第2話 契約

リズム良い音楽がグラウンドに鳴り響き、その音楽に合わせて体操をしている時、怒号が響いた。

「坂之上ぇぇぇぇぇ!!もっと手ぇ伸ばせぇぇぇぇぇ!!」

山川だ。言い方から分かる様にとてつもなくイラついてる。多分顧問をしているハンドボール部が何かをやらかしてその処分が山川ん所に回ってきたんだろ。

話を戻そう。俺は限界突破してるぐらい手を伸ばしている。これ以上伸ばすなら、手がゴムにならないと無理だ。多分、これも『あの事件』の八つ当たりだと思われる。だって、隣の奴等は全然伸ばしてないのに俺だけ言われてるもん。哀れな目で見られてるもん。てか、哀れまないで。本当に泣きそうになるから。

でも、本当にコイツの性格は悪い。悪過ぎる。本当に根に持つやつだ。未練がましいにも程がある。そんなんだから彼女いn

「坂之上ぇぇぇぇぇ!!それ以上言うなら、お前だけ走らすからな?その覚悟があるなら言えよ。」

悟られたのか?基本ポーカーフェイスなのに。息しかしてないのに。コイツまさか妖怪とか悪魔とかいう奴等か?信じてないけど。てか、信じる気すらないけど!!

「黒歴史の事は触れてすらないし。言ってもないし。傲慢かつ自己中過ぎんだろ。」

自分にしか聞こえないぐらい小さな声で話してるのに、隣の奴等は『またか。始まるぞ。』みたいな感じでチラチラ見てる。そんなに見られたら言えるものも言えない。

「坂之上。後で職員室な。」

非常に低く、とても自分のストレス発散の為にしか呼ばれないような気がするが一応了解の返事だけはしておく。

めでたく職員室への出向が決まったと同時に音楽が鳴り終わり、今日の授業内容が球技大会のサッカーの練習と告げられ、一部は喜び一部は落ち込んでいる時、大きな音がめちゃくちゃ近くに鳴った後、グラウンドの中心が凹んだ。3分の1の球で凹んだ。冗談なしに凹んだ。何も見えないのに凹んだ。

「全員、さっさと逃げろぉぉぉぉぉ!!」

山川は叫んだ。訳の分からない現象が起きて、俺達が混乱してる時に叫びながら逃げた。

その叫び声がトリガーとなったのか、皆は逃げ出した。ある者は山川よりも先に行き、ある者は山川に文句を叫びつつ逃げた。俺と仏を除いて。

山川の叫びに反応したのは生徒だけではなかった。何かがあると思われる場所からスライムが出てきたのだ。皆が逃げ出した時に。それも6体も。

俺は何かが聞こえた。それは仏も同じらしい。

『だ……か……んと……ち……なし……きいて……』

と。俺と仏は目を合わせ互いに聞こえた事を確認した後、どうすればいいのか分からなかった。当たり前だ。まだ高校に入学してから2ヶ月しか経ってない上に何が目的か分からなかったからだ。だから、俺等は異口同音に

「お前が逃げろ!!仏!!」

「僕は後から行く。先に行くんだ!!剣!!」

と。互いが大事で傷ついてほしくないから互いはそう言った。

そしてまた聞こえてくる。

『だれか……ちんと……たした……なしをき……ださい。』

さっきより大部分かる。それに、言いたいことが分かりやすい言い方だった。私たちの話を聞いて欲しいと。そう言ってると確信してる。だから、

「ここは俺が引き受ける。どうせ後で職員室に行かないといけない。俺なら、呼び出されてるし、変に仏が言ってお前の秘密を見破られるよりマシだ。だから、さっさと行け!!」

「……行きたくないけど行くよ……ゴメン……それと、絶対帰って来いよ!!」

(仏はいい奴だ。そして、ヤバイ時の対処なら、アイツの方が長けてるが、コイツらは多分仏が最大限譲歩しても名前で無理だろう。だから、俺が引き受けるのがベストだ。誠意を仇で返して悪いな。)

そう心の中で謝り、俺はスライムへと意識を移す。

「お前等は何者だ?何が目的だ?」

『……したち……くぐん……せいふ……』

何を言ってるのかが全く分からなかった。

「すまないがもっと話せる奴と話させてくれないか?」

『……った。』

分かったと言ったことを願っているといきなり、スライム6体が消え、悪魔っぽいのが出てきた。

『貴方が地球人の代表交渉人ですか?』

「はひ?」

訳が分からなかった。何言ってんだ?コイツ?

