華なドレスに美人と言わざるを得ない顔立ち、非の打ち所が無いような人だったが唯一、胸が小さかった。


 特に、興味は無かったのでゲームに戻ると取り上げられる銀髪の少女に。無言で睨み付けるとテンパった様子でゲームを返してきた。

 何がしたいのだろうかこの人は。

 このまま、突っ立った状態でいられても迷惑なので聞いてほしそうな顔をしている内に話を促す。目線をゲームへ落とすことを忘れない。


「やはり聞いてくれましたか」


 誰だって真横にずっと無言で立たれていたら嫌でも質問するだろうからな。分かっててやってるなら結構腹黒い。


「で、あなたはなんなんですか?」

「私はですね、マグリアと呼ばれる世界の王女です」


 ヤバイ、予想以上に痛い子だった。まさか、異世界という設定を作り更に、自分が王女という地位の高い身分であることにするとは。

 小さい頃、俺もそんな感じの設定を書くのを楽しんでたけど今は、妄想だけで済ましてるのに直球で言葉に出来る奴がいるとは驚きだ。


 一人の俺ならここで、話に乗るのだがクラスの目もある状況じゃ雅春に迷惑がかかるし適当に受け流していれば大丈夫だろうと思い目線をあげると信じてもらえなかったのが堪えたのか目をうるうるさせ今にも泣き出しそうな状態だった。その光景を見たクラスの女子たちから“最低” “腹黒”などの悪口が聞こえてきた。


 え、俺が悪いんですか。確かに適当に受け流したことの非は受けてもいいけど元をたどればこいつがいったわけの分からない発言のせいなんだけど。

 まあ、別にクラスの女子にどう思われようと俺にとっちゃ関係ないことだがな。


「どうしたら信じてもらえますか?」


 涙目の少女はなんとか言葉を絞りだしどうすればいいのか俺に問う。

 答えなんて決まっているじゃないか。それは──。


「証拠を見せてよ。異世界に連れていくとか。逆に向こうのものをこっちに持ってくるとか、それが出来たら信じるよ」


 出来るはずのない要求だから強気にいったのだが少女からは“それで良かったんですか”と言葉が聞こえてきた。

 まさかと思いゲームに戻していた視線をまたまた、あげると目の前にRPGゲームで見たような魔方陣が机の上に光を放って描かれ序盤で何度もお世話になったスライムがいた。ぬいぐるみかとも思ったがぬるぬる動いていたので本物だと思う。


 クラスの女子は、“キャー”と悲鳴を上げて男子連中は“キモー”といっていた。だが、俺の感想はそんなものではない。

 こんな非現実的な事が起こるなんて幸せすぎる。スライムがキモい訳あるかむしろ可愛いとさえ思えるよ。

 十数年生きていてこれほど嬉しいと思ったのは初めて だ。


「別の世界の住人てのは分かったんだが、どうしてこっちの世界に来たんだ」

「それは話すと長くなるのですが」

「出来れば手短に頼む」


 来た理由は、魔王討伐をしてもらう冒険者を探しに来たということ。こっちの世界で探していたところ俺がそれに適した人材だと分かりスカウトに来たんだとか。もちろん別の世界のことなので拒否することも可能と言われた。


 妄想でしか出来なかったことがついに現実になるとは奇跡以外の何者でもないな。

 当然、断ったりなんかしない。


「それじゃあ早くいこうぜ」

「それが……」


 どうやら俺に証明するために使ったスライムの召喚で異世界へ転移するための魔力が足りなくなってしまったらしい。

 そんな馬鹿なと思って試してもらったが本当にできなかった。


 俺の夢がここで終わってしまうのか。これ以上ない喜びのあとにこれ以上ない絶望を見るとはある意味、今日はすごい日だな。

 って、変なとこに感心してる場合じゃなかった。どうしたら魔力が回復するのか聞くことが最優先だな。


 質問の結果、魔力が回復するには時間経過を待つかポーションと呼ばれる道具を飲む、または誰かの魔法で回復するこの三つしかない。

 結論を言うと後者の二つは地球に存在しないので時間経過を待つことに決まったのだが王女は魔力適正が低いせいで回復に時間がかかるらしく最低でも三時間はかかると言われた。

