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「……ん、分……、分ッ!」
揺さぶられる感覚と共に声が聞こえ、私は薄く目を開いた。シーツから顔を上げると祥吾が、清華が、新太が、天良が、何処か呆れたような顔をして私の事を見下ろしている。
「み……みんな、どうして!?」
「どうしてって……分があんまり起きないから起こしに来たんだよ」
「分が朝弱いのは知ってるけどさ、今日ぐらいはちゃんと起きてよね」
「分はおねぼう~、おねぼう~」
「ほら、早く起きて顔を洗って。ご飯はもう出来ているから」
変わらないみんなの声に、ぼろりと涙が零れ落ちた。滲んでいく視界の向こうにみんなの驚いた顔が見える。
「み、みんな……よか……」
「ど、どうしたんだよ、分」
「ひ、酷い……夢を見たんだ。み、みんなが私を置いていって……そんな事、あるはずないよな。みんなが私を置いて逝く訳……」
「夢じゃないわ、現実よ」
唐突過ぎる鋭い言葉に私の夢は打ち破られた。目を開ければ黒い少女が、不幸のように黒い少女が、黒い瞳を傾けて私を覗き込んでいた。
「…………」
「おはよう、寝ぼすけ野郎」
「…………」
「一晩寝たら少しはすっきりしたかしら」
「…………」
「アンタのために丸一日も費やしてあげたんだから、今日こそは出発させてもらうわよ」
少女の言葉に、私の喉から上がったのは、悲鳴だった。飲み込めなかった現実が、直視出来なかった現実が、目覚めた事により私の脳に一気に流れ込んできた、そのショックによる悲鳴だった。少女はうるさそうに耳を塞ぎ、そして、「うるさいッ!」と、私の後頭部を強く叩いた。私の悲鳴は止まったが、私は顔を上げる事は出来なかった。
「目覚まし時計かっての。ほら、早く起きて。今日こそ疚売りを探しに行くんだから」
「……そじゃ……ない……」
「うん?」
「祥吾達が……みんなが死んだのは……嘘じゃないんだよな…………」
少女の返事は、なかった。しばらく沈黙が降りてきた。後になって思えば、厘は待ってくれたのかもしれない。とは言っても未だに、彼女にそんな優しさがあるのか疑問ではあるのだけれど。
「嘘じゃないわ。現実よ」
私は、悲鳴は上げなかった。水分という水分が、顔から滴るだけだった。私はベッドの上で膝を抱え、土で汚れたズボンの上に構わず顔を擦り付けた。それでも、現実は変わらなかった。
悪夢なんて覚めなかった。
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