『ですから、貴方がこの星、地球から選ばれた代表で私達と交渉する為の交渉人ですか?と聞いてるんです。この言語分かりますか?分からないなら別の言葉で話しましょうか?』

「いやいやいやいや。分かってるから!てか、話がぶっ飛びすぎて付いていけてないから!さっきのスライムが言ってる言葉が分からなかったから話せる奴と交代してくれって頼んだんだよ!それがいきなり地球代表の交渉人って言われても訳分かんないから!それとも、こっちが言葉を変えた方がいいか?」

『なるほど。そうでしたか。スミマセン。私のミスです。スライムめ。もっと正しい情報を言えや。』

分かってもらえた気はするが、さっきのスライムへの愚痴が聞こえた気がするのは気のせいと信じたい。

『ここでは少し話しにくいですね。場所を変えましょう。どうぞ。』

そう言って悪魔が指を鳴らすと目の前にとても大きな球体が出現し、中に入るように促された。




『さて。貴方の要件を伺いましょうか。』

「お前等は何者だ?何しに来たんだ?」

『私達は貴方方で言う所の宇宙人に当たります。暗国軍と言えば分かりますでしょうか?』

知らない。俺は宇宙に全く興味がないから知ってる訳がない。そんな事なら、宇宙の事も知っている仏に任せれば良かった。

「残念ながら俺は宇宙なんかに興味はないから知らないな。もちろん、詳しい奴も居るし、俺の周りにもいる。」

『その方をお呼びするのは可能でしょうか?』

「無理だ。お前等がこんなに大事にしなければここに呼べたが大事になってるから確実に警察とかに来るのを止められる。」

『そうですか。』

悪魔は少し残念そうに言い、一呼吸置いた。

『なら、なんでテメェが残った。殺される事を覚悟してここにいるんだろうな?え?』

「えっと……どしたん?急に?」

『ゴチャゴチャうるせェなァ。黙る事も出来ねーのかよ。地球人は。まさか、俺が悪魔だって事忘れてんじゃねーだろうな?』

忘れてた。ここまで荒れてようやく思い出した。そうだ。コイツはいつでも俺を殺せる。完全に盲点だった。

『ふん。やっと分かったか。分かったなら良いとしよう。それなら、お前の置かれてる立場も分かってるはずだからな。』

人質として俺は今ここに捕まっている。誘拐犯に誘拐するからおいでって言われてほいほい着いてきた状態だ。俺最悪じゃん!誘拐されてる子供をこれでもう笑えないし。

『俺達の目的は地球の征服だ。地球人共と戦争だ。そして、俺等の植民星にここはなるんだよ。』

そう言われて本当に可能かどうかを考えてみる。

日本には自衛隊しか戦力がないから無理だとして、じゃあ日本に原爆を打つのは?無理だ。日本を征服すれば日本国民が次に人質になる。なら、日本国民を人質として使っている間に他の国に攻めたら?多分小さな国ならすぐに落ちるだろう。そして、塵も積もればって言うから……

そこまで考えて俺は思考を強制停止させた。これ以上考えても多分同じ結果にしかならないからだろう。

「……俺は何をすればいいんだ?」

『簡単さ。俺達のこの星を征服する為の参謀になれ。参謀になれば幾つかお前に特権をやろう。』

「その特権内容は?」

『それを今教えたら絶対に参謀になってくれるのか?』

そこですぐ返事が出来なかった。もし、嘘なら?本当だとしても大したことなければ?そうやって損なことばっかり考えていたからだ。

「明日まで落ち着く場所で集中して考えたいんだが……」

『良いだろう。但し、明日の午前6時までだ。その時間に秋刀魚公園に来い。そこで返事を聞く。異論は認めん。じゃあ、テメェはさっさと帰れ!!』

そう言われ、暗国軍の球体から降ろされた。




開放され、校舎に着くとまず、身体検査を受けさせられ、少し尋問されてから明日は学校が休みという事、仏が話したいからいつもの喫茶店で待っている事を知らされ俺は喫茶店に向かった。




「剣。単刀直入に聞くけど、あの後何があったの?」

そう聞かれ、俺は店員に頼み個室を用意してもらってそこであった事全部仏に話した。

「暗国軍がそんな事をねぇ〜。」

やっぱ仏は暗国軍の事を知っていたらしい。

「それで。剣はどうすんの?」

「俺は決めてないけど、お前ならどうする?」

「う〜ん。どうだろ。俺なら多分引き受けたと思う。」

「なんで?」

「剣は知らないだろうから教えるけど、暗国軍ってめちゃくちゃ強いんだよね。それこそ第二次世界大戦の日本とアメリカぐらいの差で。それなら、強い方に着いた方が良いじゃん。見返りもあるんだし。まぁ、そんな単純な答え以外にもあるんだけどね。」