 それなら、授業を受けて潰すのもありと思ったが王女が手持ち無沙汰になることこの上ないので臨時帰宅を要請する。

 肯定されることが無いのは分かっていたので要請と同時に学校は出ました。


 学校を出たあとは一目散に家を目指そうと全力疾走するが後ろに人の気配がなくなった。王女は運動音痴プラス格好がドレスなので全然走れていなかった。しょうがないので背負って家に向かうことにした。


 玄関は鍵がしまっていた。当然である。家は誰もいないのだから。

 ココにただいまの挨拶をしてから家の中に入る。とりあえず王女をリビングのソファーにおいて冷蔵庫から適当に飲み物を取り出して渡す。


「はい、王女様。地球の飲み物」

「ありがとうございます」


 異世界について聞きたいことも色々あったがまだ疲れていそうだったので聞くのはやめた。

 手渡した飲み物をイッキ飲みした王女は、勢いよくコップを机に叩きつけた。


 壊れるから丁寧に。


 乱暴な置き方をしたのに気づいてコップの裏を確認していたがないのを確認すると安堵し何度も頭を下げてきた。

 あまり王女っぽく見えないなと思っていると本人も時間があるのか急に語り出した。


 ドラマかよ。


「私、王女っぽくないですよね」

「確かにな」

「うっ……。やっぱり正直に言われるのは辛いですね」


 いやね、そんな態度とられると普通に答えた俺が悪者みたいになっちゃうから是非やめていただきたい。けど、なんかいわれなれてる感じがするのは気のせいだろうか。


「お姉さまや母様によく言われるんです。父様は気にするなと言うのですが」


 流石は父親だな。娘に甘い。


 その気持ち分からないでもないな。俺もいとこの赤ちゃんが産まれたとき何をされても文句とか言う気になれないしむしろしてくれとさえ思う。

 こういうところは父親と母親で違いがでるだよな。


 最近は言われなくなったらしいのだがそれでも、本人は思うところがあるらしく見返そうと思っていたらしい。そんなときにたまたま地球へ行くとの話を聞いて反対を押しきって自分が立候補したんだとか。

 あんまり意味がないような気がする。だって、これはしたっぱや多少の魔力がある奴が出世とかを求めてやるもので既に地位が確定している王女がやることではないだろ う。

 恐らく、父親は今頃落ち着かない様子で城をさまよって母親にしかられてたりしてな。


「あれだな。王女は王女らしくいなきゃいけないなんて誰が決めたんだよって話。別にあんたはあんたらしく生きればいいと思うぜ人生は人それぞれなんだし文句言いたいやつは言わせとけばいい。家族だろうとな」

「あんたじゃないです」

「はい?」


 あまりに聞こえなさすぎて聞き返しちゃったよ。


「私の名前はクイーナです」


 どうやら俺の話よりもまずは自分の名前の方が大事みたいだった。まあ、親からもらった名前だし大切にしたい気持ちはわかるけど、もうちょっと俺の話に耳を傾けてからでも遅くなかったと思う。

 今の言葉は、俺史の中でも上位に入るくらいだと思うから。


 「分かったよ」


 特にすることがないのでぼっーとしているとクイーナは眠りについていた。よほど疲れたのか熟睡だった。


 家出とかの次元じゃなく下手したら戻ることが出来ないかもしれない場所に一人できて誰かに信用してもらえて安心できたのか。回復するまで時間かかるし俺も寝るか。


 昨日もたっぷり寝たのだが人が寝ているのを見ると眠気はうつってしまうものだからしょうがない。

 押し入れから布団を取り出しそれを王女にかけて床に寝転がり目をつむる。


 「こ…さ……ん」

 「んぅ~」


 俺の快適な睡眠を邪魔したのは誰だ。目を開けた先にいたのは母親ではなくクイーナだった。そういえば家につれてきてたんだっけか。忘れるところだった。


 「どうしたんだ。クイーナ」

 「魔力が回復したので異世界へ行け──」

 「行こう」


 相手の言葉を待つことなく結論を述べる。


 「分かりました。ではいきます」


 クイーナが呪文を唱え始めると部屋全体を光が覆い始めて、視界が閉ざされた。


 いよいよ待ちに待った異世界へ行ける。

 はぁ~、早く行きたい。


 完全に転移されるまで頭の中は異世界のことで一杯の俺だった。

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