仏が少し寂しそうな顔をしたのでこれ以上聞かないでおく。

「剣にオファー来てんだから、きちんと決めなよ?明日に殺されるって事はないと思うけど。」

「そうだな。じゃあ、帰ってじっくり考えるわ。」

「ここは俺が持つよ。」

「サンキュ。」

そして、俺は家路についた。




「ただいま。」

「なんだ。誘拐されたって聞いたから帰ってこなくて良かったのに。」

ちなみに今のは俺を恨んでる母親だ。というより、両親、祖父母、おじさんおばさん、生きてる家系の全員が俺を恨んでいる。

3年前のある日の事。俺には弟がいた。名前は坂之上盾(さかのうえじゅん)。歳は2つしか変わらない。何もかも持っているリア充みたいな奴だ。そんな弟は3年前、兄弟の毎朝の習慣だった早朝ランニングで走っているといきなりトラックが赤信号なのに突っ込んできた。俺は間一髪の所で避けたが盾は思いっきり跳ね上がり救急搬送された。だが、時既に遅く盾は死んだ。その裁判が今も行われているが身内としては盾ではなく、俺が死ねば良かったと思っている。だから、今回の誘拐で俺がそのまま死んだものだと思っていたらしい。

「晩飯はいらねーから」

その一言だけを残し、自分の部屋に入った。


部屋に入りケータイのSNSを弄っていると今日もやっぱりアイツがいた。

【よっ。沙っちゃん。】

【なんだ。サカナ君か。】

沙っちゃんこと神橋沙奈江かんばしさなえ。俺より1つ年上で、俺が好きな人だ。もちろん片思いだけど。ちなみにサカナ君は俺のこと。ここでのHNだ。

【沙っちゃん。今から会えない?】

【う〜ん。分かった。じゃあ、1時間後に秋刀魚公園で。】

【了解。】

俺と沙っちゃんの家は割と近かったのを知ったのは最近で、今までに2回会っている。リアル割れはあんまり良くないけど向こうが言ってきたなら教え返すのがマナーだと思っていたから教えたら隣県住みだった。ホントびっくりだ。可愛さにもびっくりだけど。


秋刀魚公園に着くと沙っちゃんはベンチに座って待っていた。

「お待たせ〜。」

「相変わらずの10分前行動だね〜。」

「そんな事ないよ。」

「それで。剣君から呼び出すって事はめちゃくちゃ大事な話があるんだよね?」

ホント。嫌なほどの鋭さだ。

「まぁね。」

「それで。何かな?」

「沙っちゃんはさ。人間を裏切れって言われたら裏切れる?見返りはあったとすれば。」

すると、沙っちゃんは迷わずに

「うん!」

と答えた。答え方も可愛いなぁ〜。

「えーっと、どうして?」

タブーな質問だったのか、そう聞くと、沙っちゃんは少し嫌な顔をして答えた。

「私ね、人間が嫌いなんだよね。例え誰であろうと。好きな人でも嫌いだし。今の矛盾してるけど、嫌い。誰も信用出来ないし、本当の私を認めてくれる人は居ないんだよ。それは剣君も同じ。だから、見返りがあれば二つ返事で了承するね。例え誰に止められても。」

「そっか……」

聞かなければ良かった。自分まで否定された。俺はやっぱ沙っちゃんの力になれないって完全に知ら示された。多分無意識の内に本当の沙っちゃんを否定していたんだろう。最悪だ。

「剣君はどうなの?」

「俺は……」

やっぱ聞き返された。当たり前と言えば当たり前だけど。

「俺はその時にならないと分からないかな。」

「ダウト!」

バレた。ホント怖いぐらい嘘を見抜くのが上手い。

「剣君は絶対裏切るもん。この1年ずっと見てきて、何人にも裏切られて、その度に壊れて行って。そんなの復讐の為とかで裏切るに決まってるじゃん。」

1ミリも間違えてない。ホント怖い。

「そこまで見てくれてたんだね……驚いたよ……」

「まぁね。これに懲りたら全部話してよ。年上に相談するのも大事だよ?」

全部話すしか道は無いので、全部話した。

「へぇ〜。そんな事がねぇ〜。というより、よく剣君生きていたね。良かった。」

「まぁね。」

素っ気なく返したが本当はめちゃくちゃ嬉しい。本当に心配してくれる人は沙っちゃんぐらいしか居ないから本当に嬉しい。

「私はね。どっちも正解でどっちも間違いだと思う。だから、最後は剣君次第だよ?」

「だよね。ありがとう。」

「いえいえ。お礼に今度遊ぶ時全額持ってくれると、お姉さん嬉しいなぁ〜。」

「……いつもそうしてるじゃん……」

最後はいつもみたいな会話が出来てホッとして、決心も着いた。

「じゃあね。」

「今度こそ遊ぶ為に呼んでよ?」

「はいはい。」

そうして、俺は家に帰った。




家に着くと、疲れからかすぐに眠りについた。そして、翌日の午前6時。秋刀魚公園で悪魔と対峙していた。

『返事は?』

「受けよう。」

『そうか。じゃあ、注意事項だ。今からお前の一言一句一挙一動が俺等に監視される。もちろん、ネットでもだ。裏切ったらその時点でお前を殺す。ちなみに昨日、あの後ならお前は2回死んでたからな。気を付けろよ。』

「お、おぅ。」

『じゃあ、3時間後にまたここに来い。』

こうして、俺は悪魔と契約を結び、人間を裏切って人間を辞めた。

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